種類株式について

第1 「種類株式」とは

コラム「株主の権利」でお話しした内容は、“株主になったらできること”の原則形態です(なお以下この原則形態の株式を「普通株式」と呼びます)。普通株式を取得して株主になると、1株ごとに1つの議決権と剰余金の配当を受ける権利を取得します。ただ経営者側または株主側としては、普通株式の内容では不満がある場合があります。例えば、株主が会社の経営に強い関心を示している場合に、会社経営者としては、発言権を強くしたり逆に発言できないようにしたりすることが考えられるでしょう。また株主になろうとする者からすると、会社の状態によっては、より多くの経済的利益をもらえないのであれば出資はしないと考えることもあるでしょう。このような多様なニーズを受けて、会社法は普通株式の内容とは異なる株式も発行できることにしました。この株式のことを「種類株式」と言います。

なお「種類株式」という言葉は、「内容の異なる2以上の種類の株式を発行した場合の、その株式」と定義づけられることがありますが、このコラムでは「普通株式+αの株式」という意味でお話ししたいと思います。

第2 各種の種類株式

会社法では、以下の10種類の「+α」を認めています。

1 剰余金の配当に「+α」のある株式(会社法108条1項1号)

普通株式を基準にして、剰余金の配当を受ける権利に優劣をつけた株式のことを言います。具体的には、優先的に配当を受けられる株式(「優先株式」)や普通株式の配当後でないと配当が受けられない株式(劣後株式)があります。また優先株式の中には、優先的に配当を受けた後、普通株式の株主が剰余金の配当を受ける際にもう一度配当を受けられるタイプの株式もあります。

なお、“資金の提供+対価としての利益”という構造は、株式という概念の根幹をなすものです。したがって、剰余金の配当が一切受けられない株式を発行することはできません(会社法105条2項)。

2 残余財産の分配に「+α」のある株式(会社法108条1項2号)

会社が破産や合併等によって消滅するときは、清算手続というものを行います。清算手続とは、会社というロボットを構成していた部品をどう処理するのか、という問題です。この部品というのが会社の財産のことを指すのですが、会社法ではその財産で借金を返済した後に、残った財産を株主に分配することになっています(会社法502条本文、504条3項参照)。この残余財産の分配に関して、剰余金の配当の場合と同様に、優劣をつけた株式を発行することができます。

3 議決権制限株式(会社法108条1項3号)

株主は、原則として1株式につき1議決権を有しており、株主総会で取締役などのやることに賛成・反対の票を投じることができます。この議決権を行使できる事項について制限を加えた株式のことを「議決権制限株式」と呼びます。制限の態様は、全ての事項について議決権を認めないものから、役員の選任決議(会社法329条1項)など一定の事項についてのみ議決権を認めないとするものなど様々なタイプが存在します。

なお下記の譲渡制限のない会社(公開会社)では、原則として発行されている株式の2分の1を超えて議決権制限株式を発行してはならないとされています(会社法115条)。公開会社では、多くの投資家が株主になり、それによって多様なニーズが発生することが予定されているので、株主の意見を封じて経営者の都合の良いことばかりされては困るからです。

4 譲渡制限株式(会社法108条1項4号)

株式は自由に売り買いできるのが原則なのですが(会社法127条)、株式を譲渡するためには「会社の承認を要する」という制限をつけることができます。このような制限のついた株式のことを「譲渡制限株式」と呼びます。一般的には、中小企業や同族企業において、株式が不必要にばら撒かれ、見知らぬ他人の手に渡ったりすることを防ぐ目的で利用されています。

なお譲渡制限株式の取扱いについては、コラム「株式の譲渡について」を参照して下さい。

5 取得請求権付株式(会社法108条1項5号)

株主は会社に対して“出資したお金を返せ!”ということは原則としてできません(詳しくは、コラム「株式の譲渡について」参照)。いつでも出資金の返還ができるとしてしまうと、会社の事業のために使う資金が枯渇するおそれがあるからです。もっとも出資金の返還を禁じるのは会社財産を安定化させる趣旨ですから、会社が株主からの請求に応じることができるのであれば、例外的に認めてもよいでしょう。会社法は、「+α」として、株主が会社に対して株式を買い取るよう請求できる権利をつけることを認めています。このような株式のことを「取得請求権付株式」と呼びます。

6 取得条項付株式(会社法108条1項6号)

取得請求件付株式とは反対に、一定の事由がある場合に、会社が株主の保有する株式を強制的に取得することができる旨を定めた株式も発行することができます。このような株式のことを「取得条項付株式」と呼びます。

7 全部取得条項付株式(会社法108条1項7号)

「全部取得条項付株式」とは、株主総会の特別決議(会社法309条2項3号)によって、その株式を全て会社に取得させることができる株式のことを言います。

なお「6 取得条項付株式」とは、以下の点で性質が異なりますので、注意が必要です。

①会社が株式を取得する方法

取得条項付株式は、あらかじめ定款に定めた一定の事由が認められなければ、会社は株式を取得することができません。

これに対して、全部取得条項付株式は、株主総会の特別決議があれば、その理由にかかわらず会社は株式を取得することができます。

②対象となる株式

取得条項付株式の場合、会社は、特定の株主からのみ株式を取得する、という方法をとることができます。

これに対して、全部取得条項付株式の場合、会社は、発行済みのすべての全部取得条項付株式を取得することのみ許され、一部の株主からのみ取得するということはできません。

8 拒否権付株式(会社法108条1項8号)

コラム「会社の機関」でお話ししたとおり、会社が何を行うかは株主総会または取締役会の決議によって決めます。会社は、この決議のほかに、ある特定の種類株式を保有する株主を構成員とする株主総会(種類株主総会)の決議を必要とする、という取扱いをすることができます。このような内容の株式のことを「拒否権付株式」と呼びます。この株式を保有する株主の承認がなければ会社は活動できない、という極めて強力な効果がありますから、「黄金株」と呼ばれることもあります。

9 役員選任権付株式(会社法108条1項9号)

会社の経営を担当する取締役および監査役の選任を、特定の株主に委任した方が良い場合があります。これらの役員の選任をする権利をつけた株式のことを「役員選任権付株式」といいます。役員の選任は全ての株主によって構成される株主総会の決議によって行われるのが原則ですが(会社法329条1項)、役員選任権付株式を発行すると役員の選任は当該株式を保有する株主によって構成される株主総会の専決事項になる点に特徴があります。

役員先任権付株式は、株主が2つの派閥に分かれている会社で、それぞれの派閥から役員を選出できるように2種類の役員選任権付株式を発行する、という方法などで利用されます(このような選任方法を「クラス・ボーディング」と呼びます)。

なお役員選任権付株式は、委員会設置会社以外の非公開会社でしか発行することができません(会社法108条1項但書)。この株式は、経営者による会社支配の手段として利用することができるので、多くの投資家が株主になることが予定されている公開会社で行われると株主が困ると考えられたためです。

10 属人的株式(会社法109条2項)

上記9種類の種類株式は、“異なる種類・内容の会員証”を想像すると分かりやすいかと思います。例えば、普通株式が初めて買物したときにもらえる会員証だとすれば、上記の種類株式はよりお得なサービスが受けられるゴールド会員証のようなものです。この普通の会員証とゴールド会員証の間にはサービス内容の差はありますが、それぞれの会員証を持っている人の間には差はないという点に特徴があります。

これに対し、普通の会員証しか持っていないけど特別にサービスをする、ということもあります。例えば、下町ドラマなどでみられる“子どもがひとりで買物にきたご褒美としておまけをする”という場面があげられます。ここでの特別なサービスは、いわばその人の“人柄・個性”に着目したものです。株式の場合も、保有する株式の種類・内容にかかわらず、剰余金の配当を受ける権利、残余財産の分配を受ける権利、議決権について、人に着目して異なる取扱いをすることができる場合があります(会社法109条2項)。このような株式のことを属人的株式と言います。属人的株式は、「Aさんは1株式につき5この議決権を行使できる」などのかたちで利用されます。

なお上記9種類の種類株式とは、登記をする必要がない(会社法911条3項参照)、定款変更の要件が重くなる(会社法309条4項)という点において異なります。また、非公開会社でないと発行することができませんので注意して下さい。

第3 種類株式の発行方法

1 原則的な発行方法

種類株式とは「普通株式+α」のもの、つまり会社や出資者のためのオプションです。そして、種類株式の内容は、会社というロボットの活動に大きな影響力を持つものです。例えば、拒否権付株式があると、その株主が承諾しない限り、会社は活動できないことになります。したがって、コラム「定款に記載すべき事項」でお話ししたとおり、設計図である定款に記載する必要があります(記載する内容については、会社法107条2項、108条2項、109条2項参照)。

会社設立後に種類株式を発行することになった場合には、株主総会の特別決議によって定款を変更しなければなりません(会社法466条、309条2項11号)。この特別決議は、議決権を有する株式の過半数の株主が株主総会に出席して、出席した株主の議決権の3分の2以上の多数をもって行われるのが原則です(会社法309条2項柱書)。

もっとも、株式の内容によっては、変更によって株主に重大な影響を与えますから、一定の場合には定款変更の要件が加重されたり特殊な手続が付加されたりします。以下、種類株式を発行する場面ごとに必要となる手続を説明します。

2 発行する種類株式ごとに必要となる手続

(1) 既存の株式の全ての内容を変更する場合

会社は、全ての株式を、譲渡制限株式、取得条項付株式、取得請求件付株式に変更することができます(会社法107条1項参照)。定款変更のための要件は以下の通りです。

① 譲渡制限株式

株主総会の特別決議ではなく特殊な決議が必要となります(会社法309条3項)。すなわち、定款を変更するためには、株主総会で議決権を行使することができる株主を頭数で数えてその半数以上が賛成して、かつその賛成の数が議決権を行使できる株主の議決権の3分の2以上にあたることが必要です。

譲渡制限株式になることに反対の株主は、保有する株式を買い取るよう会社に対して請求することができます(会社法116条1項1号)。

② 取得請求件付株式

原則通りの手続になります。

③ 取得条項付株式

株主総会の特別決議ではなく、株主全員の同意が必要です(会社法110条)。

(2) 既存の一部の種類株式についてのみ内容を変更する場合

原則として上記の特別決議のみで足ります。但し、以下に種類株式に関しては一定の手続が必要です。また、その種類株式が発行ないし変更されると、他の種類株式の株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、その種類株主総会の特別決議が必要となります(会社法324条2項4号、322条1項1号)。

① 譲渡制限株式

譲渡制限株式となる株式の株主を構成員とする種類株主総会の特殊な決議が必要となります(会社法324条3項1号、111条2項)。すなわち、種類株主総会で議決権を行使することができる株主を頭数で数えてその半数以上が賛成して、かつその賛成の数が議決権を行使できる株主の議決権の3分の2以上にあたることが必要です。

譲渡制限株式になることに反対の株主は、保有する株式を買い取るよう会社に対して請求することができます(会社法116条1項2号)。

② 取得条項付株式

取得条項付株式となる株主全員の同意が必要となります(会社法111条1項)。

③ 全部取得条項付株式

全部取得条項付株式となる株式の株主を構成員とする種類株主総会の特別決議が必要です(会社法324条2項1号、111条2項)。すなわち、議決権を有する株式の過半数の株主が種類株主総会に出席して、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成によって可決されます。

譲渡制限株式になることに反対の株主は、保有する株式を買い取るよう会社に対して請求することができます(会社法116条1項2号)。

④ 属人的株式

株主総会の特別決議ではなく特殊な決議が必要となります(会社法309条4項)。すなわち、定款を変更するためには、総株主の半数以上が賛成して、かつその賛成の数が総株主の議決権の数の4分の3以上にあたることが必要です。

(3) 種類株式を追加する場合

株主総会の特別決議(会社法309条2項11号)が必要です。また、ある種類株式の株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、その種類株主総会の特別決議も必要となります(会社法324条2項4号、322条1項1号)

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