組織再編の手続

第1 はじめに

組織再編とは、いわば会社というロボットを改良したり、既存のロボットを元にしてロボットを新たに作り出したりする(以下、「ロボットの改良等」)ための手続であることは、コラム「組織再編とは」で説明しました。では、組織再編を実施するにあたって、どのような手続が必要となるでしょうか。会社をロボットに例えて、どのような手続が必要になるか考えてみましょう。

組織再編は、ロボットとの改良等を行った後に、“新しいロボットを世の中に出す”という点では会社を設立する場面と共通します。そうすると、会社を設立する場合と同様に、“どのような目的・性能のロボットを作るのか”を示す設計図をつくる必要があります(会社の設立については、コラム「会社設立の流れ」を参照)。

他方、会社設立の場面と異なり、ロボットの改良等を行う場面では、多くの出資者や利害関係を有するに至った第三者(以下、「利害関係者」)が、既に存在しています。仮に、勝手にロボットの改良等を行ってしまうと、ロボットの形状や性能に大きな違いが生じることから、出資者や利害関係者としては困ってしまうおそれがあります。そうすると、改良等を行うことをお知らせして、出資者や利害関係者にとって不測の事態が生じることを避ける必要があります。

組織再編手続の中で大事な要素は、以上の①改良後のロボットの設計図をつくる、②出資者や利害関係者に配慮する、の2点です。以下、この要素に着目して、組織再編の大まかな流れを説明いたします。なお、組織再編の種類によって、要求される内容に若干の違いがあります。この点は、引用条文等を参照してください。

第2 組織再編の手続の概要

1 改良後のロボットの設計図をつくる -契約の締結・計画の作成-

ロボットの改良等を行うとしても、無計画に進めることはなく、最初にどのような改良等を行うかを記した設計図を作成することでしょう。これは、上記の通り、ロボットを新たに世の中に出すという点では、ロボットを1からつくり出す場面と共通しますから、当然必要とされる作業だと言えます。

会社法上も、組織再編手続は“設計図”を作成するところから始まります。この“設計図”は、吸収・新設合併(会社法748条)、吸収分割(会社法757条)及び株式交換(会社法767条)の場合には「契約」、新設分割(会社法762条1項2項)及び株式交換(会社法772条1項2項)の場合には「計画」という呼び方をします。

設計図といっても、いい加減な内容では、後に“不具合”が生じるおそれがあります。よって、設計図の内容は、キチンとしたロボットに仕上がることが分かる内容でなければなりません。そこで会社法は、“設計図”に記載すべき事項を定めています。具体的な内容については、吸収合併は会社法749条、新設合併は会社法753条、吸収分割は会社法758条、新設分割は会社法763条、株式交換は会社法768条、株式移転は会社法773条を参照してください。

2 設計図に基づきロボットの改良等を行う旨を伝える -事前開示及び通知・公告-

上記の通り、ロボット等の改良等をいきなり始めると、出資者や利害関係者は驚き困ってしまうおそれがあります。そこで、改良等を始める前に、改良等の概要についてキチンとお知らせをしておく必要があります。

会社法では、以下のような“お知らせ”に関する手続を用意しました。

①“設計図”の内容等の開示

会社法では、組織再編に関する一定の事項を、一定期間会社の本店に備え置き、閲覧等に供することが義務づけられています(会社法782条1項、794条1項、803条1項参照)。ここのいう一定の事項とは、“設計図”の内容だけでなく、改良等を行っても会社に“不具合”が生じないこと(対価の額が相当か?承継する借金の支払いの見込みはあるか?等)といった情報も含まれます。

②株主や債権者に対する個別の通知

株主に対しては、後述する株主総会の招集手続の中で、組織再編が行われることの通知がなされます(会社法301条、302条参照)。また後述する救済手続についての案内を、組織再編の「効力発生日」の20日前までに通知しなければなりません(会社法785条3項4項、797条3項4項、806条3項4項)。

債権者に対しては、後述する救済手続についての案内を、官報に公告し、かつ知れている債権者に対しては個別に「催告」をしなければなりません(会社法789条2項、799条2項、810条2項)。

3 出資者の承認を得る -株主総会の特別決議-

ロボットの改良等は、そのロボットの形状や性能など、ロボットの根本に関わることですので、ロボットの所有者である出資者の承認を得て実施するのが望ましいでしょう。

会社法でも、コラム「会社の機関」でお話しした通り、組織再編は会社の在り方の根本に関わる事項であるとして、原則として株主総会の承認決議が必要だとしています(会社法783条1項、795条1項、804条1項、決議の方法につき会社法309条2項12号)。但し、組織再編が行われる状況において、会社の所有者である株主の意思を確認する必要性がない(または低い)場合には、株主総会の承認決議は不要となります。具体的には、当時会社の規模からすると株主に対する不利益が小さい場合(「簡易組織再編」(会社法784条3項、796条3項、805条))や、当時会社が一方の会社の大株主で株主総会の帰趨が明らかな場合(「略式組織再編」(会社法784条1項、796条1項))のことを言います。

4 不服のある出資者等に対応する -救済手続-

ロボットを改良等は、ロボットが活動する上で必ずしも必要な制度ではありません。それにもかかわらず、ロボットが合体した場合には元のロボットの形状が失われるなど、ロボットにとって非常に大きな変化をもたらします。したがって、ロボットの改良等に不服がある者に対して、一定の配慮をすることが求められるでしょう。

会社法上の組織再編の場合でも同様です。組織再編の場合は、さらに合併であれば会社自体が消滅するなど、会社の株主や債権者に対して深刻な影響を与えることが予想されます。このような性質があることから、他の会社の活動とは異なり、会社と利害関係のある株主や債権者を特別に保護する手続を用意しました。

①株主について

まず組織再編に反対する株主(「反対株主」)は、一定期間(20日間)自己の保有する株式を「公正な価格」で買い取るよう、会社に対して請求することができます(会社法785条1項、797条1項、806条1項)。ここにいう「反対株主」とは、原則として、上記株主総会に先立って組織再編に反対する旨を会社に対して通知をし、かつ株主総会当日に反対の議決権を行使した株主に限定されます。株主総会で議決権を株主総会での承認を得て、いざ組織再編を行おうという段階になって、突然組織再編に反対する株主が増えると会社側(取締役)としては困るからです。もっとも、株主総会に参加し、かつ議決権を行使できることが前提ですから、①そもそも株主総会での承認を経ない組織再編の場合には全ての株主、②株式の性質上、株主総会で議決権を行使することができない場合にはその株式を保有する株主も「反対株主」として扱われます。

②債権者について

組織再編には大きな財貨の移動が伴いますので、債権者が自己の債権を回収できなくなるおそれがあります。そこで、組織再編によって損をするおそれのある一定の債権者は、上記の通知を受けた後一定期間(最低1ヶ月)会社に対して異議を述べることで、弁済を受ける等の救済をえることができます(会社法789条1項5項、799条1項5項、810条1項5項参照)。

5 新たなロボットとして活動を開始する -組織再編の効力発生日-

ロボット同士が合体などして、1つと新しいロボットを創出する場合には、“ナンバープレートを取得する必要があるでしょう(“ナンバープレート”についてはコラム「会社設立の流れ」参照)。これに対して、既に存在するロボットを改良するだけであれば、ロボットのいつから活動を開始するかは、そのロボットを操縦するパイロットや出資者の自由だと言えます。

会社を新しく設立する組織再編(新設合併、新設分割、株式移転)の場合、設立した会社の登記をした日に組織再編の効力が生じます(会社法754条1項、764条1項、774条1項)。他方で、既存の会社同士で行われる組織再編(吸収合併、吸収分割、株式交換)の場合には、その会社の意思通り、すなわち最初の“設計図”=契約で定めた効力発生日に効力が発生します(会社法750条1項、759条1項、769条1項)。

効力の発生する日から、新たな会社として活動を開始することができますが、効力発生後も以下のような手続をしなければならない点に注意が必要です。

  1. ① 吸収合併、吸収分割の場合には、効力発生日から2週間以内に登記をしなければなりません(会社法921条、923条)
  1. ② 組織再編が適切に行われたことを示す記録を、組織再編の効力発生日から6ヶ月間、会社の本店に備え置き、閲覧等に供することが義務づけられています(会社法791条1項、801条1項、811条1項、815条1項)。
※会社の新設について

新しく会社を設立する組織再編においては、コラム「会社設立の流れ」で説明した会社設立の手続の大部分が不要となります(会社法814条参照)。

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