従業員の個人情報・プライバシーをめぐる諸問題

第1 はじめに

会社を経営するにあたり、従業員の様々な個人情報を扱います。そこで今回のコラムでは、個人情報を扱う際に気をつけて欲しいことを簡単にお話したいと思います。

第2 電子メールの私的使用及びモニタリング

近年はパソコンや電子メールの使用が業務遂行に必要不可欠となっています。そして、パソコン・電子メールの使用が普及してくるにつれ、会社で付与している電子メールを、就業時間中に私用目的で使用するといった事態が見られるようになりました。

本来、社内のパソコンやネットワークは、会社が従業員に対して業務遂行のために使用を許可しているものですから、原則として業務以外に使用することはできません。また、私用メールは業務の生産性を阻害しますし、コンピュータウイルスへの感染というリスクもあります。そこで、雇用主としては何らかの対策をとる必要があります。ただし、電子メールの閲覧は従業員のプライバシー侵害にあたるおそれもあるため、どのような対策をとればいいかはしっかりと考えなければなりません。

裁判例においては、監視の目的、手段及びその態様等を総合考慮し、監視される側の不利益を比較衡量の上、社会通念上相当な範囲を逸脱した監視がなされた場合に限りプライバシー侵害が成立するとしたものが多いです。

なお、経済産業省のガイドライン(平成21年10月9日厚生労働省・経済産業省告示第2号)では、従業員のモニタリングを実施する上での留意点として次の4点があげられています。

  1. ① モニタリングの目的、すなわち取得する個人情報の利用目的をあらかじめ特定し、社内規程に定めるとともに、従業員に明示すること
  2. ② モニタリングの実施に関する責任者とその権限を定めること
  3. ③ モニタリングを実施する場合には、あらかじめモニタリングの実施について定めた社内規程を策定するものとし、事前に社内に徹底すること
  4. ④ モニタリングの実施状況について、適正に行われているか監査又は確認を行うこと

これらを参考にして、雇用主としては、以下のような対応をとるとよいでしょう。

・就業規則にパソコンのモニタリングをすることがあることを規定しておく

・従業員に対し、私用メールをしないことを周知しておく

・必要に応じてモニタリングすることがあることを事前に周知しておく

・モニタリングについての責任者と権限を定める

第3 懲戒処分の公表

懲戒処分の内容を社内掲示することで、プライバシー侵害や名誉毀損の問題が生じることがあります。

裁判例には、懲戒解雇の理由として極めて重大な不正行為があったことをことさらに強調し、非難する内容の文書の配布掲示を全従業員に対し例外なくした事案において、名誉毀損を肯定し慰謝料30万円を容認したものがあります(東京地裁昭和52年12月19日判決)。このような裁判例もありますので、懲戒処分を公表する場合には、その方法を考える必要があります。

第4 所持品検査

たとえば、会社の備品が頻繁に紛失するとか、従業員が持込みの許されない物品を所持している疑いがあるなどという場合に、所持品検査をすることはできるのでしょうか。

この点について、鞄やロッカーの中、着衣のポケットの中を検査することは従業員のプライバシーを侵害する行為ですので、無制限に所持品検査をすることはできません。所持品検査についてのリーディングケースである最高裁判例(最高裁昭和43年8月2日第二小法廷判決)によると、所持品検査「を必要とする合理的な理由に基づいて、一般的に妥当な方法と程度で、しかも制度として職場従業員に対し画一的に実施されるものでなければならない。そして、このときは、・・・従業員は、個別的な場合にその方法や程度が妥当を欠く等、特段の事情がないかぎり、検査を受忍すべき義務がある」という判断がなされています。

この最高裁判例を参考にすると、所持品検査の適法性は、①所持品検査を必要とする事情、②検査実施の具体的経緯、③所持品検査の態様、等から判断されています。また、そもそも所持品検査を行うには、就業規則等に根拠規定を置くことが必要なので、就業規則の整備も必須です。

第5 盗聴・盗撮

1 雇用主による盗聴・盗撮

たとえば、裁判例には、ロッカー内を無断で撮影したり(最高裁平成7年9月5日第三小法廷判決)、従業員控室に盗聴器を設置したりしたこと(岡山地裁平成3年12月17日判決)に対して慰謝料請求が認められたものがあります。

当然ですが、会社の施設内とはいえ、むやみに盗聴や盗撮をすることは許されません。

2 従業員による盗聴・盗撮

従業員が好意を持った他の従業員を隠し撮りするといったことが起きると、雇用主側の管理責任が問題になることがあります。

裁判例には、男性従業員が女性更衣室を隠し撮りした事案において、職場環境整備義務違反を理由として損害賠償責任を認めているものがあります。

第6 健康情報

HIV感染やB型肝炎等、職場で感染・蔓延する可能性が低い感染症に関する情報や、色覚検査等の遺伝情報について、職業上の特別な必要性がある場合を除いて従業員から取得するべきではありません。

必要があって従業員から取得した健康情報についても、労働安全衛生法という法律で守秘義務が定められていますし(105条)、誤って情報を流出させてしますと会社の信用にも関わってきますので、厳重な管理をしてください。

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