懲戒解雇とその範囲

第1 はじめに

懲戒解雇とは、企業秩序の違反に対する制裁として行われる解雇のことです。

懲戒処分としてもっとも重いものであり、再就職の大きな障害になりうるなど、従業員の受ける不利益の程度は非常に高いといえるでしょう。

ここで、懲戒解雇と普通解雇との違いを簡単に述べたいと思います。

両者は、雇用主が一方的に従業員との雇用契約を終了させる点では共通します。

しかしながら、両者は法律上の位置づけが異なります。すなわち、普通解雇が民627条1項に基づく雇用契約の中途解約であるのに対し、懲戒解雇は懲戒権の行使です。

これが何を意味するかというと、仮に訴訟で「従業員を懲戒解雇した」と主張をしている場合、その主張が認められそうにないからといって、「今回の解雇は普通解雇だった」と主張を変更することはできないということです。ですから、いざ従業員を解雇するときには、普通解雇なのか懲戒解雇なのかをはっきりさせないと、後に解雇が無効と判断されることもありますので注意が必要です。

なお、懲戒解雇と普通解雇の両方が可能な場合にあえて普通解雇とすることには何ら問題はありません。

第2 従業員を懲戒解雇するためには

1 手続

(1) 就業規則への記載

最高裁判例によると、雇用主が従業員に懲戒処分をするためには、就業規則に懲戒処分の「種別」と「事由」が記載され、その就業規則が周知されていることが必要です(最高裁平成15年10月10日判決-フジ興産事件)。

したがって、この判例に照らすと、就業規則のない会社、就業規則があっても解雇に関する規定がない会社、規定があっても周知していない会社は、懲戒解雇ができないということになります。ですから、もし就業規則の整備をしていない雇用主の方がいましたら、早急に整備する必要があります。

(2) 従業員からの弁解を聞く機会

就業規則や労働協約に従業員からの弁解の機会(弁明の機会)を保障している場合には、その手続をとらなければいけません。

反対に弁明の機会について規定がない場合には、任意に機会を設けることが望ましいですが、必須ではありません。裁判例にも、弁明の機会を与えなくても懲戒解雇は違法ではないとしたものがあります(東京地裁平成16年12月17日判決)。ですから、現段階で就業規則等に弁明の機会についての規定がない場合には、あえてその規定を設ける必要はないでしょう。

(3) 出勤停止・自宅待機命令

懲戒解雇を行うに際し、懲戒事由にあたる事実を裏付けるための記録作りは必須です。そこで、雇用主としては、従業員による証拠隠滅を防止し、また、職場の混乱を防止するために、必要に応じて出勤停止や自宅待機命令等の措置を行うことも考えられます。

(4) その他 

このような措置をとったとしても、懲戒解雇が懲戒権の濫用として無効となることもあります(労働契約法15条)。

2 解雇予告・予告手当不支給

従業員を解雇する場合には、原則として30日前の解雇予告又は予告手当の支給が必要です(労働基準法20条1項本文)。しかし、懲戒解雇の場合は「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合」(労働基準法20条1項ただし書)に当たる場合が多いため、解雇予告・予告手当の支給は不要となる場合もあります。ただ、解雇予告・予告手当の支給を免れるためには、所轄労働基準監督署長の解雇予告除外認定を受ける必要があります。この除外認定はかなり厳格に行われますので、懲戒解雇の場合でも念のため解雇予告・予告手当の支給をしておく方が無難でしょう。

3 退職金不支給

懲戒解雇されると、退職金は支給されないとイメージしている方が多いかもしれません。しかし、懲戒解雇の場合に退職金が支払われないのは、会社の退職金規程等に懲戒解雇の場合は退職金を支払わない旨の規定があるからであって、当然に「懲戒解雇有効=退職金不支給も許される」という関係に立つものではありません。したがって、退職金規程等の規定の仕方によっては懲戒解雇の場合も退職金支払いの対象になってしまいますので、一度規定を確認してみてください。

第3 懲戒事由

「懲戒事由」とは、簡単にいうと、どんな行為をすると懲戒処分をされてしまうのかについて定めたものです。一般的な懲戒事由について、判例の傾向を見ていきたいと思います。

なお、懲戒解雇時に主張した懲戒解雇事由は、原則として後に追加・変更することができません。ですから、懲戒解雇をはじめとする懲戒処分をする際には、懲戒事由についてきちんと調査を行う必要があります。

1 経歴詐称

軽微な経歴詐称ではなく、雇用主が真実を知っていればその従業員を採用しなかったであろう重要な経歴を詐称した場合は懲戒解雇が有効となります。たとえば、高卒であるのに中卒と申告し、その他職歴、家族関係にも虚偽の申述をした場合に懲戒解雇を有効とした裁判例があります(東京高裁昭和56年11月25日判決)。

2 職場規律違反

たとえば、職場における横領・背任などの金銭的な不正行為は、金額にかかわらず懲戒解雇有効という判断がされています(札幌地裁平成17年2月9日判決)。

一方、職場における暴行・暴言は、具体的事情にもよりますが、懲戒解雇を有効とする判断がされた例は少ないようです(大阪地裁平成12年5月1日判決)。

3 職務状況不良

たとえば、無断欠勤、遅刻過多、勤務成績不良、職場離脱などです。これらの行為が、1度だけでなく何度も繰り返されることで、企業秩序維持の観点から許し難い場合には、懲戒解雇が有効となります(東京地裁平成6年5月17日判決)。

4 業務命令違反

たとえば、残業命令拒否、休日命令拒否などです。これらについても、度重なる命令違反があると懲戒解雇が有効になります。雇用主の命じた所持品検査を拒否したことを理由とする懲戒解雇を有効とした判例があります(最高裁昭和43年8月2日判決)。

5 私生活上の行為

従業員の私生活上の行為によっても企業秩序を乱される可能性があります。しかし、そもそも、雇用主は従業員の私生活を管理することはできませんから、私生活上の行為によって懲戒解雇ができるかは、厳格に判断される傾向にあります。

以下、私生活上の行為として問題になりやすい行為を紹介します。

① 犯罪・非違行為

(ア)飲酒運転

従来から、バス運転手などの職業運転手については、事故がなくても懲戒解雇が有効という判断がなされていました(千葉地裁昭和51年7月15日決定)。

一方で、職業運転手以外の飲酒運転については、懲戒解雇は無効と判断されることが多いといえます(大阪高裁平成21年4月24日判決)。

(イ)痴漢

電鉄会社の従業員が痴漢行為をしたことを理由に懲戒解雇を有効とした裁判例があります(東京高裁平成15年12月11日判決-小田急電鉄事件)。もっとも、この事例の従業員は半年前にも電車内で痴漢行為をして罰金刑に処せられたほか昇給停止および降職の懲戒処分を受けており、さらに再度痴漢行為をした時点が会社および従業員をあげて痴漢撲滅に取り組んでいる最中だったため、会社の社会的名誉・信用を著しく損なうと評価されたため、懲戒解雇を有効としたと考えられます。

したがって、あまり一般化するのは難しく、一般論として一度の痴漢行為によって懲戒解雇処分を科すことは難しいといえるでしょう。

(ウ)暴行・傷害

職場や就業時間中の暴行・傷害行為は懲戒解雇事由に該当し得ます。もっとも、懲戒解雇を認めるためには重大な企業秩序違反があることが必要ですので、単なる同僚同士の喧嘩といった場合には、相手のケガの程度にもよりますが、懲戒解雇処分をすることは難しいといえるでしょう。

また、会社外での暴行・傷害の場合も、会社の名誉・信用性を毀損するような特別な事情がない限り、懲戒解雇事由とするのは難しいといえます。

② 兼職・兼業

別会社の勤務が長時間に及び労務提供に支障がある場合(東京地裁昭和57年11月19日決定)や、競業会社の取締役に就任した場合(名古屋地裁昭和47年4月28日判決)を除き、懲戒解雇は無効と判断されることが多いです。

③ 内部告発

公益通報者保護法は、従業員が公益情報を監督官庁に通報したことを理由とする解雇を無効としています(公益通報者保護法3条・5条)。

第4 最後に

雇用主としては、従業員を大切にしたいと考えつつも、苦渋の決断として解雇を選択せざるを得ないときがあると思います。そして、解雇を適切に行うためには、正社員を解雇しにくいという日本の雇用システムを深く理解し、必要な対応をとることが必要です。解雇を行っても後に解雇無効と判断されては会社に多大な損失をもたらすことにもなりますので、万全を期すためにもぜひ一度ご相談ください。

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