会社法トラブルその5 株主総会決議取消しの訴え他

第1 はじめに

まず会社法から離れて、私たちが「家を買う」「お金を借りる」といった意思決定をする場面を想定してみましょう。この意思決定の内容や過程に“不具合”があった場合、例えば「違う物件と勘違いしていた」「相手方に騙された」といった事情がある場合、契約はどうなるでしょうか。民法の規定によれば、意思表示が無効になり(民法95条本文)、または意思表示を取り消して(民法96条1項)、契約をなかったことにすることができることがあります。

これと同様のことは、株式会社の意思決定という場面でも出てきます。コラム「会社の機関」で、株式会社の事業活動のうち、以下のような重要な事項については、必ず株主総会で意思決定するとお話ししました。

  • 定款変更や合併など株式会社の構造を根本的に変更するようなこと
  • 取締役などの機関の選任・解任
  • 会社の決済に関すること
  • 剰余金の配当など株主の重要な利益に関すること
  • 取締役の報酬決定など取締役の専横の危険があること

取締役会を設置していない会社の場合には、さらに広範囲の事項を株主総会で意思決定することになります。

さて株式会社も、人と同様に、世の中で活動するものですから、意思決定の内容や過程に“不具合”があった場合には、これを救済する手段があって然るべきです。そこで会社法は、この株主総会の決議の内容や手続に“不具合”が発生した場合に、株主総会決議を事後的になかったことにすることができる手続として、「株主総会決議取消しの訴え」(会社法831条1項)、「株主総会決議無効確認の訴え」(会社法831条2項)及び「株主総会決議不存在確認の訴え」(会社法830条1項)の3つ訴え形式を用意しました。以下、それぞれの訴えについて詳しく説明します。

第2 株主総会決議取消しの訴え

1 いつ、誰が訴えを提起することができるのか

株主総会決議取消しの訴えは、決議の日から3ヶ月以内に限り、その株式会社の株主、取締役、監査役、執行役及び清算人が、訴えを提起することができます(会社法831条1項)。後述する通り、株主総会決議無効確認の訴え及び不存在確認の訴えにはこのような制限はありません。それには以下のような背景があると考えられます。

株主総会決議取消しの訴えにおいて、取消し事由となるのは、下記のような株式会社の関係者でないと容易に知りえないような手続上の“不具合”が主なものです。そして「取消し」という言葉は、取り消されるまでは有効なものとして扱われることを意味します(民法121条参照)。そうすると、株主総会決議に基づいて株式会社が日々取引を行う中で、何年か経過してから外部の者が容易に知りえない事由を理由に株主総会決議が取り消されたとなると、取引の相手方としては困ってしまいます。そこで株主総会決議で早期に確定するために、期間制限が設けられました。同時に、訴えを提起できる者も、会社の内部で株主総会手続に関する“不具合”を発見しうる者に限定しました。

2 どのような事由があれば認容判決をえることができるか

大雑把に言えば、株式会社の意思決定の方法・手続が望ましいとは言えない場合に、株主総会決議を取り消すことができます(会社法831条1項列挙事由)。以下、会社法の定めにしたがい、詳しく説明します。

①招集手続又は決議方法の法令・定款違反、又は著しく不公正な手続・方法に基づく場合(1号)

株主総会の招集手続や決議方法が、法令や定款に違反した場合には、取消し事由となります。招集手続の法令・定款違反の例として、「招集通知に漏れがあった」「招集の通知期間を守らなかった」(以上、会社法299条1項参照)「参考書類の記載に不備があった」(会社法301条参照)などが挙げられます。また、決議方法の法令・定款違反として、「取締役の説明が不十分」(会社法314条参照)「定足数が不足しているのに決議がなされた」(会社法309条1~5項)などが挙げられます。もっとも、このような手続違反が認められる場合でも、「その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさない」と認められるときは、株主総会の取消しが認められないことがあります(会社法831条2項)

また、形式的には招集手続・決議方法に法令・定款違反が認められなくても、実質的にみて明らかに不当な目的があって株主総会決議が行われた場合には、「著しく不公正」であるとして取消し事由が認められることがあります。例えば、株主が事実上出席できないような時間・場所で株主総会を開催する場合などが挙げられます。

②決議内容の定款違反(2号)

定款は、株式会社の設計図なようなものです。定款では、会社法その他の法令で許されることを、あえて許されないものとして設定することがあります。そうすると、定款違反というものは、自らやらないと決めたことをやるという、一種の自己矛盾挙動のようなものです。このような自己矛盾挙動によってなされた株主総会決議も望ましいものではないので、取消し事由とされています。

なお、広く「できないことをやる」という点では、後述する無効事由(決議内容の法令違反)と変わりがないとも言えます。しかし、定款の機能は、当該株式会社の関係者(株主と経営者)のみを規律するものだと考えられているので、決議内容の法令違反とは性質が異なるものと言えます。

③特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議(3号)

「特別の利害関係を有する者」とは、株主総会決議の成立によって他の株主と共通しない特殊な利益を獲得し、又は不利益を免れる株主のことを言います。そして、このような株主の議決権行使によって、株主間の公平性が損なわれる場合に、取消し事由が認められます。例えば、株主かつ取締役であるような者が議決権を行使したことで、当該株主兼取締役の役員退職慰労金として不当に高い額が支給される場合などがあげられます。

3 認容判決がなされたら、どうなるか

判決以後、将来に向かってのみ無効とする会社法839条の適用がありません。したがって、株主総会決議が取り消されると、その決議自体がはじめから無効であったものとして扱われます(民法121条参照)。

判決の効力は、訴訟の当事者間にのみ及ぶのが原則ですが(民事訴訟法115条1項1号)、株主総会決議取消しの訴えが認容された場合には第三者にも判決の効力が及びます(会社法838条)。これを「対世効」と呼びます。株式会社の意思決定及びそれに基づく事業活動に関係することなので、株主総会決議が有効か無効かは多くの人に影響を与えます。仮に、訴えを提起した株主との関係では取り消され無効になったが、他の人との間では依然として有効であるとすると、法律関係が複雑になり株式会社としては困ってしまうので、対世効が認められました。

第3 株主総会決議無効確認の訴え及び不存在確認の訴え

1 いつ、誰が訴えを提起することができるのか

「いつ」「誰が」ということに関しては、会社法上特に定められていません。したがって、訴えの時期の制限はなく、判決を得る利益・資格があれば誰でも訴えを提起できると解されています。もっとも実務上は、訴える利益・資格がある者というのは、基本的には株主総会決議取消しの訴えの原告と大きな違いはない、と考えられています。

2 どのような事由があれば認容判決をえることができるか

無効確認の訴えの場合、株主総会の決議内容が法令に違反の事実が認められるときに、認容判決をえることができます。例えば、決議の内容が公序良俗(民法90条)や株主平等原則(会社法109条1項)に反する場合、違法な剰余金の配当を行う内容とする場合(会社法461条1項参照)、欠格事由のある者を取締役に選任する場合(会社法331条参照)などがあげられます。

決議の不存在とは、①議事録上は決議が存在したかのような虚偽の記載があるなど株主総会自体が行われなかった場合(物理的不存在)、及び②事実上株主総会決議が存在したという外観はあるが法的にその存在を認めることができない場合(法的不存在)のことを言います。法的不存在というのは、手続上の“不具合”が著しい場合のことを言います。例えば、取締役会に基づかずに平取締役が株主総会を招集してケース、予定された会場以外の場所で一部の株主が勝手に株主総会を行ったケースなどで認められています。

3 認容判決がなされたら、どうなるか

将来に向かってのみなかったことにする会社法839条の規定は適用されません。したがって、認容判決がなされると、株主総会決議がはじめから無効であること、または株主総会決議がそもそも存在しないことが確定し、以後争えなくなります。さらに株主総会決議取消しの訴えと同様に、対世効が認められます(会社法838条)。

以上

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