Q1 移動時間も残業時間?
東京都在住 D・I さん
私は,エレベーターの保守・点検の仕事をしています。終業は18時と決まっていますが,終業時間の間際でも,緊急の呼び出しを受けて,会社から1時間ほどかかる場所まで出動してエレベーターの修理をすることがあります。仕事にかかる時間はだいたい3時間ほどですが,その後道具を置きにまた会社に戻らなければなりません。結局,会社と現場は往復2時間かかるので,1回の出動に要する時間は計5時間となります。
しかし,会社は移動に要する時間を除き,修理にかかる時間の3時間しか,時間外労働と計算してくれません。何とかならないものでしょうか。
Answer:その職場の状況ですと,移動時間を含めた全ての時間が残業時間となります。
1 移動時間が労働基準法上の「労働時間」にあたるかどうかが問題となります。
労働基準法32条によれば,労働者の「労働時間」が1日8時間または週40時間を超える場合には,使用者は時間外労働手当を支払う義務を負うとされています。
したがって,D・Iさんの移動時間が労基法上の「労働時間」にあたるとすれば,会社はその分の時間外手当を支払わなくてはならないということになるのです。
2 「労働時間」とは
労基法上の「労働時間」とは,一言で言えば,使用者の管理・監督の下にある時間です。
一般に,以下の時間は「労働時間」にあたるとされています。
- 実労働時間(実際に仕事に従事している時間)
- 手待時間(いつでも就労できる状態にある時間))
- 準備時間や後始末の時間(更衣時間や片付けの時間)
一方,休憩時間などは「労働時間」にはあたらないとされています。しかし,なんらかの事情で使用者の管理・監督の下におかれていた場合(たとえば,電話や来客があった場合にはすぐ対応するよう命令されていた場合)には,「労働時間」に該当するおそれがあります。
最高裁判例は,「労働時間」の意義について,「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない」(三菱重工長崎造船所事件・最大判平12・3・19)としています。
最高裁が判示したとおり,どこまでを「労働時間」として扱うかは,実質的客観的に判断されます。そのため,「労働時間」の範囲について後々紛争になることがしばしば見られます。
そこで,労働者の方は,もし自分の職場で労働時間として扱われていないことに不服があるのであれば,仕事内容やそれに要した時間を1日ごとの細かく記録することをおすすめします。
他方,使用者の方は,後の紛争を予防するために,労使協定でしっかりと「労働時間」の範囲について取決めを交わしておくことをおすすめします。
3 移動時間について
D・Iさんの場合,会社の命令で作業現場に出動させられ,会社に戻ることを余儀なくさている訳ですから,指揮・監督化にあるといえます。したがって,「労働時間」にあたるとして,残業時間の算定の基礎に含めなければなりません。
他にも,たまたま現場が自宅に近く,直帰を許された場合にも問題となります。その点について正面から規定した法律はありませんが,1984年8月の「労働基準法研究会第2部会中間報告jは以下のように提言しています。
- 始業前、終業後の移動時間は、
ア:作業場所が通勤距離内にある場合は、労働時間として取り扱わない
イ:作業場所が通勤距離を著しく超えた場所にある場合は、通勤時聞を差し引いた残りの時間を労働時間として取り扱う。 - 労働時間の途中にある移動時間は労働時間として取り扱う。
いずれにしても,D・Iさんのケースでは,移動時間も残業時間としてカウントされるのです。