降格・降級

第1 はじめに

「降格」には、複数の意味があり、職位や役職(Ex.係長、課長)を引き下げるものと、職能資格制度上の資格や等級(Ex.主事、参事)を引き下げるものがあります。ここでは、区別のために後者を「降級」と呼んでいきます。
また、降格・降級にはそれぞれ人事の一環として行われるものと、懲戒処分として行われるものの2種類ありますが、今回のコラムでは、人事の一環としての降格・降級について説明していきます。

第2 降格

1 降格の意義

降格とは、たとえば、課長から係長に役職を引き下げることです。昇進の反対概念と考えればわかりやすいでしょうか。「降職」と呼ばれることもあります。「降格」、「降職」、「降級」と同じような呼び方をされていても意味が異なることがあるので、注意してください。

では、雇用主が従業員に対して降格の措置を講じるには、従業員の同意や就業規則等の規定が必要なのでしょうか。

この点について、雇用主は、従業員の同意や、就業規則の根拠規定がなくても、人事権の行使の一環として雇用主の裁量で降格措置を行うことができると考えられています。なぜなら、課長や係長などの配置は、従業員の成績や適性を評価してどのように人員を配置するかの問題です。ですから、従業員をいかに活用・統制していくかという経営上の判断として、雇用主に裁量を認めて自由に決めさせるべきだからです。東京地裁平成7年12月4日判決(バンク・オブ・アメリカ・イリノイ事件)も同様の判断をしています。
ここで、2点注意すべき点をあげておきます。

1点目は、就業規則に降格の手続きや基準が定められている場合には、これらが雇用契約の内容となるため、これらに従わない降格を行うことはできないということです。いくら雇用主に裁量があるといっても、定められた基準を無視することはできません。

2点目は、従業員との間で職種限定契約を結んでいる場合には、一方的措置として降格させることはできないということです。職種を変更しないという特別な契約を結んでいるわけですから、当然といえば当然ですね。

2 人事権の濫用

雇用主に人事についての裁量権が認められているとしても、裁量権の濫用は認められません。“雇用主にある一定の権利がある。しかし、濫用は認められない”という労働法ではお決まりのパターンですね。

裁判例は、様々な要素を考慮して濫用の有無を判断していますが、それらをまとめると、「使用者側における業務上・組織上の必要性の有無及びその程度、能力、適性の欠如等の労働者側の帰責性の有無及びその程度、労働者の受ける不利益の性質及びその程度等諸般の事情を総合的に考慮して」判断することになります(大阪地裁平成22年5月21日判決)。

具体例として裁判例がどのような判断をしているのかいくつか確認してみたいと思います。

【降格を有効とした裁判例】

  • 不適切な窓口対応を繰り返したことを理由にした副課長から係長への降格について、職務能力に応じたものであるとして有効と判断(東京高裁平成21年11月4日判決)
  • 部下が所定の料金を支払わず賄い食を食べていたことの管理不行届を理由とした降格について、再三の指示・命令にもかかわらず改善がなされなかったため有効と判断(大阪高裁平成17年1月25日判決)

【降格を無効とした裁判例】

  • 退職勧奨に応じないことの報復としての降格(東京地裁平成21年11月16日判決)
  • いじめ・嫌がらせ目的(パワハラ)の降格(東京地裁平成21年3月31日判決)
  • 育休明けの休暇取得が多かったこと等を理由にした降格について、休暇を取得したことで職責を果たしていなかったとはいえないと判断(大阪地裁平成22年5月21日判決)

第3 降級

降級は、降格に比べイメージしにくいかもしれませんが、たとえば、「参事3級6号」というような社内の職務等級を「参事3級5号」に引き下げることです。

降級については、降格の場合と異なり、基本給の低下に直結することがほとんどですから、従業員の同意があるか、もしくは就業規則等雇用契約上の明確な根拠がなければできないと考えられています(東京地裁平成12年1月31日判決)。

もっとも、同意や雇用契約上の根拠があっても、権利の濫用となる場合には、降級は無効となります。この点は、降格の場合と同様です。降級についても、裁判例がどのような場合に権利濫用と判断したのかをいくつか確認していきます。

【降級を有効とした裁判例】

  • 一つ上の職務等級に格付けされるべきとの従業員の主張に対し、降級の根拠である人事評価は合理的であるとして降級を有効とした(東京地裁平成18年2月27日判決)
  • 雇用主の指導・教育が十分されていたのに、従業員の業務遂行に問題があったといえ、降級を有効とした(東京地裁平成20年2月29日判決)

【降級を無効とした裁判例】

  • 本人の顕在能力と業績が資格に期待されるものと比べて著しく劣っている場合には降格は有効だが、そのような能力の低下・減退は認められないと判断(東京地裁平成18年10月25日判決)
  • 降格の根拠となった人事評価が人事制度のルールに合致したものといえないため、人事評価が合理的とはいえないと判断(東京地裁平成19年5月17日判決)

第4 最後に

降格・降級の有効性については、ありとあらゆる要素から濫用の有無が判断されています。したがって、適切に降格・降級措置をしようとする場合、何か特定の行為に注意するというよりは、会社のシステム全体を整備することが必要です。会社のシステム整備には、広く法的な知識・経験が必要となりますので、整備が必要な際には当事務所にぜひご相談ください。

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