従業員の不法行為責任と使用者責任

第1 使用者責任とは

使用者責任とは、従業員が仕事上のミスで第三者に損害を与えてしまった場合、損害に対する直接的な加害者でない雇用主がその損害賠償責任を負う制度のことで、民法715条に規定されています。たとえば、ある運送会社の従業員(トラック運転手)が、会社のトラックを運転して荷物を運搬中、携帯電話で通話していたために赤信号を見落として歩行者と接触してケガをさせてしまったとします。この場合、従業員(運転手)が歩行者のケガ等について損害賠償責任を負うことには異論がありません。それに加えて、歩行者は会社のトラックにひかれたのですから、運送会社も損害賠償責任を負います。その責任が使用者責任です。

この使用者責任が認められる根拠は、雇用主が自分の業務のために従業員を用いることによって事業活動上の利益をあげている以上、雇用主は従業員による事業活動の危険も負担すべきであるという「報償責任の原理」にあるといわれています。

第2 使用者責任を負う場合

民法715条で雇用主に使用者責任が認められるには、一般的に次の3つの要件をみたすことが必要です

①従業員が第三者に不法行為責任を負うこと

②不法行為当時、使用者と被用者に使用関係があったこと

③従業員の不法行為が雇用主の事業の執行について行われたものであること

1 ①従業員が不法行為責任を負うこと

従業員の行為に不注意なミスがなく、従業員が不法行為責任を負わない場合には、第三者にどんなに大きな損害が発生していても、雇用主が使用者責任を負うことはありません。

2 ②不法行為当時、使用者と被用者に使用関係があったこと

使用者と被用者に「使用関係」があるといえるためには、直接の雇用関係までは不要で、一定の関係があれば足ります。判例によれば、「使用関係」があるといえるためには、実質的にみて使用者が被用者を指揮監督する関係があるか否かが重要であり、両者の間に契約関係が存在するか、事業が一時的か継続的か、営利目的か公益目的か、適法か違法かなどといった点は重要ではないとされています(最高裁昭和42年11月9日判決)。

当然ですが、雇用関係があれば使用関係は認められることにほぼ争いはないので、雇用主と従業員との関係では当然に「使用関係」があることになります。

なお、少し変わった事例として、営業上の名義を他人に貸与した者(名義貸し)が、その他人が行った不法行為について使用者責任を負うと判断した判例があります。具体的には、営業免許を得ていない自動車所有者が、営業免許を得ている会社から違法にその営業免許を借り受けて自動車運送事業を営んだ事案において、名義貸人の使用者責任を認めました(最高裁昭和41年6月10日判決)。

他に、雇用関係がなくても使用関係が認められるもので重要なものに、請負契約における使用関係があります。詳しくはコラム「請負と使用者責任」を参照してください。

3 ③事業の執行について行われたものであること

(1) 「事業」の範囲

判例は、「事業」の範囲を広く認めています。たとえば、銀行の支店長が貸金回収のため融資先と共同して、銀行が買主であるかのように装い、第三者から靴下5000ダースを受け取り、これを他に転売した事案において、この行為を銀行の事業の範囲に属する行為と判断しました(最高裁昭和42年12月21日判決)。

(2) 事業の「執行」

判例は、事業の「執行」の解釈について、被用者の職務執行行為そのものには属しなくても、その行為の外形から観察して、あたかも被用者の職務の範囲内の行為に属するものとみられる場合を包含するとして、いわゆる外形理論を採用しています。そして、この外形理論は、交通事故のような事実的不法行為にも該当します。たとえば、判例は、勤務時間外に、従業員が私用のために会社所有の自動車を運転中に交通事故を起こしたときや、従業員が出張の際に自家用車を運転中に交通事故を起こしたときに、外形から客観的に見て職務の範囲内にあたるかどうかを基準に、事業の「執行」にあたると判断しました(最高裁昭和37年11月8日判決、最高裁昭和52年9月22日判決)。

また、より広く事業の「執行」を認めている判例もあります。仕事中の喧嘩や暴力行為について、従業員が雇用主の事業の執行行為を契機とし、これと密接な関連を有すると認められる行為は、事業の執行にあたると判断し、使用者責任を認めました(最高裁昭和44年11月18日判決、最高裁昭和46年6月22日判決)

(3) 注意すべきこと

このように、従業員が会社に関連して第三者に損害を与えると、実際の業務とはあまり関係ないんじゃないかという場合でも雇用主が責任を負うことになりがちです。

その中でもよくあるのは、従業員が会社の車を勝手に使って交通事故を起こしてしまい、被害者から使用者責任を追及されることです。これを防止するためには、会社の車をむやみに私用で使わせず、会社の備品の使用にしっかりとしたルールを作っておくことが大切です。

(4) 被害者の悪意・重過失

、使用者責任は、不法行為の被害者を救済するための理論ですので、従業員の行為が職務権限内で適法に行われたのでないことを知っていたか、もしくは重過失によって知らなかった場合には、被害者を保護する必要がないため、雇用主は使用者責任を免れます。

第3 免責立証

雇用主は、被用者の選任および事業の監督につき相当の注意を払ったことを立証するか、または、相当の注意をしても損害が発生していたであろうことを立証することで使用者責任を免れることができます(民法715条1項ただし書)。しかし、実務上この免責立証が認められた例はほぼないため、免責立証は不可能であると考えてしまってよいでしょう。

第4 求償権の行使

雇用主が使用者責任に基づき被害者に生じた損害を賠償した場合には、雇用主は従業員に対してその分の支払いを求めることができます。これを、「求償権の行使」といいます(民法715条3項)。この求償権の行使に関する注意点について、詳しくはコラム「従業員に対する損害賠償請求」を参照してください。

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