高齢者雇用
第1 はじめに
高齢者雇用については、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」に規定されています。高年法と略されることもありますが、この法律の中には、雇用主として対応が義務づけられているものもあります。そこで、今回のコラムでは高齢者雇用について雇用主がとるべき措置に触れたいと思います。
第2 高年齢者雇用確保措置
高年齢者とは55歳以上の者をいいます(高年法2条1項、同施行規則1条)。高年法は高年齢者の雇用確保のため、主に以下のような措置を講じています。
1 定年を定める場合の年齢
雇用主が就業規則等で定年の定めをする場合、定年の年齢は原則として60歳を下回ることができません(高年法8条本文)。なお、定年年齢の引下げは雇用条件の不利益変更にあたります。ですので、定年の年齢が60歳以上の場合に、定年年齢の引き下げをしようとしても、労働契約法10条の要件をみたさない限り一方的に引き下げることはできません。就業規則の不利益変更についてはコラム「就業規則の不利益変更」を参照してください。
2 高年齢者雇用確保措置
就業規則等で65歳未満の定年の定めをしている場合、雇用主は高年齢者雇用確保のために、①当該定年の引上げ、②継続雇用制度の導入、③当該定年の定めの廃止、のいずれかの措置をとる必要があります(高年法9条1項)。実務上は、②継続雇用制度を導入している会社が多いので、この制度について詳しく見ていきます。
3 継続雇用制度
継続雇用制度とは、現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいいます(高年法9条1項2号)。たとえば、60歳で定年を迎え、その後65歳まで嘱託で働くというようなものをイメージしてください。
この継続雇用制度の適用となる従業員について、高年法は選定基準を規定していません。もっとも、当然ですが、雇用主が恣意的に継続雇用制度の対象者を選別したり、公序良俗に反するような選定基準は許されません。たとえば、厚労省の通達(厚労省通達平成16年11月4日)によれば、次のような基準は適切でないとされています。
・会社が必要と認めた者に限る
→基準がないことに等しいから不適切
・上司の推薦がある者に限る
→基準がないことに等しいから不適切
・男性(女性)に限る
→男女差別に該当するから不適切
・組合活動に従事していない者
→不当労働行為に該当するから不適切
現実的には、①従業員の希望の有無、②人事考課の評価、③健康状態に問題がない等の基準を定めることが多いと思います
第3 高齢者雇用確保措置を規定していないとどうなるか
雇用主が2?①~③の措置をとらない場合、従業員からどのような請求をされる可能性があるのでしょうか。高年法はまだ改正されて日が浅いので、代表的な最高裁判例はありません。そこで、高裁判例を確認してみたいと思います。
- 参考裁判例
- 【大阪高裁平成21年11月27日判決】
[事案]
会社を60歳で定年退職した元従業員が、雇用主が高年法9条1項が定める措置を講じることなく元従業員を定年退職させたことが、雇用主が有する定年後の継続的雇用を確保すべき義務に違反したなどとして、債務不履行又は不法行為に基づき、従業員が継続勤務したときに得られるべき賃金相当額の支払いを求めました。
[判断]
雇用主が従業員に対して高年法9条1項に基づく私法上の義務として、継続雇用制度の導入義務ないし継続雇用義務まで負っているとはいえないと判断し、元従業員の請求を退けました。
【東京高裁平成22年12月22日判決】
[事案]
会社を60歳で定年退職した元従業員が、60歳定年制を定め、定年後の継続雇用制度を定めていない雇用主の就業規則は、高年法9条1項に違反して無効であるから、元従業員は従業員たる地位を有していると主張して、雇用契約上の地位確認ならびに平成20年4月以降の賃金および遅延損害金の支払いを求めるとともに、雇用主が元従業員の雇用契約上の地位を否定して本訴提起を余儀なくされたことは不法行為にあたると主張して損害賠償を請求しました。
[判断]
上記大阪高裁判決と同様、東京高裁も、高年法9条の私法的効力を否定しました。そして、雇用主の就業規則が定める60歳定年制が無効になるとはいえないし、雇用主が実施した制度は高年法9条1項2号の継続雇用制度に該当するとして、元従業員らの地位確認および賃金請求並びに不法行為による損害賠償請求を認めませんでした。
これらの裁判例によれば、従業員側が60歳定年制を定めた就業規則の無効を主張して雇用契約上の地位確認を求めたり、雇用主には65歳までの継続雇用義務があるとか、高年齢者雇用確保措置を講じる義務があるとしてそれを前提にした請求が認められる可能性は高くないといえるでしょう。よって、雇用主が従業員側からされる可能性のある請求としては、高年法9条違反について不法行為の他の要件(故意・過失、損害の発生、因果関係)をみたした場合に、不法行為が成立する余地があるにすぎないといえます。
以上から、リスク回避のために雇用主がしなければならないことは、まず高年法9条の求める措置を行うことです。仮に、その措置をまだ行っていない場合には、そのことについて過失が認められないようにすることです。
過失を基礎付ける事実としては、①改正高年法の施行について労働組合等との交渉をしていない、②交渉をしていても、誠実な対応をしなかった、③交渉が決裂して労使協定の締結に至らなかったが、その責任が雇用主側にあることを示す諸事情、などがありますので、過失が認められないために、①~③にあたらないよう注意してください。
第4 最後に
高年法が改正されてから日が浅く、特に中小企業においては、継続雇用制度を導入していなかったり、導入したものの運用の仕方がわからないということもあると思います。そのような経営者の方がいましたら、一度ぜひご相談ください。