システム開発に関する紛争の全体像

1. システム開発に関する紛争の原因やよくある事例

現在、IT技術の進歩に伴い、システム開発に関する取引は盛んに行われていますが、システム開発契約は、その締結・進行・運用等の様々な段階において、紛争に発展することが多い取引といえます。

なぜなら、目に見える商品などを製造するのと異なり、ソフトウェアは目には見えない物を製造するものですので、依頼している発注者がどのようなものを作ってもらいたいかというニーズと、実際に開発者が作成した成果物とのギャップが生まれやすいからです。

また、システム開発は企業の事業に不可欠な場合も多く、ビジネス環境の変化が激しいほど短納期での開発が求められます。製作が終わった段階では、ビジネスの環境が変わってしまう状態が起こると困るため、数ヶ月、数週間での完成を求められることも多く、難易度が増してトラブルが生じることも紛争をより多発させている一因といえるでしょう。

システム開発に関する紛争例で多いものとしては、①階層的な受発注構造(多重請負構造)がとられているので、成すべきことが多く、情報の伝達や支払いの希望に行き違いが生じる例、②目に見えるものづくりと違い、発注者が頻繁に要求を変更することが多いので、意図的な変更要求ではないものの伝え漏れが生じ、開発者としては聞いていなかったという例(変更をめぐるトラブル)が挙げられます。

2. 紛争解決のための訴訟の特徴

システム開発における訴訟は、専門訴訟であって、裁判所や弁護士等は、どのような手順を踏んで開発していくのか、技術、業界知識(慣習も含む)に深い知識があるわけではありません。そのため、完成や不具合等の認定には、法的知識だけではなく、ユーザーの業務の理解が求められるという点で、いわば二重の専門性があります。そのせいもあって、解決までの時間が長く、紛争発生から、訴訟による解決完了まで3年~5年以上かかるケースが珍しくありません。また、使う見込みのないシステムの粗探しや資料の整理等、エンジニアやシステム部門の負担が大きく、社内リソースの負担が大きい訴訟となります。長期にわたる紛争の途中で、重要な関係者が退職して協力を得られなくなることもあるので、紛争初期から適切に迅速に訴訟に関する資料を集めておくという対応が求められます。

3. 近時の重要な裁判例

1で述べた理由より、以前からシステム開発に関する裁判例は多かったのですが、平成25年にシステム開発契約についての2つの高等裁判所判決が出され、平成27年に最高裁判所の判決で確定しました。この2つの裁判例は、実務に大きな影響を与えるものとして注目されました。

簡単に概要を説明させていただくと以下のようになります。

①東京高裁H25.7.24 みずほ証券VS東証事件

みずほ証券の社員が行ったジェイコム株の誤注文(新規上場の株式を61万円1株で売ろうとしたところ、1円で61万株とした)をしてしまった後に、取り消し注文をしましたが、東京証券取引所のシステムの不具合により取り消し注文が受け付けられず、次々と株の売買取引がなされてしまいました。

みずほ証券が、システムを運用していた東京証券取引所にそのために生じた損害の賠償を求めた事案で、東京高裁は、約107億円の賠償を認容しました。そして、最高裁は、その高裁判決を支持しました。

②東京高裁H25.9.26 スルガ銀行VS日本IBM事件

勘定系システムの開発プロジェクトが頓挫したため、ユーザーであるスルガ銀行がベンダーである日本IBMにそれまでに支払った費用等の賠償を求めた事案で、東京高裁はユーザーへの約41億円の賠償を認容しました。また、最高裁は、高裁判決を支持しました。

①のみずほ銀行事件は、運用中のシステムのトラブルについての裁判例であり、システムの開発後のトラブルとその防止方法のコラムにて紹介します。
②のスルガ銀行事件は、開発しようとしていたシステムが完成しなかったことについての裁判例であり、プロジェクトマネジメント義務や基本合意書について等の争点を含むので、システム開発契約成立時におけるトラブルとその防止方法のコラムにて紹介します。

4. 次回のコラムの紹介

以上概要を見てきましたが、よくある紛争例として、システム開発の段階に応じ、システム開発契約成立時におけるトラブルとその防止法システム開発作業中におけるトラブルシステム開発後におけるトラブルとその防止法に分け、個別的にご紹介したいと思います。

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