本部(フランチャイザー)の第三者責任
第1 はじめに
コラム「「フランチャイズ契約」とは」で説明したとおり、法律上、本部と加盟店とは全く別の事業主体として扱われます。したがって、加盟店が行った取引や行為によって、第三者に損害が発生したとしても、加盟店がその責任を負担するのであり、本部は関係がない、というのが大原則です。
ところで、フランチャイズ契約を締結した場合、加盟店は、本部の商標や商号、サービス・マークなど(以下、「商標等」という。)を使用して、事業を行うのが一般的です。同じ商号等を使用しているわけですから、第三者からすれば、本部と当該加盟店は同一の事業主体だと勘違いすることもあるでしょう。このような場合に、「いやいや、法律上は全く別の事業主体だから、加盟店とのトラブルは、加盟店との間で解決してください。本部は一切関係ありません。」というのは、少々酷だと言えます。そこで、わが国では、このように同一の事業主体だと勘違いした人を保護するために、一定の法制度を設けています。
このコラムでは、加盟店の取引や行為について、本部が第三者に対して責任を負う場合について説明します。
第2 本部が第三者に対して責任を負う場合
1 名板貸責任(会社法9条、商法14条)
(1) 名板貸責任が認められる場合
名板貸責任とは、本部と加盟店とが同一の事業主体だと勘違いして加盟店と取引を行った第三者を保護するために、本部が負う責任のことを言います。
ここにいう「同一の事業主体だと勘違い」したといえるためには、①事業主体が、“加盟店=本部”であるとの外観が存在すること、②①のような外観が存在することについて本部に帰責性があること、③第三者が、“加盟店=本部”と「誤認」したこと、以上3つの要件を満たす必要があると考えられています。以下、それぞれの要件について詳しく説明します。
① 事業主体が、“加盟店=本部”であるとの外観が存在すること
本来本部と加盟店は全く別の営業主体であるはずなのに、同一の事業主体であると第三者が勘違いするような外観が存在すること、これが1つめの要件です。
ここにいう外観とは、条文の文言にしたがえば、本部の「商号を使用」したことを指します。もっとも、同一の事業主体であると第三者が勘違いする原因は商号に限定されないとして、実務ではこの要件は比較的緩やかに解釈されています。例えば、加盟店が本部の有する商標やサービス・マークを、看板や店舗・車両、名刺、請求書、領収書などに記載した場合も、“外観あり”と判断される可能性があります。
② ①のような外観が存在することについて本部に帰責性があること
簡単に言えば、①のような外観が存在することについて、本部にその原因があることを言います。条文には、このような要件が必要とは書かれていませんが、学説・裁判実務では必要だと解されています。もっとも、フランチャイズ契約においては、加盟店が本部の商号や商標を使用することについて、本部が許諾をし、その使用方法について指示を出しているのが一般的です。したがって、加盟店が勝手に本部の商号や商標を使用しているようなケースでなければ、ほとんど本部の帰責性が認められると考えてもいいでしょう。
③第三者が、“加盟店=本部”と「誤認」したこと
「誤認」とは、第三者が、取引を行った時点において、加盟店と本部とが別の事業主体であることを知らず(善意)、かつ知らないことについて重大な過失がないこと(無重過失)を言います。第三者が善意・無重過失であったかは、商号や商標の使用態様、問題となっているフランチャイズ・システムの業種など様々な要素を考慮して判断されます。例えば、加盟店が本部の商標を使用していても、加盟店である旨(=本部とは異なる事業主体)がわかりやすく表示されている場合には、「誤認」したと言えないと判断される可能性があります。また、コンビニエンス・ストアのように、フランチャイズ・システムを採用していることが相当程度認知されているような業界の場合、第三者の「誤認」が認められない能性が高くなります。
(2) 名板貸責任の範囲
上記の3つの要件を全て満たせば、本部に名板貸責任が発生します。具体的には、本部は、加盟店と当該第三者との取引によって加盟店が第三者に対して負う債務を、加盟店と連帯して弁済しなければなりません。例えば、加盟店が、本部以外の第三者から商品を仕入れたケースであれば、名板貸責任として本部は商品の代金を支払わなければならない、という結論になる場合があることになります。
なお、名板貸責任は、加盟店の取引行為(≒契約)によって発生した加盟店の債務のみを対象としています。取引行為に基づかないケース、例えば加盟店の従業員が社用車で起こした交通事故の損害賠償責任などは対象となりませんので注意してください。
2 製造物責任
製造物責任とは、製品の欠陥によって消費者に損害が発生した場合に、消費者の救済を図るために、法律上製造業者にかけられた損害賠償責任のことをいいます。そして、フランチャイズ契約においても、加盟店が販売した商品について欠陥があった場合であって、本部が製造物責任法上の「製造業者」にあたるときは、本部は消費者に対して直接損害を賠償する責任を負います。具体的には、以下のようなケースで、本部が「製造業者」に該当します。
なお、どのような場合に製造物責任の要件については、コラム「消費者の生活の安全確保のための規制-製造物責任法」で詳しく説明します。
- ① 本部が、加盟店が販売する商品を、製造・加工して加盟店に供給した場合
② 本部が、加盟店が販売する商品を、輸入して加盟店に供給した場合
③ ①②の場合のほか、加盟店が販売する商品に、本部がその製造元、加工元または輸入であるかのような表示がなされている場合
3 その他の責任
上記以外にも、本部と加盟店の結びつきが強く、加盟店が独立した事業者としての実体を有していないような場合には、加盟店が第三者に発生させた損害について、使用者責任(民法715条)や共同不法行為責任(709条、719条)を負うことがあります。
以上