消費者の生活の安全確保のための規制-製造物責任法

第1 「製造物責任法」の意義

しばしば「家電から火が出た」「化粧品に有害な物質が含まれていた」などの製品の欠陥に関する報道がなされることがあります。このような製品の欠陥によって消費者が不利益を被った場合、誰がこの責任を負担すべきでしょうか。「危ない製品を世の中に送り出したのだから、製造業者がその責任を負うべきだ」と考えるのが一般的なのではないかと思われます。

しかし、かつてはこの考え方に基づき、製造業者の責任を追求することは、大変困難なものでした。なぜならば、消費者が製造業者に対して不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)をするためには、製品の欠陥と損害との因果関係や製造業者の過失を立証しなければならないのですが、製品に関する専門知識を持たない消費者がこれを立証するのは不可能に近いからです。このような「民法の規定だけでは、消費者が製造業者の責任を追求することは難しい」という不都合を解消するためにつくられたのが製造物責任法です。

製造物責任法は、簡潔に言えば、消費者の製造業者に対する損害賠償請求をより容易にしたものです。製造業者としては、どのような場合に損害賠償責任が発生するのか、製造業者としてどのような対応を取り得るのかをキチンと把握しておく必要があるでしょう。以下、順に説明します。

第2 製造物責任が発生する場合

1 製造物責任の概要

製造物責任とは、製造業者が、「製造物」の「欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したとき」に、「これによって生じた損害を賠償する」責任のことをいいます(製造物責任法3条)。言い換えれば、①引き渡した「製造物」に欠陥があり、②消費者の生命、身体または財産に損害が発生し、③欠陥と損害の因果関係が認められれば、製造業者は損害賠償責任を負います。

なお、製造業者は、上記3つの要件を具備する場合であっても、一定の反論をすることで製造物責任を免れることができます。詳しくは、本コラム「第3 製造業者が取り得る対応」で説明します。

2 製造物責任の主体

製造物責任法により損害賠償責任を負う者の範囲は、日常用語として使われる「製造業者」の意味よりも広い点に注意しましょう。具体的には、①製造物を製造・加工した事業者(「製造業者」)に加え、②その製造物の輸入業者や、③製造業者として氏名を表示するなど「製造業者」という外観を有する業者が損害賠償責任を負担します(製造物責任法2条3項参照)。

3 製造物責任の要件の詳細

(1) 「製造物」の「欠陥」の存在

「製造物」とは、「製造又は加工された動産」のことをいいます(製造物責任法2条1項)。製造物責任法は、大量生産・大量消費され、転々流通する性質のある工業製品の欠陥について、冒頭で説明した不都合を回避し、消費者を救済するために設けられた法律です。したがって、このような趣旨に合致しないもの、具体的には不動産、未加工の農林畜水産物、電気、ソフトウェアといったものは該当しないと考えられています。

「欠陥」とは、「当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていること」をいいます(製造物責任法2条2項)。通常有すべき安全性を欠いているかは、「当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情」を考慮して、個別具体的に判断されます。一般的には、欠陥には、①設計の仕方が悪い場合(設計上の欠陥)、②製造の仕方に誤りがある場合(製造上の欠陥)、③製造物の使用方法の指示等が不十分な場合(指示・警告上の欠陥)の3つの類型があると説明されています。

(2) 生命、身体または財産の損害

消費者の生命、身体に被害をもたらした場合や、欠陥のある製造物以外の財産に損害が発生したことをいいます。欠陥による被害が、その製造物自体にとどまる場合には、製造物責任は認められません(製造物責任法3条但書)。製造物自体の被害は、契約当事者間の債務不履行責任(民法415条)や瑕疵担保責任(民法570条、566条1項)で解決することになります。

(3) 欠陥と損害の因果関係

一般人の認識に照らして、「製造物に欠陥があったために、その損害が生じた」と評価できる場合のことをいいます。もう少し具体化しますと、「消費者が、その製造物を通常の用法にしたがって使用していたところ、○○という異常な結果が生じた」と言えるような場合に因果関係が認められます。

第3 製造業者が取り得る対応

1 製造物責任を回避するために必要なこと

簡潔に言ってしまえば、「欠陥」のある「製造物」が消費者の手元に渡ることをなくす努力をすることが必要となります。設計上の欠陥や製造上の欠陥は、安全な製造物を製造するための技術開発や、製造工程の管理方法の工夫、出荷前の検査などによって防止することができるでしょう。他方、指示・警告上の欠陥を防止するためには、取扱説明書や警告ラベルなどでの注意喚起を行ったり、アフターケアを充実させたりすることが重要となるでしょう。

2 製造物責任を追求された場合の対処法

製造物責任を追及され裁判沙汰になった場合、どのように対応したら良いでしょうか。全面的に責任を認めるのもいいですし、消費者の主張に誤りがあるのであれば、徹底して争うのもいいでしょう。この点、製造物責任法は、製造業者側に、製造物責任を免れるための“対抗手段”を用意しています。仮に消費者の主張を争うとした場合には、以下の“対抗手段”が採用できるかも検討するといいでしょう。

なお、裁判外での対処法に関しては、コラム「商品の欠陥」を参照してください。

(1) 免責事由の存在を主張する

製造物責任法では、「この製造業者に、この製造物の欠陥について、責任を負わせるのは酷だ」と言える場合には、製造物責任は免責されることにしています(製造物責任法4条)。具体的には、以下の2つの場合にあたることを、製造業者側が主張・立証した場合には、製造業者は製造物責任を免れることができます。

①いわゆる「開発危険の抗弁」(製造物責任法4条1号)

製造物を製造・加工して流通させた時点では、誰がどう努力しても到底認識することができないような欠陥についてまで責任追求をするのは酷でしょう。そこで製造物責任法は、製造業者側が、その欠陥は、製造物を「引き渡した時における」科学技術レベルでは到底認識し得ないことを証明したときは、免責されることにしました。

②いわゆる「部品・原材料製造業者の抗弁」(製造物責任法4条2号)

下請業者が部品・原材料を製造して、元請業者がその部品・原材料を使って製造物を完成させる、という作業分担がなされることがあります。このとき、下請業者には、設計・方法に関する裁量はなく、元請業者に指示されたとおりに製造する、というケースも少なくありません。このように元請業者が下請業者を「手足」のようにつかって製造物を製造した場合、製造物の欠陥の責任は、個々の下請業者ではなく、製造に関して指示を出した元請業者が負うのが望ましいでしょう。そこで製造業者側が、(ⅰ)自己の製造物は他の製造物の部品・原材料であって、(ⅱ)その欠陥が専ら他の製造業者が行った設計に関する指示に従ったことにより生じたものであり、かつ(ⅲ)その欠陥が生じたことにつき過失がないことを証明したときは、免責されることにしました。裏返せば、たとえ下請業者が元請業者の指示に従っただけであったとしても、下請業者が元請業者の製造物に欠陥が生じることを予見しかつ回避することができた場合には、免責されないことがあるという点に注意が必要です。

(2) 権利行使可能な期間を経過したと主張する

消費者が製造業者に対して追求する製造物責任法には、一定の期間制限が加えられています。そして、製造業者は、消費者の権利行使可能な期間が経過したことを主張・立証することにより、製造物責任を免れることができます(製造物責任法5条1項)。ここにいう一定期間とは、以下のいずれかの場合のことをいいます。

  1. ① 損害を被った消費者が「損害及び賠償義務者を知った時」から3年経過した場合。
  2. ② 責任追及の相手方である製造業者が「製造物を引き渡した時」から10年経過した場合。ただし、一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる損害については、「損害が生じた時」から10年経過した場合とする(製造物責任法5条2項)。

以上

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