不正競争防止法の概要
第1 不正競争防止法の概要
1 不正競争防止法とは
不正競争防止法とは、「事業者間の公正な競争」を確保し、促進するための法律だと説明されています(不正競争防止法1条)。これだけではいまいちピンとこないと思うので、少しかみ砕いて説明しましょう。
世の中には様々な事業者・企業が存在します。そして、他の事業者・企業よりもより良い商品・サービスを提供することで多くの利益を得ようと、日々努力をしています。このように各事業者・企業が互いに追いつけ追い越せと努力している様を「自由競争原理」と呼びます。小中学生の頃にやった徒競走をイメージして頂けると分かりやすいでしょう。しかし、世の中には、自由競争を勝ち抜くために“ズル”をする人がいます。「人のものを盗む」「虚偽の事実を流布する」などが典型例です。
このような“ズル”行為に対して、被害を受けた競争者が不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)を行う、というかたちで対応することが考えられます。しかし、“ズル”行為を止めさせることは容易なことではありません。また、“ズル”行為の影響は、直接被害を受けた競争者だけでなく、その産業全体や消費者など広く及ぶ可能性があります。そこで、“ズル”行為を厳格に取り締まることで、自由競争に身をおく事業者・企業の利益を民法以上に厚く保護し、これによって世の中全体をより良いものにしていこう、という趣旨で作られたのが不正競争防止法です。
2 「不正競争」とは
上記“ズル”行為のことを不正競争防止法では、「不正競争」と呼んでいます。そして、何が「不正競争」なのかは、不正競争防止法2条1項に具体的な16の類型が列挙されています。この16の類型は、歴史的に見て、または現在の社会情勢に照らしてみて、“いくら自由競争と言ってもやり過ぎでしょ”と言えるものです。裏を返せば、これ以外の行為は、少なくとも不正競争防止法の規制対象にはならないことを意味します(独占禁止法など他の法律の規制対象になる可能性はあります)。
不正競争防止法2条1項に列挙されている16類型の「不正競争」は、大きく分けると以下の3つのタイプに分類できると思われます。
A.「ブランド」など他人の営業上の信用を悪用したり、害したりする行為類型
(1号、2号、12~15号)
B.「デザイン」など他人の商品の形態を悪用する行為類型(3号)
C.他人が保有する情報・技術を害する行為類型(4~11号)
営業上の信用に関する類型についてはコラム「商標法ケーススタディQ4 商標登録前のブランドの保護」で、商品の形態に関する類型はコラム「意匠法ケーススタディQ3 意匠登録前のデザインの保護」を参照してください。情報・技術に関する類型は、コラム「営業秘密について」で詳しく説明します。
第2 「不正競争」行為に対してできること
1 民法上の措置
不正競争防止法は、民法が定める不法行為(民法709条以下)の特則として位置づけられています。したがって、被害者は、「不正競争」を行う者に対して、損害賠償請求をすることができるのは当然のことです(不正競争防止法4条)。これに加えて、被害者は、民法の不法行為では原則として認められていない、①相手方の「不正競争」行為の差止請求や②「不正競争」行為によって組成した物の廃棄等請求(不正競争防止法3条1項)をすることができます。また必要がある場合には、謝罪広告の掲載など被害者の失った信用を回復するのに必要な措置を請求する事ができます(不正競争防止法14条)
2 刑事上の措置
「不正競争」にあたる行為の多くは刑事罰が科されます(不正競争防止法21条1項2項参照)。実行者が、法人(被害者を除く)の業務に関して、一定の「不正競争」行為を行った場合には、その法人にも最大3億円の罰金刑が科されます。
以上