意匠法ケーススタディその3 意匠登録前のデザインの保護

<前提となる事実>
 Aさんは、家具の製造・販売を行うB社に勤めています。このたびAさんは、他に類例のない個性的なデザインの椅子αをつくりました。B社は、椅子αは必ずヒットすると見込んで大量生産を開始しました。その後椅子αは、B社の見込み通り、その斬新なデザインが話題を呼び、発売されるとたちまち人気商品となりました。
B社の椅子αは、当初は売上を順調に伸ばしていたが、ある時点から売上が減少し始めました。調査をしてみると、ライバル会社のC社が、一般消費者には見分けるのが困難なほどに椅子αと酷似したデザインの椅子βを製造・販売しており、これが原因で椅子αの売り上げが減少したことが分かりました。
Q3.B社が椅子αの意匠権を取得していなかった場合 、B社はC社に対して、どのような請求をすることができますか?
本件のポイント-
意匠登録前の意匠使用者の保護

第1 はじめに

意匠権を取得していない以上、自己のデザインが勝手に使われたとしても意匠法を適用して保護を図ることはできません。このような場合、B社としてはどのような対応をしたらいいでしょうか?

結論を申しますと、「不正競争防止法」という法律の適用によって、意匠法の場合と同様の保護を図ることができる場合があります。不正競争防止法は、事業者間の自由競争原理を逸脱するような行為を規制する目的の法律です(不正競争防止法1条参照)。そして、椅子βのような既存のデザインを模倣する行為は、まさに自由競争原理を逸脱するものですから、意匠法とは別に規制されています。なお不正競争防止法に関しては、コラム「不正競争防止法の概要」で説明します。

このコラムでは、不正競争防止法ではどのような保護がなされているかを中心に説明します。

第2 不正競争防止法によるデザインの保護

1 どのような場合に不正競争防止法上の規制対象になるのか?

既存のデザインを保護するために、不正競争防止法では「商品形態模倣行為」を規制しています(不正競争防止法2条1項3号)。

「商品形態模倣行為」といえるためには、①商品の形態を「模倣」したこと、②模倣された形態が商品の機能を確保するために必要不可欠なものでないこと、③その商品が国内で最初に販売された日から3年を経過していないこと、の3つが必要です。そして、実務では「模倣」にあたるかが激しく争われます。

「模倣」とは、他人の商品に依拠して(依拠性)、かつ実質的に同一の形態の商品(実質的同一性)を作る行為のことをいいます(不正競争防止法2条5項)。以下、詳しく説明しましょう。

(1) 依拠性

依拠とは、他人の商品を参考にしたことを意味します。

実務では、既に市場に流通している商品(先行商品)の模倣が争いになった場合、その商品は先行商品に依拠したと推定されています。先行商品が市場に流通している以上、誰でもその商品に触れる機会があるからです。このとき相手方は、「この商品は、 独自に開発したものだ」と主張・立証することで、この推定を覆す必要があります。

(2) 実質的同一性

元となった商品と模倣品とされる商品のデザインを比較して、その独自性を有する部分が同一であるかどうかで判断します。「実質的」というのは、デザインが完全に一致(いわゆるデットコピー)しなくても、デザインの差異が些細な点で、全体としてみれば酷似していれば足りる、という意味です。

なお商品のデザインというのは、それ自体が大変特徴のある形態をしていて商標と同様のブランド力をもつ場合があります。例えば、コカ・コーラのボトルや不二家のペコちゃん人形などがあげられます。このような場合、他人の商品のデザインをコピーすることは周知表示混同惹起行為(不正競争防止法2条1項1号)にあたり、別途規制対象になることがあります(詳しくはコラム「商標法ケーススディその4 商標登録前のブランドの保護」参照)。

2 本件の帰結

本件の場合、椅子βの販売が開始された当時、椅子αは既に販売されていましたので、依拠性が推定されます。また、椅子αと椅子βは一般消費者が見分けることが困難な程に酷似していますので、実質的同一性も認められる可能性が高いでしょう。よって、C社の行為は商品形態模倣行為にあたるものと考えられます。

C社の椅子βの販売行為が、商品形態模倣行為と認められたとしましょう。この場合、B社の「営業上の利益」を侵害されたと認められるときは、B社はC社に対して、当該商品形態模倣行為の差止請求(不正競争防止法3条1項)や損害賠償請求(不正競争防止法4条)などを行うことができます。

第3 意匠法、不正競争防止法以外の法律による対応

仮にC社の行為が商品形態模倣行為にあたらない場合でも、B社は一般法である民法を用いて、不法行為に基づく損害賠償請求をすることも可能です(民法709条)。しかし、不正競争防止法を利用した場合以上に、B社の主張・立証の負担が重くなります。すなわち、「不法行為」とは何かが民法では具体化されていませんので、B社は法律上保護すべき利益があるのかを自ら設定しなければなりません。また、民法上は不法行為の差し止めを請求することは原則としてできないとされています。したがって、意匠法や不正競争防止法の適用を受ける場合と比べると、十分な救済を図ることは難しいでしょう。

なお本件から離れて、デザインについては、著作権法による保護がなされる場合があります。すなわち、商品のデザイン自体が「著作物」(著作権法2条1項1号)にあたる場合には、不正競争防止法上の商品形態模倣行為にあたるような行為は著作権侵害(著作権法21条、26条の2参照)として差止請求(著作権法112条1項)および損害賠償請求(民法709条)などをする余地があります。ただし、実務では、「デザインは意匠法によって保護する」というのが原則になっており、「著作物」として保護されるのは、単なる実用品としての機能を離れてそれ自体美的鑑賞の対象になるような商品のデザインに限られると考えられています。例えば、職人が作った人形などが挙げられます。椅子のデザインについて争われた事件では、著作物性が否定されています(最判平成3年3月28日)ので、本件の椅子αの著作物性が認められるのは難しいでしょう。

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