船舶執行・動産執行

第1 はじめに

コラム「強制執行の基礎」では強制執行制度の概要を説明し、コラム「債務名義と執行文の付与」コラム「強制執行手続の開始」では強制執行手続の“さわり”について説明しました。このコラムでは、強制執行の1類型である金銭執行のうち、①船舶執行と②動産執行について説明します。

第2 船舶執行

民事執行法上の船舶執行は、総トン数20トン以上の船舶で、「端舟その他ろかいまたは主としてろかいをもって運転する舟」でないものに対する強制執行をさします(民事執行法112条)。定義からして非常にわかりにくいので、まず用語の説明をします。「端舟」(「たんしゅう」と読みます。)とは、動力として機関または帆を使用しない舟のことをいいます。「ろかい」とは、船を漕ぐための木製の道具をいいます。つまり、民事執行法上の船舶執行を簡単にいうと、手こぎの船は対象外でエンジンなどがついている大きめの船が船舶執行の対象になるくらいでイメージしておくとわかりやすいでしょう。

このように、船舶執行といっても対象は一定規模以上の船に限られますので、それに満たないものは、民事執行規則に規定されている小型船舶に対する強制執行(98条の2)を用いることになります。

船舶執行については、不動産に対する強制競売の規定が大幅に準用されているため(民事執行法121条)、強制執行の流れについては、不動産に対する強制競売とほぼ同じです。船舶執行独自の特徴をあげると、不動産と違って船舶は動き回るため、強制競売の手続を開始する際、執行裁判所は船舶の航行のために必要な文書である船舶国籍証明書等を執行裁判所に提出することを命ずることが必要になります。

なお不動産に対する強制競売の流れについては、コラム「不動産執行」を参照してください。

第3 動産執行

1 意義

動産執行は、債務者の所有する動産を差し押さえて、これを換価して、その売却代金によって債権回収を図る執行方法です。

動産執行における動産は、民法上の動産とは少し異なります。民法上の動産は、有体物で(民法85条)、不動産以外のもの(民法86条)です。また、無記名債権も動産とみなされます(民法86条3項)。

一方で、動産執行における動産は、ⅰ)民法上の動産、ⅱ)登記することができない土地の定着物、ⅲ)土地から分離する前の天然果実で1ヶ月以内に収穫することが確実であるもの、ⅳ)有価証券(裏書禁止でないもの)、をいいます(民事執行法122条1項)。参考までにいうと、ⅱ)ⅲ)は、民法上は動産ではなく不動産です。動産執行における動産は、民法と同じではなく、民法上の動産よりも少し広いんだなくらいのイメージを持っておくとよいと思います。

動産は不動産に比べて財産的価値が小さいことが多いため、現代社会において金銭執行としての役割は大きくありません。動産執行を試みても、経済的価値のある動産がないため執行不能で強制執行が終了することも多いのが実情です。

以下、①差押え、②換価、③満足の順に沿って詳しく説明します。

2 差押えの段階

(1) 手続の流れ

債権者は、差し押さえるべき動産の所在場所を特定して、執行官に対して動産執行を申立てます(民事執行規則99条)。不動産執行の場合は執行裁判所に申立てをすることになるのですが、動産執行の場合は執行官に申立てをします。動産は、細々とした雑多なものが問題となることもあり、債権者は、差し押さえるべき個々の動産を指定することはできず、代わりに、差し押さえるべき動産の所在場所を指定することになります。この点は、不動産の特定が必要とされる不動産執行との大きな違いです。

差押えの実行は、執行官が申立書で特定された債務者の占有する場所に立ち入って、債務者の占有する動産を捜索する方法で行われます。差し押さえた動産は、執行官が保管するのが原則ですが(民事執行法123条1項)、債務者や債権者に保管させたり(民事執行法123条3項)、債務者に動産の使用を許可したりすることもできます(民事執行法123条4項)。

執行官が動産を差し押さえたときは、差押調書を作成し、差し押さえた物件の目録を添付します(民事執行規則13条、102条)。

動産の差押えは、差押債権者の債権と執行費用の弁済に必要な限度を超えることはできず(民事執行法128条)、また、差し押さえた動産を売却しても手続費用に満たないような場合は、差押えはできず執行は不能になります(民事執行法129条1項)。

(2) 差し押さえられる動産の制限

債務者の日常生活や営業、学習、宗教上の行為に欠かせないものなどは、債務者保護のために差押禁止動産とされています(民事執行法131条各号)。具体的にみてみましょう。

【差押えができる動産】

・現金

→ただし、66万円以上の現金に限る(3号)

・株券・手形・小切手などの有価証券

→市場価値があるものなので、当然差し押さえることができます

・未登録自動車・軽自動車

Cf.登録自動車は不動産に準じた手続で強制執行されます(民事執行規則86~97条)

・牛・馬・鶏などの家畜

→家畜として市場価値があれば、差押えの対象となります

・美術品

→市場価値があるものならば、差し押さえることができます

【差押えができない動産】

・冷蔵庫・テレビ・布団

→債務者等の生活に欠くことができない生活用品(1号)にあたります

・犬・猫などのペット

→市場価値がないことがほとんどですから、差押えはできません

・債務者が内科医の場合のレントゲン撮影機

→自己の知的な労働により職業に従事する者の業務に欠くことができない器具(6号)にあたります(東京地裁八王子支部昭和55年12月5日判決)

・仏像・位牌

→礼拝または祭祀に直接供するため欠くことができない物(8号)にあたります

・アルバム・日記・

→債務者に必要な系譜、日記等(9号)にあたります。

3 換価の段階

換価手続としては、執行官が入札、競り売りなどの方法により売却します。実際には、競り売りの方法がとられることが多いようです。競り売りの期日は、差押えの日から1週間以上1ヶ月以内の日が指定され(民事執行規則114条)、執行官は売却すべき動産や競り売り期日の日時・場所などを公告します(民事執行規則115条)。そのようにして競り売りが行われます。

4 満足の段階

競り売りによって支払われた金銭を、執行官が債権者に配当します。債権者が1人であればその場で弁済金が交付されます。債権者が複数でも、債権者間で協議が整えば、配当表は作成されずに協議に従って配当されます。剰余金がある場合には、債務者に交付されます。

以上

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