基礎編① 知的財産法の概要
第1 「知的財産権」てなに?
「財産」という言葉を聞いて何を思い浮かべるでしょうか?おそらく家であったり車であったり、目に見える物を想像することでしょう。そして、「財産権」という言葉は、この財産に対する権利、すなわち“この家と車は私の物だ!”と言える権利のことをイメージするかと思います。このような権利のことを、所有権と言います。
では、「知的財産」とは何でしょうか?このように聞くと、ピンとこない方もいらっしゃるかと思います。知的財産とは、一言で言ってしまえば、人間が頭の中で考えたことそれ自体です。2002(平成14)年に成立した知的財産基本法によれば、「人の創造的活動」という言葉で表現されています。そして、知的財産権とは、この「知的財産」は自分のものだと言える権利だと説明されています。
なぜこのような概念が必要になったのでしょうか?それは以下のような背景があります。
人が考えたことそれ自体を手にとって見ることはできません。例えば、車のエンジンは触れることはできますが、エンジンの情報・技術は目に見えません。紙に書いたとしても、手に取ることができるのは紙であって、書かれた情報それ自体に触れることはできません。
手にとって見ることができないということは、そのものを物理的に支配して“これは私の物だから使うな!”ということができないことを意味します。例えば、車であれば、自宅の車庫にしまって鍵をかけてしまえば、他の人が使うことはできません。これに対して、車のエンジンの技術は、それが書かれた書類が他の人の手に渡らないようにしたとしても、誰かが口頭で伝えてしまったり全く同一の技術を思いついた人が他にいたりすれば、同一の技術について何人もの人が同時に利用することができます。
このように目に見える物と比べて、自分だけのものにして独占することが難しいのが知的財産というものの特徴です。そうなると、“どんなにすごいことを考えても、独占できないなら何も得しないのでは?”と考える人も出てくるでしょう。そして、もしそう考える人が増えていくと積極的に新しいことを考えなくなるので、技術や文化が発展することはなくなり、世の中が衰退してしまう可能性が出てきます。
そこで、世の中の発展のために、「自分が考えたことは、自分だけが独占できる」という人が知恵を絞りたくなる制度を作りました。それが知的財産権制度というものです。
第2 知的財産権の種類
「人間が頭の中で考えたことそれ自体」というのは、実は世の中にはたくさんあります。上記の車のエンジンの技術もそうです。他にどのようなものがあるか、具体例を交えて紹介しましょう。
あなたは家電量販店でパソコンを1台買おうと思っています。どのような基準で選びますか?音楽や映像など様々な「エンターテイメント」を利用したいという人であれば、パソコンのスペック、つまりパソコンに積み込まれた「テクノロジー」で選ぶかもしれません。他にも、どのメーカーのパソコンか?といった「ブランド」を重視する人や、他にない「デザイン」を重視して購入を決める人もいるでしょう。
上記の例で括弧書きしたもの全てが目に見えない「人間が頭の中で考えたことそれ自体」であり、世の中で価値のあるものとして扱われています。そして、これらのものを考えた人に対して、法律で、「エンターテイメント」については著作権、「テクノロジー」については特許権、「ブランド」については商標権、「デザイン」については意匠権などの権利を与えて、保護する仕組みができています。
「知的財産」と呼ばれる世界の全体像としては以下のようになります。
<知的財産の種類(主要なもののみ)>
分野 | 産業上の創作 | 文化的創作 | 標識・業務上の信用 | ||||
テクノロジー | デザイン | エンタメ | ブランド | ||||
対象 | 発明 | 考案 | 営業秘密 | 意匠 | 著作物 | 商標 | 商号 周辺表示 |
対応 法律 |
特許法 | 実用新案法 | 不正競争防止法 | 意匠法 | 著作権法 | 商標法 | 商法・会社法 不正競争防止法 |
具体的 権利 |
特許権 | 実用新案権 | – | 意匠権 | 著作権 | 商標権 | – |
以上