会社の機関

第1 会社の機関の概要

1 会社の機関とは

一般的に、機関とは「法人の意思決定をし、あるいは法人の運営に携わる者」と定義づけられます。これだけではまだイメージが掴みにくいと思うので、もう少しかみ砕いて説明しましょう。

コラム「会社法ってなに?」で、会社はいわばロボットのようなものだと説明しました。そうすると、会社という存在が勝手に活動するということはなく、誰かがどんな活動をするのかを決めたり、実際にロボットに乗り込んで操縦をしたりしてはじめて機能することになります。ここでいう「誰か」、つまりロボットが活動するために必要不可欠な役割を担う者のことを、会社法では「機関」と呼んでいる、と考えてください。

2 機関設計 -柔軟な機関設計を行う

機関の定義からすると、「意思決定」をする者と「運営に携わる者」の2つに分けることができます。「意思決定」をする者の最たる例が「株主総会」であり、「運営に携わる者」の例が「取締役」と呼ばれるものです。会社法では、株主総会と取締役を機関として置くことは必須とされていますが、それ以外のこと、例えば「取締役は何人にするのか?」「株主総会と取締役以外の機関を設けるのか?」という点に関しては、原則として制限がありません。したがって会社は、会社の財産や事業の規模などの実態に応じて、会社にとって最も効率的かつ適正な機関設計ができるようになっています。「機関設計の柔軟化」と呼ばれ「全39通りの中から自由に機関設計ができます」と言われているのは、このことを言います。

※会社法改正の影響
平成26年(2014年)に会社法が改正され、新たな機関として「監査等委員会」が追加されました。これによって、機関設計の選択の幅がさらに広がりました。このコラムは改正前の会社法で設置可能な機関に関する説明になりますのでご了承ください。

第2 各種機関の概観

以下では、会社法上どのような機関が予定されているのか、どのようなルールに従って設置されるのかの概観を説明したいと思います。

1 株主総会

株主総会とは、会社に出資を行い「株主」となった者によって構成される会議体です。会社は株主の出資があって成立しているので、株主の利益を最大限尊重する必要があります。そこで会社法では、“会社がどんな事業活動を行うかの意思決定には、原則として株主が関与する”という制度設計がされています。具体的には、株主総会が「組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項」について決定すると規定されています(会社法295条1項)。

もっとも、「株主」といっても経営に関しては素人であることが大半です。そして、会社の規模が大きくなれば大きくなるほど、課題とされている事項は複雑化し、意思決定することが困難になっていきます。そうすると、会社の意思決定について“素人”の株主によって決定させるよりも、プロ集団に任せた方が効率的ではないか、という発想が生まれます。一方で、プロに任せるといっても、本来株主総会という合議体で決めるべきことを、特定個人の独断で決められるというのは不適切です。そこで会社法は、合議体である取締役会を設置した会社では、経営のプロである取締役会に会社の意思決定を任せることを原則として、その一方で、定款に定めた事項や取締役会に任せるのが相応しくない事項についてのみ例外的に株主が決定する仕組みにしました。ここにいう取締役会に任せるのが相応しくない事項とは、以下のようなものです。

  • 会社の構造を根本的に変更するようなこと
    Ex.) 定款の変更、会社組織の再編(合併など)、事業譲渡
  • 取締役などの機関の選任・解任
  • 会社の決済に関すること
  • 株主の重要な利益に関すること
    Ex.) 剰余金の配当、一定の場合の株式の発行、会社による自己株式の取得
  • 取締役の報酬決定など取締役の専横の危険があること

2 取締役・取締役会

(1) 取締役とは

取締役とは、会社の目的である具体的な事業活動(「業務」)を現実に執り行う者のことを言います(会社法348条1項)。まさに会社というロボットの「パイロット」のことです。

出資者がロボットに活動を決定しているのなら、そのまま操縦してもいいのではないか、という発想も成り立ちます。しかし、出資者は操縦技術が無い“素人”である場合が多いのです。そこで「餅は餅屋」ということで、ロボットの操縦は専門家に任せようということになりました。会社においては、取締役が「業務の執行」の専門家、もっと平易な言い方をすれば経営の専門家にあたり、会社というロボットの操縦を一任されています。このように、出資者とは別に経営の専門家に会社の経営を任せる現象を「所有と経営の分離」と呼ぶことがあります。なおパイロットは1人でも構いませんが、ロボットである会社の規模に応じて2人以上置くことができます(会社法326条1項)。

(2) 取締役会とは

ところで、ロボットの規模・性能によっては操縦方法がより一層複雑になり、パイロット1人では十分に操縦することができない場合があります。そのような場合には、はじめから複数のパイロットが一丸となって操縦する仕組みの方が、効率がいいでしょう。

そこで会社法では、一定の会社については、取締役3人以上からなる取締役会という合議体の機関の設置が義務付けられています(会社法327条1項、331条4項)。そして、上記の通り、取締役会が設置されるような会社では、取締役会が原則として会社の意思決定をなし、個々の取締役が業務執行をする、という構造になっています(会社法362条2項1号)。また、取締役会は個々の取締役がキチンと業務執行を行っているのかを監督する機関でもあります(会社法362条2項2号)。

3 監査役・監査役会

(1) 監査役とは

監査役とは、会社の運営・計算書類の作成が適法・適正に行われているかを監査する機関です(会社法381条1項)。会社は原則として出資者である株主の意向にしたがって運営されなければなりません。しかし、取締役が常に株主の利益に適う行動をするとは言えず、私利私欲にしたがって行動することも考えられます。このような現象が生じることは、日々のニュースを見ていればわかることでしょう。そこで取締役が勝手なことをしないように監視する機関を設置することが考えられました。この機関が監査役です(会社法381条1項参照)。

さて一般的に自分の行為を自ら律する「セルフチェック」を行う場合、適否の評価が甘くなることがあります。これは会社の取締役の行為についても同じことが言えます。したがって、監査役という職務は、その会社の取締役が兼ねることはできません(会社法335条2項)。

監査役という機関を設置するか否かは、原則として自由です(会社法326条2項)。もっとも上記の通り、取締役会を設置すると、取締役会が会社の意思決定機関になることから、そのような強大な権限の濫用が起きないよう監視する必要性が強くなります。そこで会社法では、取締役会を設置する場合には、一部の例外を除き監査役の設置が義務付けました(会社法327条2項)。また、会計監査人を設置する場合にも監査役の設置が義務付けられています(会社法337条3項)。

(2) 監査役会とは

会社の規模が大きくなれば、監査役単独で監視するのは難しくなります。そこで一定の規模の会社については、取締役の場合と同様に、複数人が合議体をなして監視する体制である監査役会の設置が義務付けられています(会社法328条1項)。

4 委員会

(1) 制度の背景

取締役会と構成員である取締役の職務は、会社の意思決定をして、それに基づいて業務を執行して、さらに業務執行の監督を行う機関だと説明しました。これだけ聞くと“やることが多いなぁ”という印象を持たれることでしょう。まさにその通りで、やることが多いことから従来の取締役会設置会社は実効性に劣ると言われる部分がありました。また、取締役の中に上下関係や癒着関係があり、取締役会による監督機能が十分果たせない場合もありました。委員会制度というのはこの不都合を解消するために導入された制度です。

(2) 委員会設置会社の概要

委員会制度の概要を一言で言ってしまえば、「監督と執行の分離」です。つまり取締役会が担っていた仕事を分散させよう、という発想です。

まず、会社の意思決定は、基本的な事項だけ取締役会で決めて(会社法416条1項)、細かな事項の決定とそれに基づく業務の執行は、全て「執行役」という取締役・取締役会とは別の経営の専門家に任せることにしました(会社法416条4項、418条)。したがって個々の取締役は、業務の執行をすることができません(会社法415条)。

次に、監督の方法ですが、取締役間のなれ合いが色濃く出やすい事項、すなわち①取締役の候補の選任、②業務執行の監督、③取締役の報酬の決定のそれぞれについて専門機関を置くことにしました。それが「指名委員会」(会社法404条1項)、「監査委員会」(会社法404条2項)、「報酬委員会」(404条3項)です。各委員会の構成員の過半数は外部の人間(社外取締役)で占めなければならないと規定されており(会社法400条1項3項)、従来あった取締役相互のなれ合いから適正な業務を確保できないという難点も克服できるようになりました。

委員会設置会社における取締役会は、主として各委員会を構成する取締役や執行役を監督することになります。業務の執行はその専門家である執行役が専属で担うので、業務の実効性が確保されています。他方で、その半数が社外取締役で構成される監査委員会が業務執行の監督を一次的に行い、取締役会は執行役および各委員を監督するという制度設計になっており、業務の適正性の確保が強化されます。

5 会計監査人

会社の計算書類の作成が適正になされているかを監視する機関です (会社法396条1項)。上記の通り監視は監査役の職務ですが、監査役になるために必要な資格はないため、経理に関しては十分な知識を有しておらず、計算書類の適正を十分チェックすることができない場合がありました。会計監査人は、いわば監査役の職務のうち、経理に関しての監視の専門家を会社の中にいれようという発想です。したがって、会計監査人には公認会計士か監査法人という経理の監視の専門家しかなることができません(会社法337条1項)。

6 会計参与

会計参与とは、取締役と共同して計算書類の作成を行う機関のことです(会社法374条1項)。取締役は、経営の専門家として位置付けられると説明しましたが、経理に関しては苦手という場合があります。そこで経理の専門家を会社の中に入れて、取締役をサポートしてもらおうという考えが生まれました。この考えに基づいて設置されるのが会計参与です。なお会計参与は、専門家を入れて会社の計算を適正化しようという趣旨ですから、公認会計士・監査法人か税理士・税理士法人でなければなることができません(会社法333条1項)

第3 機関設計のパターン

機関設計のパターンをまとめると、以下の表のようになります。上記の通り、会社の規模や性質によって、機関設計の自由度に縛りが異なります。一番柔軟性があるのが、非公開会社でかつ非大会社に属する会社です。表には20パターンしかありませんが、これに「会計参与」を設置することができる19パターン(20パターンのうち、すでに会計参与が設置されている1パターンを引いています)を足して、全39パターンが想定されています。

非大会社 非公開会社 公開会社
取締役 取締役会+監査役
取締役+監査役 取締役会+監査役+会計監査人
取締役+監査役+会計監査人 取締役会+監査役会
取締役会+監査役 取締役会+監査役会+会計監査人
取締役会+監査役+会計監査人 取締役会+委員会+会計監査人
取締役会+監査役会
取締役会+監査役会+会計監査人
取締役会+会計参与
取締役会+委員会+会計監査人
大会社 取締役+監査役+会計監査人 取締役会+監査役会+会計監査人
取締役会+監査役+会計監査人 取締役会+委員会+会計監査人
取締役会+監査役会+会計監査人
取締役会+委員会+会計監査人
  1. ※「非公開会社」と「公開会社」
    会社の承認がなければ株式(≒株主としての地位)を譲渡できない会社を「非公開会社」と呼び、そうでない会社を「公開会社」と呼びます(会社法2条5号)
  2. ※「非大会社」と「大会社」
    資本金が5億円以上であるか負債総額が200億円以上の会社を「大会社」と呼び、そうでない会社を「非大会社」ないし「中小会社」と呼びます(会社法2条6号)

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