本部(フランチャイザー)の情報提供義務

第1 はじめに

フランチャイズにおいて、「加盟店」になろうとする者の中には、民法などの法律の仕組みや経営ノウハウに関して馴染みがない人もいます。他方で、フランチャイズ契約の内容は、“本部が自己の知識や経験に基づき、一方的に決める”というのが一般的です。そして、当事者間における知識や情報量の格差が埋まらないままフランチャイズ契約が締結され、この格差が原因で後日トラブルになることも少なくありません。例えば、「フランチャイズ契約を締結して営業を開始したけれども、本部が説明していた売上予測には全然到達しない。こんなことなら契約しなかった。」といったトラブルです。

上記のようなトラブルを避けるためには、フランチャイズ契約に関する知識や情報量の格差をできる限り埋めて、当事者が納得した上で契約を締結することが望ましいでしょう。そこで、本部にフランチャイズに関する情報を積極的に提供させて、当事者間の不衡平を解消しようという考え方が生まれました。これを「説明義務」と呼びます。

このコラムでは、フランチャイズ契約の締結時における本部の説明義務の概要と各契約当事者の注意すべき点について説明します。

第2 説明義務の概要

1 本部の説明義務の内容

説明義務とは、一般的に「契約に関する意思決定をするための判断材料となる客観的かつ適格な情報を提供する信義則上の義務」と説明されています(民法1条2項参照)。また、この説明義務には、「客観的かつ適格な情報」を提供することの裏返しとして、虚偽の情報の提供や不必要な誇張表現、事実の隠蔽など詐欺的な説明をしない義務も含まれると考えられています。

さて、ここにいう「情報」というのは、あくまで個々の契約において、加盟店になろうとする者にとって「判断材料」となるもののことをいいます。そして、加盟店になろうとする者が、どのような情報を「判断材料」とするかは、加盟店になろうとする者の地位や能力、フランチャイズの種類などによって変わります。したがって、「これさえ説明しておけば、説明義務違反は免れる。」という事項を具体的に列挙することは困難です。当事者間の交渉を通じて、本部はどのような「判断材料」を提供すべきかよく検討する必要があるでしょう。

なお実務では、中小小売商業振興法11条1の列挙事由や公正取引委員会のガイドライン、社団法法人日本フランチャイズチェーン協会の開示自主基準を参考にして書面を作成し、加盟店になろうとする者への説明を行っています。

※参考 ~提供すべき情報の具体例~
■中小小売商業振興法11条1項に定める事項
①  加盟に際し徴収する加盟金、保証金その他の金銭に関する事項
②  加盟者に対する商品の販売条件に関する事項
③  経営の指導に関する事項
④  使用させる商標、商号その他の表示に関する事項
⑤  契約の期間並びに契約の更新及び解除に関する事項
⑥  前各号に掲げるもののほか、経済産業省令で定める事項
■公正取引委員会のガイドライン(「2 本部の加盟者募集について」の箇所)
http://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/franchise.html
■社団法法人日本フランチャイズチェーン協会の開示自主基準
http://www.jfa-fc.or.jp/particle/41.html
http://www.jfa-fc.or.jp/folder/1/img/20140722150723.pdf

2 説明義務違反の効果

フランチャイズ契約において、本部の説明義務違反が認められる場合、加盟店は本部に対して損害賠償請求をするのが一般的です(民法709条。下記注釈参照)。このとき、賠償を請求できる損害というのは説明義務違反と「相当因果関係」がある損害のことをいいます(民法416条1項2項参照)。この「相当因果関係」という概念は非常に抽象的で分かりにくいのですが、簡潔に言ってしまえば、社会通念上“説明義務が果たされていれば発生しなかった”といえることをいいます。裁判実務では、初期投資である加盟料や店舗の改装費用、店舗の賃料や備品の代金・リース料などは損害として認められる傾向にあるようです。他方で、支払済みのロイヤルティや営業損失、逸失利益などは、損害賠償を否定する裁判例も少なくなく、ケースバイケースです。

また意図的に虚偽の情報の提供や不必要な誇張表現、事実の隠蔽など詐欺的な説明がなされた場合には、錯誤無効(民法95条本文)や詐欺取消(民法96条1項)を主張して、既に交付した金銭について不当利得返還請求(民法703条)をすることができる場合もあります。

※注釈:最高裁の立場と学説
最高裁は、今のところ、信義則上の説明義務違反は、不法行為(民法709条)の問題と考えているようです(最判平成平成23年4月22日)。もっとも、学説上は、信義則上の説明義務違反を債務不履行の問題として考える説が有力です。この学説にしたがえば、損害賠償請求(民法415条)だけでなく、契約解除を解除して(民法541条)、原状回復請求(民法545条1項)することも可能になります。

第3 契約締結にあたって注意すべきこと

1 本部が注意すべきこと

まず、説明義務の具体的な内容というのはケースバイケースであることに十分留意して、加盟店になろうとする者が「判断材料」として必要とする情報をできる限り提供するように努めましょう。特に損益予想に関する事項は、加盟店になろうとする者の関心が高く、後日本部の行った説明内容をめぐってトラブルになるケースが多いです。セールストークが必要な場合もありますが、少なくとも損益予想に関してはキチンとした調査・検討を行った上で説明をするようにしましょう。また、加盟店の事業の実施方法や本部に支払う対価など、加盟店の権利義務に関する事項についての説明にも同様の注意が必要です。どのような点に注目されるかは、コラム「フランチャイズ契約を締結するときの注意点」で詳しく説明します。

説明義務違反にならないようにするためには、提供する情報の種類・内容だけでなく、説明の仕方にも配慮するようにしましょう。例えば、“「判断材料」となるべき情報は提供されているけれども、小さな文字で書かれた書面を交付しただけで、口頭での詳しい説明はなかった”というケースの場合、本部が行うべき説明がなされていないと判断されるおそれがあります。

2 加盟店が注意すべきこと

フランチャイズ契約というのは、加盟店が、本部とは独立した事業者として契約するものです。本部の従業員になるものではないので、「フランチャイズ契約を締結して、どのように事業を実施するのかは全て加盟店の自己責任」というのが大原則です。つまり、加盟店が事業に失敗しても、基本的には本部には責任がありません。このことを認識した上で、フランチャイズ契約を締結するように心がけましょう。その上で、分からないことや不安に思うことがあれば、本部に質問をしたり、弁護士などの専門家に援助を求めたりして、キチンと内容を理解して契約を締結しましょう。なお注意すべき契約条項についてはコラム「フランチャイズ契約を締結するときの注意点」を参照してください。

以上

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