物などを利用した担保(物的担保)について

第1 物的担保とは

物的担保とは、他の債権者の存在を考えることなく、担保として提供された物その他の財産権から優先的に債権の回収を図ることができる権利(「担保物権」)を取得する仕組みの総称です。このような担保物権の効力のことを「優先弁済的効力」といいます。例えば、債権者Aが、債務者Bの所有する土地に担保物権を有している場合には、他の債権者に“抜け駆け”するようなかたちで、その土地の競売代金から債権の回収を図ることができます

担保物権と呼ばれるものは非常に多岐にわたります。まず、民法上根拠となる規定があるものとないものがあります。民法に規定のある担保物権の総称を「典型担保物権」といい、民法に規定のない担保物権の総称を「非典型担保物権」といいます。

典型担保物権には、法律に定められた一定の要件を満たせば、当事者の合意がなくても当然に発生する「法定担保物権」と、当事者の合意によってはじめて発生する「約定担保物権」があります。典型担保物権のうち、法定担保物権に分類されるのが、「留置権」と「先取特権」です。他方、約定担保物権に分類されるのが、「質権」と「抵当権」になります。

非典型担保物権は、根拠となる法律の規定がないので、すべて当事者の合意によって発生する担保物権(約定担保物権)になります。代表的なものは、「譲渡担保」「仮登記担保」「所有権留保」と呼ばれているものです。

以下、それぞれの担保物権の内容と担保物権の設定方法について説明します。物的担保を利用した債権回収方法の具体的な手続については、コラム「裁判所を利用した担保権の実行方法」コラム「裁判所を利用しない担保権の実行方法」を参照してください。

第2 民法に規定のある担保物権(典型担保物権)

1 法定担保物権

法定担保物権は、法律に規定された要件を満たせば当然に発生する担保です。したがって、担保を設定するためには、特別の行為を必要としません。債権管理をするにあたっては、以下の法定担保物権の要件を満たす場面かを確認しておくといいでしょう。

(1) 留置権

留置権とは、債権者が、他人(主に債務者)の物を占有している場合に、この物を引渡義務と裏表の関係にある債権を有するときは(「債権と目的物の牽連性」)、債権者は債務の履行を受けるまでは物の引渡しを拒むことができる権利のことをいいます(民法295条1項)。

留置権は、いわば債務者の物を“人質”にして、債務の履行を促す効果があります。例えば、建築請負契約において、請負人は、特約がある場合を除いて、注文者が請負代金の支払いを完済するまでは、建物の引渡しを拒むことができます。

なお、商人間の商取引によって生じる留置権には、「債権と目的物の牽連性」が要求されていない点に注意が必要です(商法521条)。

(2) 先取特権

先取特権とは、ある特定の債権を有する者に、法律上当然に発生する担保物権のことをいいます(民法303条)。この先取特権を取得することができる債権者と、対象となる財産については、すべて法律の規定があります。例えば、売買契約に基づく代金債権(民法555条)を有する場合には、債権者は売却した商品について先取特権を取得し、債務者が代金を支払ってくれないときは、その商品を売却して優先的に弁済を受けることができます(民法311条5号、321条)。

2 約定担保物権

約定担保物権は、当事者の合意、すなわち担保権設定契約の締結が必要です(民法176条)。したがって、債権回収を図る上では、取引先の財産状況等を把握しておき、必要があれば担保権設定契約を締結する必要があります。担保権設定契約を締結する上での注意点は、コラム「担保権設定契約についての注意点」を参照してください。

(1) 質権

質権とは、担保権者が、担保権設定者から担保目的物を預かり、もし債務が履行されない場合には、担保目的物を売却して、その代金から債権の回収を図ることができる権利のことをいいます(民法342条)。「目的物」には、動産や不動産だけでなく、債権などの財産権も含まれます(「権利質」、民法362条1項)。もっとも、抵当権と異なり、担保権設定者が担保の目的物を利用できないので、実務では、権利質以外はあまり利用されていません。

(2) 抵当権

抵当権とは、担保として提供された不動産を、担保権設定者に従来どおり利用させながら、もし債務が履行されない場合には、その不動産を売却して、その代金から債権の回収を図ることができる権利のことをいいます(369条1項)。住宅ローンがその典型例です。

抵当権の場合、担保目的物となるのは、原則として不動産に限定されています(自動車や農耕機など一部特別法による例外があります。)。実務では、めぼしい不動産がない場合には、質権(権利質のみ)や譲渡担保が利用されています。

抵当権設定契約を締結する場合、被担保債権が具体的に特定されているのが一般的です。もっとも、継続的な取引から発生する債権を担保したい場合には、被担保債権を具体的に特定することが困難です。このような場合に、一定の範囲に属する不特定の債権を、一定の額(「極度額」)の限度で担保する性質のある抵当権のことを、「根抵当権」といいます(民法398条の2第1項)。

第3 民法に規定のない担保物権(非典型担保物権)

非典型担保物権は、上記4つの典型担保物権の不都合を解消するために、慣習および裁判実務の積み重ねによって実用化されている物的担保制度です。法律の規定がありませんから、すべて、当事者の合意、すなわち担保権設定契約の締結が必要となります(民法176条)。非典型担保物権を設定する契約の注意点についても、コラム「担保権設定契約についての注意点」を参照してください。

1 譲渡担保

譲渡担保とは、担保権設定者に帰属する所有権その他の財産権を、法形式上、債権者に譲り渡し、被担保債権の弁済をもって、譲り受けた権利を返還するという、という形式をとる担保のことをいいます。

この「譲渡担保」という仕組みは、典型担保物権の不都合を解消するために、実務上生み出された担保の1つです。具体的には、以下のようなメリットがあります。

①「不動産に対してしか設定できない」という抵当権の不都合の解消

譲渡担保は、財産的価値があり、かつ譲り渡すことができるものであれば、何でも担保目的物とすることが出来ます。特定の動産や債権はもちろんですが、実務では、「将来取得するものも含めて複数の動産や債権を“1セット”にして譲り渡す」ということも行われています(「集合物譲渡担保」「集合債権譲渡担保」)。

②「自分で使用することができない」という質権の不都合を解消

譲渡担保は、担保権者に担保目的物を引き渡す必要がないため、担保権設定者が担保目的物を従来どおり使用することができます

③実行手続の簡易化

譲渡担保は、法律に規定のない担保ですので、裁判所での手続を経ることなく、比較的簡単に優先弁済を受けることができます。詳しくは、コラム「裁判所を利用しない担保権の実行方法」を参照してください。

2 仮登記担保

仮登記担保とは、金銭の支払いを目的とする契約の締結にあたって、「債務者が、債務を履行しないときは、債務者に属する所有権その他の財産権を、債権者に移転します」とあらかじめ合意しておき、この合意に基づいて仮登記・仮登録をしておく、という形式をとる担保のことをいいます(仮登記担保契約に関する法律第1条参照)。上記の合意は、法形式としては、代物弁済(民法482条)の予約や停止条件付代物弁済契約などと評価されています。

3 所有権留保

所有権留保とは、民法の原則によれば、売買契約の成立によって本来売主から買主に移転する所有権を(民法176条参照)、売買代金の支払いが完了するまでは売主に留保する(=買主に移転しない)、という形式をとる担保のことをいいます。

以上

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