裁判所を利用した担保権の実行方法

第1 はじめに

債務者が任意に債務を履行せず、交渉をしても履行の目処が立たないような場合には、1つの対応策として担保目的物から強制的に債権の回収を図ることが考えられます。これを講学上「担保権を実行する」といいます。

さて「強制的に」と言っても、債務者に黙って勝手に担保目的物を売却することはできません(自力救済の禁止)。民法上規定のある担保物権については、民事執行法という法律にしたがい、裁判所を利用して担保権を実行することになります(民事執行法第3章参照)。そして、民事執行法は、担保目的物を基準として、①不動産を担保とした場合、②動産を担保とした場合、③債権その他の財産権を担保とした場合の担保権実行手続を定めています。以下、この民事執行法の区分にしたがい、具体的な担保権の実行手続の概要について説明します。

なお、いわゆる非典型担保物権については、既存の法律に定められた仕組みを組み合わせることにより、裁判手続きによることなく債権の回収を図ることができます。詳しくは、コラム「裁判所を利用しない担保権の実行方法」を参照してください。

第2 不動産を担保とした場合

1 担保権の実行方法の種類

不動産を担保の目的とする担保物権には、先取特権(民法325条~328条)、質権(民法356条~361条)、抵当権(民法369条以下)があります。担保として設定された不動産から債権の回収を図る方法(民事執行法180条以下)には、「担保不動産競売」と「担保不動産収益執行」の2つがあります(民事執行法180条)。また、法律の規定がある特殊な方法としては、「物上代位」(民法304条1項参照)というものがあります。

2 担保不動産競売

担保不動産競売とは、裁判所を介して、担保となった不動産を競売にかけて強制的に売却し、その代金から債権の回収を図る方法のことをいいます。

担保不動産競売は、担保権の存在を証明する書面等を提出することで、手続が開始します(民事執行法181条1項)。その際、申立手数料(担保権1つにつき4000円)とともに、予納金や差押え登記のための登録免許税など(債権の額や管轄する裁判所によって異なります)を納付しなければなりません。その後の基本的な手続の流れは、債権回収の一般的な方法である不動産執行の場合と同じです(民事執行法188条、45条~80条、82条~92条参照)。詳しくは、コラム「不動産執行」を参照してください。

3 担保不動産収益執行

担保不動産収益執行とは、担保目的物である不動産から生じる賃料などの収益から債権の回収を図る方法のことをいいます。不動産が賃貸に適したもので、担保不動産競売をしても不動産価格が低く十分に債権を回収することができない場合などに利用されています。また担保不動産競売と担保不動産収益執行とは別々の手続ですので、場合に応じて双方を利用することも可能です。例えば、①担保不動産競売と担保不動産収益執行を同時に申し立て、競売手続が終了するまで担保不動産収益執行による収益の配当を受ける方法や、②先に担保不動産収益執行の申立てを行い、ある程度債権の回収をしたところで担保不動産競売を申し立てる方法などが考えられます

担保不動産収益執行も、担保不動産競売の場合と同様に、書面の提出と手数料等の納付することで手続が開始します(民事執行法181条1項)。その後の基本的な手続の流れは、強制管理の場合と同じです(民事執行法188条、93条~111条参照)。詳しくは、コラム「不動産執行」を参照してください。

4 物上代位

(1) 物上代位とは

物上代位とは、担保目的物そのものからの回収が不可能または困難になった場合に、その担保目的物の価値が姿を変えたものからも債権の回収を図ることができる制度のことを言います。

このように説明してもいまいちピンとこないと思うので、具体例を紹介します。

例えば、債務者が自己の持ち家に抵当権を設定したとしましょう。この家が、第三者の放火によって滅失してしまった場合、担保目的物である家はこの世に存在しませんから、競売等による債権の回収は不可能になります。

一方で、滅失した家の所有者である債務者は、法律上、放火した第三者に対して不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)をしたり、保険会社に対して保険金支払請求をしたりすることができます。これらの請求権は、担保目的物である家が滅失したことにより発生したものですから、家の有していた価値が姿を変えたものだと言えるでしょう。このような場合、抵当権者(債権者)は、債務者の有する上記損害賠償請求権または保険金支払請求権を、債務者に代わって行使することで債権の回収をすることができます(民法372条、304条1項)。このような債権回収方法のことを、「物上代位」といいます。

(2) 物上代位の手続の概要

物上代位を行うためには、価値の変形したものの「払渡し又は引渡し」が行われるよりも前に、対象となる請求権を差し押さえなければならない(民法304条1項但書参照)、という点に注意が必要です。上記の例でいうと、債権者が差し押さえるよりも前に、保険金が債務者に支払われている場合には、保険金支払請求権について物上代位することはできません。この差押えの手続は、担保権の存在を証明する書面等を裁判所に提出することにより開始します(民事執行法193条1項後段)。

(3) 担保不動産収益執行との違い

賃貸に適した担保不動産の場合、債権者は競売ではなく担保不動産収益執行というかたちで債権回収をはかることができる旨説明しました。一方で、担保不動産について発生する賃料債権については、物上代位を利用して債権の回収を図ることも可能です(民法304条1項本文参照)。どちらも担保不動産の賃料から債権の回収を図る点で共通していますが、それぞれ次のようなメリット・デメリットがあります。

①担保不動産収益執行の場合

○選任された管理人による不法占有者の排除などの適切な管理が期待できる

○担保権者が、賃貸人を特定する必要がない(管理人が実施します)

×収益から、管理人の報酬や経費等が控除されてしまう

×配当は、数ヶ月に1回しか受けられない

×申立て時に、予納金など多額の費用が必要となる

②物上代位の場合

○賃料全額について取得することができる

○毎月賃借人から賃料を得ることができる

○申立てにかかる費用が、比較的低額に抑えられる

×債務者が、適切な不動産管理を行わない可能性がある

×担保権者が、賃貸人を特定し、個別に取り立てなければならない

したがって、比較的大規模物件で管理費用に見合う収益が見込まれる場合には担保不動産収益執行を、管理人の費用に見合う収益が見込まれない比較的小規模な物件の場合には物上代位を選択するといいでしょう。

第3 動産を担保とした場合

1 担保権の実行方法の種類

動産を担保の目的とする担保物権には、先取特権(民法311条~324条)、質権(民法352条~355条)があります。このコラムでは、原則となる動産競売の方法を説明して、その後、例外的な債権回収方法について説明します。

2 動産競売の方法

動産競売は、債権者が、①担保目的物たる動産の提出、②「動産の占有者が差押えを承諾することを証する文書」(以下、「差押承諾文書」)の提出、③競売開始許可決定書の謄本の提出+債務者への送達のいずれかによって開始します(民事執行法190条1項)。

①の方法について、担保目的物である動産が債務者の手元にある場合、債権者は債務者から当該動産を引き渡してもらう必要があります。しかし、債務不履行状態にある債務者が、任意に引き渡すことは通常期待できません。

②の差押承諾文書も、①動産の場合と同様に、債務者の協力を得て作成するのは難しいものです。仮に差押承諾文書を作成するのであれば、契約書作成時など早い段階で作成しておくといいでしょう。

上記債務者の協力を得た方法が採れない場合には、③競売開始許可決定書の謄本の提出+債務者への送達の方法を選択することになります。この場合、まずは担保権の存在を証する文書を裁判所に提出して、動産競売開始許可の申立てをしましょう(民事執行法190条2項)。裁判所が、競売開始の許可をした場合には、競売許可決定書の謄本を裁判所に提出し、かつ競売許可の決定が債務者に送達されることによって動産競売の手続が開始します(民事執行法190条1項3号、123条2項)。

その後の基本的な手続の流れは、動産執行の場合と同じです(民事執行法192条、122条~142条参照)。詳しくは、コラム「船舶執行・動産執行」を参照してください。

3 動産競売が不可能または困難な場合

例えば、先取特権の担保目的物が転売されてしまい、債務者の手元にない場合には、担保目的物を競売にかけ債権の回収を図ることは困難です。このように動産そのものから債権の回収が不可能または困難な場合には、不動産の場合と同様に、「物上代位」という制度を利用して債権回収を図ること可能です(民法304条1項)。

4 質権の場合の特則

動産を目的とする担保権は、上記動産競売によって債権回収を図るのが原則です(民事執行法190条1項参照)。もっとも、動産質権の場合に限っては、例外的に、競売によらずに債権回収を図ることが認められています。具体的には、被担保債権の履行に代えて、その動産を取得するという方法です(簡易な弁済充当。民法354条)。簡易な弁済充当が認められるためには、①裁判所に請求を行い、「正当な理由」ありと認められること(非訟事件手続法93条1項)、②上記請求を行う旨を債務者に通知することが必要です。この「正当な理由」は、質物の価値が低く、動産競売手続だとかえって費用倒れになるおそれがある場合や、買い手がつかないおそれがある場合などに認められます。

簡易な弁済充当の手続は、裁判所の選任した鑑定人の評価に従うことになります。このとき、鑑定人の評価額が、被担保債権の額を上回る場合には、その差額を質権設定者に返還しなければなりません。

※流質契約について
日常用語として、「○○を質草にして、お金を調達した」という表現をすることがあります。これは、「○○」に質権を設定して、金銭消費貸借契約(民法487条)を締結したことを意味します。このような場合、「貸金の返還期限までに支払いをしないときは、引き渡した目的物で代わりに弁済する」という内容の合意がなされています、このような合意を「流質契約」といいます。流質契約は、民法上原則として禁止されています(民法349条)。ただし、例外的に、①被担保債権が商行為によって生じた場合(商法515条)と②質屋営業法によって規制されている質屋の場合(質屋営業法19条)に限り、流質契約によって債権の回収を図ることもできます。上記の「質草にして~」というケースは、質屋さんを利用したケース(②の場合)のことを指すのが一般的です。

第4 債権その他の財産権を担保とした場合

1 担保権の実行方法の種類

債権その他の財産権を担保の目的とする担保物権には、質権(民法362条~366条条)があります。また、一般先取特権(民法306条~310条)の場合に債務者の有する債権が担保目的物となることがあります。このコラムでは、債権を担保の目的としたケースを想定して、原則となる手続と質権の場合の特則を説明します。

2 債権を目的とする担保権の実行

債権を目的とする担保権の実行は、担保権の存在を証明する書面等を提出することで、手続が開始します(民事執行法193条1項)。その後の基本的な手続の流れは、債権執行の場合と同じです(民事執行法193条2項、143条~167条参照)。詳しくは、コラム「債権執行①」コラム「債権執行②」を参照してください。

3 権利質の場合の特則 

動産質権の場合と同様に、権利質の場合にも、強制執行によらない債権回収方法が認められています。具体的には、担保権者である債権者が、担保の対象となっている債権を直接取り立てることで、自己の債権を回収するというものです(民法366条1項)。たとえば、債務者の銀行に対する預金債権について権利質を設定した場合、担保権者である債権者は、自己の債権の限度で、債務者の預金を引き下ろすことができます。もっとも、債権者による債務者の預金の引き下ろしが認められるためには、預金債権が権利質の対象となったことについて、債務者が銀行に対して事前に通知する、または銀行が承諾することが必要となりますので注意してください(民法364条、467条1項)。

第5 留置権を利用した特殊な回収方法

留置権は、優先弁済的効力は認められていません。ただし、債権者としては、債務者が債務を履行するまで留置物を保管しておくのも大変ですから、裁判者に申し立てることで、留置物をお金に換価して留置することが認められています(民事執行法195条)。そして、実務では、この換価金と債権者の債権を相殺する(詳しくはコラム「相殺を利用した債権の回収方法」参照)という法律構成をして、事実上の優先弁済を図ることがあります。

以上

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