人を利用した担保(人的担保)について
第1 人的担保とは
人的担保とは、日常用語として「保証」とよばれているもののことです。典型的なケースとしては、次のようなものです。
<モデルケース>
Aは、Bに対して、500万円を貸し付けた(金銭消費貸借契約(民法587条))。
Cは、Aとの間で、AのBに対する上記500万円の貸金債権について、保証契約を締結した。
モデルケースでいうCのような人のことを、「保証人」と言います。日常用語で、「○○の保証人になった。」というのは、まさに人的担保としての「保証」のことを指します。
人的担保は、書面による契約(民法446条2項)をするだけで簡単に請求先を増やすことができる点にメリットがあります。モデルケースでいえば、Aは、Cと保証契約を締結したことにより、500万円の請求先を1つ増やすことができたことになります。これに対して、物的担保の場合、基本的には契約によって担保を設定することができますが、登記手続が必要な場合があったり(民法177条、178条)、実際に債権を回収するためには一定の手続・手順を踏まなければならなかったりと手間がかかります(詳しくはコラム「裁判所を利用した担保権の実行方法」、コラム「裁判所を利用しない担保権の実行方法」)。
また、物的担保で担保として機能するのは、担保目的物の価値が限度であるのに対して、人的担保の場合にはそのような限度がない点も大きなメリットです。モデルケースでいえば、Aは、BだけでなくCの全財産を対象として、500万円の回収を図ることができます。これに対して、物的担保の場合、担保目的物の価値が債権額より低かった場合には、担保目的物および担保権設定者からそれ以上回収することはできません。
第2 人的担保の種類
1 3つの「保証」
民法上予定している人的担保には、「保証」、「連帯保証」、「根保証」と呼ばれるものがあります。どれも「債務者に代わって、債務を履行しなければならない義務」(「保証債務」)を負うという点では共通です。「連帯保証」と「根保証」は、「保証」をベースにして、いわば“オプション”をつけた人的担保類型です。以下、ベースとなる「保証」のことを「通常保証」と表現します。
- ※第4の「保証」!? ~「身元保証」について~
「入社(入学)の際に保証人になってもらった」という話は、一度は聞いたことがあると思います。このような場面で用いられている保証のことを、特に「身元保証」といいます。
「身元保証」という言葉は、非常に多義的に用いられることがあります。一般的には、「その者の出身や素性、経歴について間違いないことを確認する」といったイメージでしょうし、実際にこのような意味合いで用いられていることが多いです。
しかし、中には「従業員の行為によって、会社が損害を被った場合は、その損害を賠償することを約束する」(身元保証法に関する法律1条参照)という意味で用いられることもあります。このような「身元保証」の場合、身元保証人は、会社の損害賠償請求権を担保する役割があります。
このコラムでは、「人的担保」に「身元保証」を含まないという前提で説明をします。
2 「連帯保証」の特殊性
「通常保証」の場合には、保証人に①催告の抗弁権(民法452条本文)、②検索の抗弁権(民法453条)、③分別の利益(民法456条)というのが認められています。
①催告の抗弁権とは、「まずは主たる債務者に請求してくれ。」と言って債権者からの請求を拒むことができる権利のことをいいます(民法452条)。モデルケースでいえば、債権者Aが主たる債務者Bへの支払請求をせずに、いきなり保証人Cに対して500万円全額の支払いを請求してきたときは、Cは催告の抗弁権によりAの請求を拒絶することができます。
②検索の抗弁権とは、「まずは主たる債務者の財産に強制執行しろ。」と債権者に請求することができる権利のことをいいます(民法453条)。但し、検索の抗弁権を行使するには、①主たる債務者が弁済する資力があること、②その財産の執行が容易であることを証明する必要があります。モデルケースでいえば、Cは、Bに強制執行可能な財産の存在を主張・立証することができれば、検索の抗弁権によりAの請求を拒絶することができます。
③分別の利益とは、保証人が複数いる場合に、各保証人の負担が、主たる債務を保証人の頭数で分割した額になる利益のことをいいます(民法456条)。モデルケースでいえば、Cの他にもう1人保証人Dがいたとすると、CとDがそれぞれ負担する保証債務の額は、保証債務500万円を保証人に頭数で割った250万円になります。そして、債権者Aは、CおよびDに対してそれぞれ250万しか請求できないことになります。
「連帯保証」とは、上記①催告の抗弁権、②検索の抗弁権、③分別の利益が認められていない人的担保のことをいいます(民法454条参照)。言い換えれば、「連帯保証」は、「債権者は、履行期限さえ到来すれば、主たる債務者への請求・強制執行の有無、保証人の人数にかかわらず、保証人に対して全額の履行を請求できる」という点で、債権者に大変有利な“オプション”をつけたものだと説明することができます。
3 根保証の特殊性
通常保証の場合、保証契約を締結する段階で、被担保債権が具体的に特定されています。モデルケースでいえば、「平成○年○月○日に、AB間の金銭消費貸借契約によって発生した500万円の貸金債権」といったかたちです。人的担保には、上記のとおり「債権者は、保証債務の限度で、保証人の全財産から債権回収を図ることができる」という性質があるので、保証人の負担が無制限に拡大するおそれを回避し、あらかじめ保証人に保証債務の範囲を認識させる目的があります。
もっとも実務では、被担保債権を具体的に特定することが困難な場合があります。例えば、モデルケースでいうAとBの関係が、「Aの商品を、Bが継続的に買い受ける(民法555条)」というものだったとしましょう。この場合、「平成○年○月○日発生の○○万円の代金債権」といったかたちで、事前に被担保債権の内容を具体的に特定することは難しいでしょう。このような関係があることを前提にして、主たる債務者が将来負担する債務のうち、一定の範囲に属する不特定の債務を包括的に保証することを「根保証」といいます(民法465条の2第1項)。言い換えれば、「根保証」は、被担保債権の特定という「通常保証」の制約を外す“オプション”をつけたものだと説明することができます。
第3 人的担保の設定方法
債権者と保証人になる者との契約(保証契約)によって、保証債務が発生します。主たる債務者に連絡したり、承諾を得たりするする必要はありません。ただし、保証契約は、必ず書面で行わなければならないことになっています(民法446条2項)。後日保証人から「そんな契約は知らない」などと争われないように、保証人の意思をキチンと確認した上で契約書を作成しておくといいでしょう。
「連帯保証」にする場合には、「連帯保証」である旨が分かるような記載も必要となります。なお会社の取引によって発生した債権の保証や会社が保証人になる場合は、特約がない限り、「連帯保証」になる点に注意が必要です(商法511条2項)。
「根保証」にする場合には、あらかじめ被担保債権を特定することができないとしても、できる限りその範囲を画定することが必要だとされています。民法では、個人が貸金等についての根保証をする契約は、あらかじめ保証債務の限度(「極度額」)を定めなければならないと規定しています(民法465条の2第2項)。また、その他の根保証についても、裁判実務では、保証人の不利益が最小限度になるような運用がなされています。
第4 人的担保による債権回収方法
保証人は、債務を主たる債務者が履行しない場合に、主たる債務者に代わって履行しなければならないという義務を負っています(保証債務)。保証債務の範囲は、契約で指定された債務全額およびこれに付随する債務(民法447条1項参照)です。
債権者は、主たる債務者が保証債務の範囲に属する債務を履行しないときは、保証人に対して直接履行を請求することができます。請求の方法は、主たる債務者に対する請求の方法と同様です。
以上