破産手続における債権回収

第1 はじめに

コラム「破産手続の流れ」で、取引先の倒産処理として破産手続が選択された場合に、どのような手続の流れになるのかを説明しました。さて債権者としては、破産手続が開始してしまった以上、債権全額を回収するのは難しいですが、それでも1円でも多く回収したいと思うことでしょう。このコラムでは、取引先が倒産して破産手続に移行した場合に、債権回収に向けて債権者がとるべき対応について詳しく説明します。

第2 債権届出書の提出

破産手続の申立てがされて、裁判所が破産手続の開始を決定すると、裁判所から各債権者宛に開始決定の通知と債権届出書が送られてきます。債権届出書には届出期間が記載されていますので、必ずその期間内に届出書を出さなければいけません。期間内に届け出ないと、余分な費用を支払わなければならなくなったり、最悪の場合、配当を受けられなくなったりすることもあります。

また、まれに債権届出書が債権者に届かないことがあります。倒産手続で混乱している取引先が、債権者一覧を作成するときにミスをして漏れてしまっていることがあるのです。その場合でも、債権届出をしなければ配当は受けられません。このようなときは、破産管財人の連絡先を調べ、直接連絡するなどして届出書を入手する必要があります。

第3 相殺

1 相殺の手段

取引先が自社に対して債権を有しているときは、相殺の手続をとります。内容証明郵便で相殺する旨の通知を送付するのが一般的でしょう。内容は、普通の相殺のときと同じで構いません。内容証明郵便の送付先は、破産手続開始決定前は取引先の代表取締役宛もしくは破産申立代理人弁護士宛です。破産手続開始決定後は、破産管財人宛になります。

2 相殺の時期

破産手続においては、原則としてはs案手続終了時まで相殺ができます。ただし、手続終了前であっても、相殺ができなくなる場合がありますので注意してください。それは、破産管財人から「○日までに、相殺をするかしないかの返答をしてください。」と求められた場合です。このような申し出を催告といいます。この催告に示された期限(催告期間)を経過してしますと、それ以降は相殺ができません(破産法73条1項)。なお催告期間は、1ヶ月程度が多いです。

3 債務の取得時期による相殺の制限

自社が取引先に対して債務を有していないため相殺ができないなら、他の会社から取引先に対する債務を買い取ってその債務と自社の債権を相殺すればいいのではないかと思う方がいらっしゃるかもしれません。しかし、そのようなことはできません。取引先が支払不能に陥った後にもっぱら売掛金と相殺する目的で取引先に対して債務を負担したり、あるいは、買掛金がある場合に、取引先が支払不能状態にあることがわかっていたのに取引先に対する債権を取得したりした場合などは相殺が認められていないのです(破産法71条1項)。

第4 担保権の行使

1 一般的な運用

抵当権などの担保権は、破産手続においては「別除権」と呼ばれます。

債権者は、破産手続によらずに自由に担保権の実行ができます。もっとも、取引先の破産手続が開始しても、担保権を実行しなければいけないのではありません。たとえば、債権者が取引先所有の土地に抵当権を有していたとすると、抵当権の実行には時間と費用がかかる上に、市場よりも安い金額で落札されることがほとんどです。そこで、債権者としては、破産管財人にその不動産を任意売却してもらうようにします。債権者の通常の意思としては、手段は何でもいいから1円でも多く回収したいと考えるのが通常ですので、直ちに抵当権を実行したりせず、このような手段をとることが多いのです。

2 注意点

担保権を実行しても全額の債権が回収できなかった場合、その残額について破産手続に参加することができます。もっとも、それは逆にいうと、原則として担保権の実行が終了していないと配当が受けられないということを意味します。したがって、2番抵当や3番抵当を有している場合など、債権回収の見込みが低いときには、担保権を放棄して破産手続に参加するということも検討しなければなりません。

第5 具体的事例の検討

それでは実際の手続においてどのような点が問題になるのか、具体的な事例を交えて紹介します。なお以下の事例は、請負契約の一方当事者が破産した場合を想定しています。

1 請負人の破産

<事例>
工務店に自宅の新築を依頼したところ、工務店が破産するとのことで工事が中止されてしましました。注文者としてどのような対応がとれるでしょうか?

(1) 請負契約はどうなるか

請負契約において請負人が破産した場合、請負契約の目的である仕事が当該請負人でなければ完成できない場合以外は、破産管財人は当該契約を解除するのか続行するのかを選択することができます(破産法53条1項)。本件の事例のような自宅の新築工事は、他の業者でも完成させることができる仕事ですから、破産管財人は建築工事の契約を続行するのか解除するのかを選択できます。

もっとも、破産管財人はすぐに契約を解除するか否かを回答してくれるとは限りません。注文者としては、もし解除されるなら速やかに別の業者を探す必要も出てくるでしょう。そこで、注文者は、破産管財人に対して契約を解除するか否かの回答をするように求めることができます。そして、破産管財人から返答がない場合は、請負契約は解除したものとみなされます(破産法53条2項)。

また、注文者の方から契約を解除することもできます。ただし、その際には、解除に伴う損害があれば賠償しなければなりません(民法641条)。

(2) 破産管財人が請負契約を解除した場合の処理

破産手続開始決定後に工事を続行するのは現実的には難しいので、破産管財人は請負契約を解除することが多いと考えられます。この場合、注文者は、工事済みの部分について請負代金を支払わなければなりません。そうすると、請負代金を算定するために、どこまで請負人が工事を行ったのかを明らかにしなければなりません。そこで工事済みの部分がどこなのかを破産管財人ともめないように、他の業者に工事を引き継がせる前に、現状を写真に残しておくとよいでしょう。

2 注文者の破産

<事例>
工務店が建物の新築の注文を受けました。ところが、建築中の家屋の施主が破産してしましました。請負人としてどのような対応がとれるでしょうか?

(1) 請負契約はどうなるか

上記の場合、注文者の破産管財人・請負人のいずれからでも契約を解除することができます(民法642条1項前段)。

また、破産管財人及び請負人は、それぞれ相手方に対して契約を解除するか否かの回答を求めることもでき、それにもかかわらず回答がなされないときは、契約は解除されたものとみなされます(破産法53条3項、同条2項)。

(2) 請負契約が解除された場合

破産管財人もしくは請負人から契約が解除された場合、請負人が既にした仕事の報酬や費用は、破産債権となり、請負人は破産手続による配当を受けることができるにとどまります(民法642条1項後段)。

(3) 請負契約が解除されなかった場合

破産管財人もしくは請負人が契約を解除しなかった場合、契約通りに建物を完成させる必要があります。この場合の報酬は、破産手続による配当を受けることになるのですが、他の一般債権に優先して弁済を受けることができます(これを「財団債権」といいます。)

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