会社の“不具合”には誰が対応するか
第1 はじめに
株式会社の“不具合”を是正するために裁判をやるとなると、当然誰が裁判を起こすのか、言い換えれば誰が当事者になるのが相応しいか、という問題が生じます。このコラムでは、会社の“不具合”には誰が対応するのか、という役割分担についてお話ししたいと思います。
そもそも会社というのは、世の中をよりよいものにするために生み出された制度です。仮に社会に悪影響を及ぼすような“不具合”が会社に発生した場合に、この“不具合”に対して何もできないとなると、会社という制度を設けた趣旨に反します。このように考えると、会社の“不具合”によって迷惑を被るおそれがあれば、誰でも是正を求めて訴えを提起できる、ということもできます。
しかし、誰でも訴えることができることにすると、弊害も生じます。例えば、“不具合”がないにもかかわらず、“不具合”があるとの噂を聞いた者が、その噂に基づいて訴えを提起することができるようになってしまいます。さらに、ライバル会社などが、単に嫌がらせ目的等で訴えを提起する、ということも考えられます。このような訴えを認めてしまうと、訴訟がいくつも起こされることになります。そうすると、現に活動をしている株式会社としては、いわれもない訴訟にまで巻き込まれることになり困ってしまいます。
そこで会社法は、訴訟を行うことが本当に有用な場合に限定するために、“不具合”の有無を発見しうる者、いわば株式会社の“関係者”に限って、訴えを提起できることにしました。
第2 訴えを提起できる“関係者”
この“関係者”が誰なのかというのが問題になります。この問題は、個々の“不具合”によって異なるので、具体的な説明はコラムの各論に譲ります。以下、誰が“関係者”にあたるのかの原則論についてお話しします。
コラム「株主の権利」でお話ししたとおり、株式会社というロボットは株主が所有するものです。そうすると、所有者である株主が“不具合”を是正してもらうことができるのは、当然のこととも言えます。したがって、会社法に定める是正のための請求権の多くは、株主が権利行使できると定められています。
取締役などの役員はどうでしょうか。コラム「会社の機関」でお話ししたとおり、取締役は、株式会社というロボットのパイロットであり、ロボットの活動に関する責任者としての地位を有しています。そうすると、株式会社の“不具合”をもっとも良く分かる立場にあると言えます。したがって、会社法では、株主と同様に、是正を求めることができると定められている場合が多いです。但し、取締役が株式会社との関係で相手方当事者になってしまうと、訴訟の場で株式会社というロボットを操縦して取締役と争う者が不在になってしまいます(代表取締役が裁判上のパイロットになることについて会社法349条1項・4項)。そこで、会社法はパイロット不在の状況を避けるため、取締役が相手方当事者となる場合には、一次的には監査役が(会社法386条1項)、二次的には株主総会又は取締役会で選任された者が(会社法353条、364条)株式会社のパイロットとなって訴訟を追行することになっています。
コラム「監査役の職務の全体像」でお話ししたとおり、監査役の職務には会社に発生した“不具合”を是正することも含まれています。したがって、監査役が自ら裁判所に対して是正の訴えを提起することができるのは当然のことといえます。会社法においても、監査役はほとんどの請求権を行使できる当事者として規定されています。
債権者やその他の第三者の場合はどうでしょうか。これらの者も、株式会社との間で強い利害関係を有する場合もあります。しかし、株式会社というロボットから見ると、赤の他人であり、“不具合”の存否について知りうる立場にもありません。また、語弊を恐れずに言えば、仮に株式会社に“不具合”があっても、損さえしなければ問題ない、ということもできます。そうであれば、上記の者に是正を求めることができる権利を与える必要性は必ずしもありません。したがって、会社法では、株主や取締役などに認められた是正請求権の多くは、債権者その他の第三者について認められていません。但し、債権者については、株式会社の資金プールがなくなって債権を回収できなくなるおそれがあるので、一定の保護手続きが置かれている場合があります。
なお上記の説明は、あくまで株式会社の“不具合”の是正を、誰が求めることができるか、という観点の説明です。これとは異なり、株式会社の“不具合”によって、特定の者が迷惑を被った場合には、その者は直接株式会社や“不具合”の原因をつくった者(その多くは取締役)に対して、損害賠償請求をすることができます(会社法429条参照)。
以上