会社法トラブルその8 取締役の解任の訴え

第1 はじめに

トラブルその1からその7までのコラムは、主に株式会社や株主の利益を顧みずに、取締役が勝手な行為をしてしまった場合のことを想定してお話しをしてきました。そして、取締役の勝手な行為によって株式会社に何らかの“不具合”が生じたとき、または“不具合”が生じるおそれがあるときに、これを是正する手続が会社法上用意されていることも説明しました。しかし、個々の“不具合”をいくら是正しても、取締役が変わらなければ、また同じことが繰り返されるおそれがあります。そこで、会社法では、株主が取締役を解任する手続も用意しました。以下、どのような対応をとり得るのか詳しく説明します。

第2 株主総会の決議で取締役を解任する

コラム「会社の機関」において、出資者である株主は、経営の専門家である取締役に、株式会社の経営をお任せしているとお話ししました。このように「お任せ」できるのは、その人の人柄や能力に対する信頼があるからです。仮に、何らかの事情で信頼が失われた場合に、信頼できない人に株式会社の経営を任せるということは、株式会社の所有者たる株主にとっては、有害無益なことと言えます。そこで会社法は、出資者集団である株主総会の決議によって、「いつでも」理由を問わず取締役を解任することができることにしました(会社法339条1項、341条)。

株主総会の決議で解任できるといっても、株主総会という会議の目的事項(「議題」)にならなければ、意味がありません。そこで、取締役の解任を望む株主は、取締役に対して、「取締役○○(氏名)の解任の件」といった形式で、株主総会の議題にするよう請求をすることになります(会社法303条1項)。この請求は、原則として事前に行わなければなりませんが、取締役会を設置していない株式会社では株主総会の当日に提案をすることもできると解されています(309条5項反対解釈)。

“定期株主総会まで待てない”という場合には、一定の株式数(原則総議決権の3%)を一定期間(原則6ヶ月)保有する株主は、取締役に対して、臨時の株主総会を招集するよう請求することができます(会社法297条1項)。この請求によって株主総会が招集されない場合には、上記請求をした株主が裁判所の許可を得て株主総会を招集することができます(297条4項)。このような株主主導で株主総会を招集する手続きについて、詳しくはコラム「株主総会の招集手続①」を参照してください。

第3 訴えをもって取締役を解任する

1 いつ、誰がどのような方法で行使できるか

株主総会で取締役を解任する場合、同時に新たな取締役を選任するのが一般的です。これに対して、訴えをもって取締役を解任する場合、このような新たな取締役の選任という手続は伴いません。そうすると、訴えをもって取締役を解任することは、株式会社というロボットを操縦するパイロットに欠員が生じるという重大な結果が発生することを意味します。そこで会社法は、訴えをもって取締役を解任できる場合を、下記の通り、限定することにしました。

まず、上記の株主総会において、取締役を解任すべきかの話合いの場が設けられたことが先行していなければなりません。そして、取締役を解任する議案が株主総会で否決された場合にはじめて、株主は株主総会の日から30日間に限り、裁判所に訴えを提起して、取締役の解任について判断してもらうことができます(会社法854条1項柱書)。また、ここにいう「株主」も、株式会社に対して一定の影響力のある者、具体的には①総議決権又は発行済株式総数の3%以上にあたる株式を、②訴え提起の6ヶ月前から保有している者に限られます(非公開会社の場合、要件②はありません(会社法854条2項))。

なお、解任したい取締役だけでなく株式会社も相手方被告になる点に注意が必要です(会社法855条)。

2 どのような場合に、取締役が解任されるか

取締役として相応しくない事由がある場合、具体的には「職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があった」場合(会社法854条1項柱書)に、取締役の解任が認められます。以下、解任事由の注意点について説明します。

①「職務の執行に関し」

「職務の執行に関し」とは、会社法上、取締役が株式会社のためにすべきとされている事項(「職務」)と直接又は間接に関連してなされた事項のことをいいます。株式会社の目的である事業を行う行為のほか、競業行為・自己取引(会社法356条1項、365条1項参照)なども含まれます。

②「不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実」

「不正な行為」とは、取締役としての義務に違反して、わざと(故意)株式会社に損害を生じさせる行為のことを言います。

「法令若しくは定款に違反する重大な事実」とは、わざとか否かを問わず、取締役の経営判断を超えた、看過できない法令・定款違反行為のことを言います。例えば、特段の事由なく2年半もの間株主総会を招集しなかった事案で、「法令…に違反する重大な事実」があると認められました。

3 認容判決がなされたら、どうなるか

認容判決の効力について、直接定めた規定はありません。実務上は、判決によって当然に取締役は解任されたものと扱われています。なお、認容判決の効力は、取締役の残任期間における取締役としての地位を失わせる効果のみで、取締役に選任される資格を奪うものではありません。したがって、次の株主総会で再任される、ということは可能です。

第4 判決確定まで待てない場合には

1 職務執行停止の仮処分とは

解任の訴えは、現在取締役の地位にある者を、裁判所を通じて辞めさせる手続です。これ以外にも取締役を事実上辞めさせる手段としては、取締役選任決議をした株主総会の決議取消しの訴え、株主総会の決議無効・不存在確認の訴えなどがあります(詳しくはコラム「会社法トラブルその5 株主総会決議取消しの訴え他」参照)。これらの訴えは、認容判決が確定してはじめて取締役の地位が失われたものとして扱われます。裏を返すと、判決が確定するまでの間は、本来取締役には相応しくない者が経営に参加し、好き勝手することができることを意味します。株主としては、株式会社に損害が発生してから判決が認容されるのでは困ります。そこで、いち早く取締役の職務執行を止めさせるために利用されるのが、「職務執行停止の仮処分」です。

「職務執行停止の仮処分」とは、当該取締役が一時的に一切の職務執行を行うことができなくなる地位を仮に設定するものです(民事保全法23条2項)。そして、仮処分は、訴えに比べると簡易かつ迅速にその効力が生じる点にメリットがあります。

2 仮処分を行うために手続

仮処分が認められるためには、①被保全権利と②保全の必要性が、「一応存在する」と裁判官に推測(「疎明」、民事保全法13条1項)させる必要があります。ここに言う①被保全権利は、解任の訴えや株主総会決議取消しの訴えのことです。したがって、仮処分を申し立てる株主は、この①被保全権利が存在することを疎明する資料を提出しなければなりません。

②保全の必要性とは、「債権者に生じる著しい損害」または「急迫の危険」を避ける必要性があることを言います。取締役の職務執行停止の仮処分が申し立てられる場面は、その取締役に任せていたのでは株式会社に損害が発生する危険性が高い状況だと考えられます。そうすると株主は、②保全の必要性を基礎付ける資料として、そのまま取締役に職務の執行を継続すべきでない事由を疎明することになります。具体的には、業務執行の不適切な執行状況や経営能力不足、不正行為を行うおそれがあること等を推測させる資料を提出することになります。

3 仮処分がなされると?

職務執行停止の仮処分がなされると、その旨の登記がなされます(民事保全法56条)。これによって、「取締役は(一時的に)職務を執行することができない」という仮処分の効力が、世の中全ての人との関係で生じると解されています(対世効)。したがって、例えば仮処分を受けた取締役が、株式会社の取締役として第三者と契約をした場合には、その契約は職務執行権限のない者によって行われたとして無効となります。

なお職務執行停止の仮処分によって、株式会社の業務を行う者が事実上不在になることがあります。このような場合には、株主や株主が推薦する者を、取締役に代わり職務執行を行う者として選任するのが一般的です。これを「職務代行者選任の仮処分」と言います。

以上

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