定款に記載すべき事項

第1 定款とは

定款とは、「会社の組織と運営に関する事項を定める根本規則」と定義づけられています。会社をロボットと例えた場合、定款はちょうどロボットの性能を示す設計図あるいは取扱説明書のようなものにあたります(詳しくはコラム「会社設立の流れ」参照)。同コラムでは、ロボットには「社会で役立てる上で最低限これだけは盛り込んでおいて欲しいという一定の構造(基本構造)が要求されている。その「基本構造」を設計図に盛り込むことが必要になる。ということにも言及しました。ではここにいう「基本構造」とはどのようなものなのでしょうか。今回はこの「基本構造」の内容を中心に、定款に記載すべき事項について説明したいと思います。

第2 定款に記載すべき事項の概要

1 会社の「基本構造」に関する事項

典型的な会社を想定したときに、その会社の構造を知る上で必ず書いておいて欲しい情報というのが存在します。この情報のことを、「絶対的記載事項」と呼びます。絶対的記載事項は、会社の「基本構造」ですから、「基本構造」を欠く会社の存在を認めることはできません。したがって、法律上絶対的記載事項のない場合には、定款が無効となり、会社を設立することができません(公証人による定款の認証がなされない、という意味です。詳しくはコラム「会社設立の流れ」)。

2 会社の「オプション」に関する事項

コラム「会社設立の流れ」では、「基本構造」に加えてそれぞれの会社の性質に応じた「オプション」をつけることができることを説明しました。その「オプション」にも、設計図である定款に記載されなければその効力が認められないものと、法律に違反しない限り原則自由に記載できるものの2つがあります。そして会社法では、定款の記載がなければ効力が生じない事項を「相対的記載事項」、そうでない事項を「任意的記載事項」と呼んでいます。

以下、株式会社を前提に、それぞれの記載事項について説明します。

第3 絶対的記載事項

絶対的記載事項、すなわち会社の基本構造となるのは、具体的には以下の事項です。

①会社の目的(会社法27条1号)

設立後の会社が営む事業のことを言います。

会社が行える事業はこの「目的の範囲内」に限るとされています (民法34条参照)。会社の活動が社会に与えるインパクトの大きさに鑑みて、なるべき活動できる範囲を制限しようとする趣旨です。いわば会社の活動範囲を画定する“リミッター”のようなものがついていると考えると良いでしょう。その会社がどんな活動ができるのかは、取引相手をはじめ社会にとって重大な関心事由です。したがって、会社の「設計図」に当然記載されるべきものと言えますから、絶対的記載事項に位置付けられています。

もっとも、「目的の範囲内」をあまりに硬直的考えると、なかなか事業の範囲を拡大することができなかったり、取引をするだけして都合が悪ければ「あれは会社の目的の範囲外の行為で無効でした」という“後出しじゃんけん”を認めることになってしまったりと、逆に不都合が生じます。そこで判例は、「目的の範囲内」の行為には、定款記載の「目的を遂行するうえに直接または間接的に必要な行為」まで含まれるとして、柔軟な対応を行っています。また会社側も、定款の目的欄に「その他これに関連する事業」といった文言を加えて「目的の範囲」に幅を持たせる対応が採っています。

②商号(会社法27条2号)

会社の名称のことをいいます(会社法6条1項)。社会で活動する上で、名前・名称は、そのものの存在を示す重大な機能を有しています。したがって、絶対的記載事項に位置付けられています。

③本店の所在地(会社法27条3号)

会社の全事業の統括地がどこにあるのかを示すものです。これはロボットをどこで管理しているのかといった“活動拠点”を示すものだとも言えましょう。身近なところですと、車の車庫証明と言ったところでしょうか。この所在地という概念は、主に設立後の会社に関する手続をどこで行うかの基準に用いられます。例えば、会社に対する訴えをどの裁判所に提起するか(「土地管轄」という。会社法835条1項、848条参照)や、株主名簿(会社法125条1項)や計算書類等(会社法442条1項)などをどこに備え置くのかなどです。このようなに重大な機能を有していることから、絶対的記載事項に位置付けられました。

④設立に際して出資される財産の価額又はその最低額(会社法27条4号)

設立時における会社の資産規模を明示させるものです。会社にどれだけの財産があるのかということは、“そのロボットがどれくらいの排気量で、どれだけ活動できるのか”を示すようなものです。会社の目的と同様に、社会の重大な関心事由といえますから、絶対的記載事項に位置付けられています。

⑤発起人の氏名又は名称及び住所(会社法27条5号)

形式的には発起人として定款に署名をした者、実質的には会社の設立に必要な行為を行う者のことを指します。発起人は、自ら会社の設立を行った者で、かつ出資をして会社のオーナーになる者です(会社法25条2項)。そのような存在ですから、会社設立に関して会社法上厳重な責任を負います(会社法52条、53条参照)。そこで責任の所在を明確にするため、絶対的記載事項に位置付けられました。

⑥発行可能株式総数(会社法37条1項)

会社に対して出資を行い「株主」になると、全株主の出資額のうち自分が出資した額の割合(これを「持分比率」と言います)に応じて、会社に対する一定の権利を取得します(詳しくはコラム「株主の権利」参照)。株主の権利が持分比率に基づくことを踏まえると、たとえば会社がどんどん資金調達をして株主の数が増えれば、持分比率は小さくなり、自己の有する株主としての権利の価値が損なわれることになります。このような株主の権利を防ぐため、発行可能株式総数は、持分比率の低下に歯止めをかける機能を有しています。

第4 相対的記載事項

「相対的記載事項」とは、その記載がなくても定款の効力には影響はないのですが、当該事項に関して「定款の定めがなければ効力が生じない事項」(会社法28、29条)のことを言います。相対的記載事項に該当する事項は相当な範囲になりますが、大雑把に分類すると以下のようになります。

【相対的記載事項の類型】
  1. ①会社の運営方法の決定(=「決議」)をする機関の変更や決議の省略
  2. ②決議の手続や決議要件の緩和
    株主総会の招集通知の発出期間の短縮(会社法299条1項)や株主総会の決議要件の緩和・変更(会社法309条1~4項)など
  3. ③機関の設置や役員の任期
    取締役以外の機関の設置(会社法326条2項)や役員の任期の変更(会社法332条1項2項、334条1項、336条2項)など
  4. ④株主の権利行使要件の緩和
    株主総会の「議題」(会議の目的事項のこと)の提案要件の緩和(会社法303条2項)や「議案」(目的事項に関する具体的な提案)の提案要件の緩和(会社法304条)など
  5. ⑤株式の種類やその内容に関すること
    様々な種類の株式の発行(会社法108条2項)や株券を発行(会社法214条)など
  6. ⑥会社設立手続のオプション、その他の事項

相対的記載事項の詳しい内容については、それぞれの内容に関係するコラムでお話しします。今回は、⑥の会社設立手続のオプションについて説明します。

コラム「会社設立の流れ」において、定款という会社の設計図には、様々な「オプション」を盛り込むことができることを説明しました。そして、この「オプション」にあたる事項のうち、会社の財産形成に影響のある4つの事項については、必ず定款に記載して、その評価に対する「検査」を受けなければならない仕組みになっています(会社法33条1項、28条)。この「検査」の必要な会社設立手続上の「オプション」のことを、特に「変態設立事項」といいます。以下、詳しく説明します。

①現物出資(会社法28条1号)

「現物出資」とは、金銭による出資に代えて、金銭以外の財産(土地や必要な機材など)を出資する行為のことをいいます。会社は出資された財産によって会社の財産を形成するのですが、財産の価格が過大に評価されてしまい、実際には予定された財産を形成できなかったのでは困ります。また、「株主」という地位は出資額に応じて会社に対する影響力をもつことから、出資された財産の価格が過大に評価されると、現物出資を行った者に過剰に「株主」としての影響力を与えることになり、これまた不都合が生じます。これは金銭で出資された場合には起こりえないことですから、「オプション」として位置づけられました。

②財産引き受け(会社法28条2号)

「財産引き受け」とは、会社が設立された後にその会社が譲り受けることを条件にして、発起人が特定の財産を譲り受ける契約をする行為です。これも現物出資と同様に、財産の価格が過大に評価されることによる弊害が生じうることから、「オプション」として位置づけられました。

③発起人の報酬その他の特別利益(会社法28条3号)

端的に言えば、発起人に支払われる会社設立行為への対価のことです。発起人の功労に対して報酬を与えること自体は悪いことではありません。もっとも、その報酬は、本来であれば会社のために出資された金銭から支弁されることになります。発起人が自分に支払われる報酬を自由に決定できるとすると、本来会社の財産として形成されるべき金銭が流出して、予定された財産が形成できないことになってしまいます。このような発起人による“お手盛り”を防止するために、発起人への報酬の支払いは「オプション」として位置づけられました。

④設立費用(会社法28条4号)

定款の作成費用や設立事務所の賃料、通信費、株主募集の広告費など会社設立事務に必要な費用のことを言います。これも発起人が水増ししたり必要以上に費用をかけたりして、発起人の報酬の場合と同様に会社財産が流出する弊害が生じるおそれがあります。そこで、設立費用を会社財産から支弁することは「オプション」として位置づけられました。

第5 任意的記載事項

「任意的記載事項」は、これまでの記載事項とは異なり、定款への記載の有無が定款の効力にも、また当該記載事項の効力にも影響しません(会社法29条参照)。もっとも、一度定款に記載されると、その内容を変更・削除するためには、定款変更の手続(会社法455条、309条2項11号)を行わなければなりません。そうすると、簡単に変更できませんから、記載された内容に重みが出るという点に任意的記載事項の意義があるといわれています。

会社は、会社法の規定に違反しない限り、会社内部のルールや方針となる事項を自由に定めることができます。記載する内容は様々なものが考えられますが、具体例としては以下のようなものが考えられます。

①株主総会に関すること

会社は「毎事業年度の終了後一定の時期」に1回株主総会を開かなければなりません(会社法296条1項)。会社法は、株主総会を開催するまでの手続や決議方法について定めていますが、「どのタイミングでやるのか」「どのように進行するのか」については定めていません。そこで多くの会社では、定款で定時総会の開催時期や事業年度、定期総会の議長を定めることが行われています。

②役員の員数

会社法上は、「○○という役員は、□名以上いなければなりません」という最低基準のみ定めています。定款では、この最低基準を満たすかたちで具体的な役員の員数を定めることがあります。

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