特許法ケーススタディその5 類似商品への対処法

<前提となる事実>
 Aさんは、家電の製造・販売を行うB社の従業員で、商品開発部に勤務しています。
 Aさんは、従来の製品と比べて、低コストでかつ浄水能力の高い浄水ポットαの開発に成功しました。
 B社は、就業規則に基づきAさんから浄水ポットαの特許を受ける権利を譲り受けました。そして、B社は、浄水ポットαの特許出願を行い、何の問題もなく浄水ポットαの特許権を取得しました。
 B社は、特許権取得後、浄水ポットαの製造・販売を開始しました。当初は順調に売り上げを伸ばしていましたが、ある時点から売り上げが減少していきました。調査をしてみると、ライバル会社のD社が浄水ポットαの設計と全く同一の浄水ポットβを製造・販売しており、これによって売り上げが減少したことが分かりました。
Q5.さらに調査を進めると、D社は浄水ポットγの製造・販売も行っていることが分かりました。浄水ポットγは、浄水ポットαとは注ぎ口など一部細かな構造上の違いはあるものの、不純物を取り除く構造は同一で、浄水ポットαと同程度の浄水効果を得られるものであった。
 このような場合に、B社はD社に対して、どのような請求ができますか?
本件のポイント-
特許権の保護の範囲を広げる方法

第1 はじめに

まず本件の問題点を確認しましょう。浄水ポットγと浄水ポットαは、一部構造違いがあるようです。そうすると、コラム「特許法ケーススタディその4 勝手に特許発明を利用された場合の対処法」で説明した基準では、浄水ポットγは、浄水ポットαの構成要素を全て満たすものではありませんから、B社の特許権を侵害するものではないということになります。

おそらくこの結論には違和感があると思います。そこで考え出されたのが「均等論」という理論です。以下、詳しく説明します。

第2 均等論について

1 均等論の趣旨

「特許発明の技術的要素の構成を全て充足する場合に特許権侵害が認められる」とすると、特許発明の構成とどこか一部でも異なれば特許権侵害は認められない、という考え方もできます。実務でも、他社の発明品のコピーを目論む会社は、発明品を完全にコピーするのではなく、どこかの構成を変えて「特許請求の範囲」から外れるように工夫して製造・販売を行うことが多いようです。しかし、これでは特許発明と実質的に同一のものといえる模倣品の流通を許容することになりますから、社会正義の理念に反します。

これに対して、「特許権の内容は、特許権者の願書の記載で決まる。模倣品を防ぎたいのであれば、特許権者が、模倣品が出てくることを想定して、できる限り広く特許権を取得できるように願書を記載すればいいのではないか」との反論がなされることがあります。しかし、人間は完璧ではありませんから、あらゆる模倣類型を想定することは困難です。特に日本の特許制度は、先に願書を提出した人が優先するいわば「早い者勝ち」ですから(先願主義)、あらゆる模倣類型を想定している余裕がないことが多いです。

このような事情から、特許権者が保護される範囲を解釈によって広げようという考え方がうまれました。これが「均等論」です。

2 均等論の要件

「均等論」とは、簡単に言えば「特許権者が独占する発明とは若干違う模倣品だけれども、実質的には同一の技術だと言えるようなものについては、特許権侵害を認めよう」という考え方です。この考え方は、平成10年の最高裁判所の判決で確立しました(ボールスプライン事件、最判平成10年2月24日民集52巻1号113頁)。同判決では、「均等論」が認められるための、次の5つ要件を明示しました。

①特許発明と模倣品との異なる部分が、特許発明の本質的部分でないこと

「本質的部分」とは、特許発明の中核をなす特徴的な技術のことです。特許発明と模倣品の技術的な特徴が同一であれば、それ以外の部分が多少異なっていたとしても、実質的には同一の技術であると評価しやすくなります。

②模倣品のように構成を置き換えても、特許発明の目的を達成することができること(置換可能性)

具体的には、特許発明と同一の作用効果があるかで判断します。

③模倣品のように構成を置き換えることが、模倣品が製造された当時、当業者が容易に想到することができたこと(置換容易性)

「当業者」とは、該当する発明の帰属する技術分野における通常の知識を持つ人(いわゆる業界人)のことです。模倣品とされる製品が、仮に「当業者」が容易に思いつかないようなものである場合には、それは新たな発明だと考えることができます。したがって、このような場合には、同じような技術に見えても、特許権侵害が認められにくくなります。

④模倣品が、特許発明の出願時点で、非公知の技術であり、かつ当業者が容易に推考できるものでないこと

裏返せば、模倣品の構成が、特許発明の一内容として特許権を取得できるものかという仮定的な判断です。仮に、模倣品が、特許発明の出願時の公知技術と同一または当業者が容易に推考できるものである場合は、新規性または進歩性の要件を満たさないので、特許権者を保護する必要がありません。

⑤模倣品の構成を、特許発明の出願手続において「特許請求の範囲」から意識的に除外した等の特段の事情がないこと

例えば、補正手続で「特許請求の範囲」の減縮した構成や、明細書等に除外する旨記載した構成などが挙げられます。

第3 本件の帰結

本件において、浄水ポットαの本質的部分は、不純物を取り除く技術です。浄水ポットγは、浄水ポットαと浄水部分の構造は同一で、同程度の浄水効果を見込めるものですので、実質的に同一の技術を利用した製品だと言えます。そうすると、浄水ポットγは浄水ポットαについての特許権を侵害するものだと言える可能性が高いと言えるでしょう。

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