商標法ケーススタディその1 商標権を取得するには

<前提となる事実>
 Aさんは、老舗和菓子店「あべ」を営んでいます。「あべ」は埼玉県に1店舗しかない小さな店ですが、地元では和菓子がおいしいと評判のお店です。
 この度「あべ」の和菓子が埼玉の銘菓に選ばれ、埼玉県周辺地域で話題になりました。そこでAさんは、これを機に「あべ」ブランドを全国に広めようと考えました。
Q1. Aさんが「あべ」ブランドを保護するにはどのような手続が必要でしょうか?
本件のポイント-
商標権の取得手続

第1 商標権を取得する意義

取り扱う商品やサービス(以下、「役務」)を他の事業者のものと識別することができる標識、すなわち「ブランド」のことを法律上「商標」と呼んでいます(商標法2条1項)。

Aさんがこれから「あべ」というブランドを確立しようと考えているのであれば、商標登録をして、商標権を取得することが望ましいと思われます。なぜならば、あらかじめ商標権を取得しておけば、その後「あべ」のブランドイメージに“タダ乗り”する者を排除することができるからです。裏を返せば、「あべ」というブランドが社会において確立したとしても、他人が「あべ」という商標権取得してしまうと、Aさんは「あべ」という商標を使用できなくなるおそれがあります。

第2 商標権を取得するまでの流れ

1 願書を提出する

まず商標権を取得しようとする者は、願書を特許庁の申請窓口に提出します(商標法5条1項)。

その際、申請する者の氏名・名称と住所・居所とともに、①登録を受けようとする商標が何なのかと、②その商標をどのような商品や役務の提供に使用するのかを明らかにしなければなりません。このうち使用する商品・役務については、政令にリスト化されていますので、その区分にしたがって記載することになります(商標法施行令1条・別表、商標法施行規則6条・別表)。

商標を使用する商品や役務まで記載するのは、商標権として保護されている範囲を明確にするためです。例えば、本件でAさんが「あべ」という商標権を取得したとしましょう。このとき、もし使用する商品や役務が指定されていないとすると、Aさん自身は和菓子の販売にのみ「あべ」とう商標を使用するつもりでも、理論上はあらゆる場面での「あべ」という商標の使用をAさんが独占することになってしまいます。これは法律による保護として“やり過ぎ”だといえるでしょう。そこで商標法は、上記のような記載を要求することによって、あくまでその商標を使用する範囲でのみの保護に限定することにしました。

※商標の対象となるもの

従来、商標とすることができたのは文字・図形・記号・立体形状に限られていました。平成26年の商標法改正により、これら従来の商標類型の他に、①音、②色彩のみの組み合わせ、③ホログラム、④動きなどにも商標が認められることになりました。

2 特許庁による審査を受ける

さて、上記願書の記載方法に問題がなければ、特許庁は、その商標について商標権という独占権を与えても良いものかを審査します。この審査は、商標権を認めることができない事由(以下、「拒絶事由」)が存在するか、と言う観点で行われます(商標法15条参照)。大まかに言うと、以下のような商標です。

①商品・役務の識別能力のない商標

ブランドは、“わが社の商品は、他の商品とは違う”という識別機能を通じて、商品の品質を保証したり商品の宣伝広告をしたりする 機能を有しています。したがって、識別能力のない商標は、そもそも保護するに値しません。

例えば、「パソコン」のように商品・役務の名称として普通に用いられている名称、慣習上使われている名称(商標法3条1項参照 1号、2号)や、○○商店のようにありふれた名称(同項4号、5号)などがあげられます。ただし、ありふれた名称ついては字体などの工夫によって識別機能を獲得した場合には、商標登録を受けることができる場合があります(商標法3条2項)。

②公益的観点から、商標登録を受けることができない商標

識別能力はあるとしても、社会全体としてみたとき、商標権として独占させることが望ましくない商標については、政策的に商標として保護しないことにしました。

例えば、国旗や国際連合の標章など公益的機関の表示と同一・類似のもの(商標法4条1項1~6、9号)、差別的表現など公序良俗を害するおそれのあるもの(同項7号)、商品・役務の質に誤認を生じさせるような商標(同項16号)などがあげられます。

③他人の登録商標、周知著名商標などと紛らわしい商標

特定の者を識別するために用いられている商標と誤認するおそれのある商標も、政策的に商標として保護されません。

例えば、本人の承諾なく他人の氏名・名称、肖像を使用したもの(商標法4条1項8号)、他人の登録商標と同一・類似のもの (同項11号)、他人の周知商標と同一・類似のもの(10号)などがあげられます。

審査の結果、拒絶事由が認められない場合には、「登録査定」が行われます(商標法16条)。そして、登録料を納付(商標法40条1項)することで、商標権の設定登録がなされて、はれて商標権を獲得することになります(商標法18条1項2項)。

仮に拒絶事由があるとされても、意見を述べ内容を補正する機会が与えられ(商標法15条の2)、補正を行った結果、拒絶事由が解消されれば商標権を獲得することができます。

第3 本件の帰結

本件の場合、「あべ」という商標はありふれた氏を使用したものですから、識別能力がないとして拒絶される可能性が高いです(商標法3条1項4号)。もっとも、筆自体の「あべ」という表記にするなどの工夫をすれば、商標登録を受けることができる可能性があります。商標として登録できるか否かはケースバイケースですので、申請する前に一度専門家である弁理士に相談するといいでしょう。

【商標と商号・屋号の違い】

よく似たものですし、日常生活において区別されずに使用されていることが多いですが、法律上は全く別のものです。

商号とは、会社を識別するための名称のこと(会社法6条1項)を言います。私たち一人一人の名前と機能としてはほとんど同じです。例えば、出生届に子どもの名前を書くように、法務局に対する設立登記の申請(商業登記法47条1項2項)の際に会社の商号を明らかにして行います。この申請がキチンとなされていれば、原則として申請したとおりの商号で登記されます。したがって、世の中に“同姓同名”の会社が存在することは当然あり得ます。また、商号には、他社が同一の名称を使うのを止める、ということは原則としてできません。

屋号とは、会社や商人の通称・ニックネームのようなもので、法律上特に意味はありません。

商標とは、商品や役務を識別するための標識のこと(商標法2条1項)を言います。本文の通り、「ブランド」を持ち、法律上“無断で使わせない”という独占力が付与されています。したがって、商標の登録にあたっては、厳密な審査がなされます。また、登録商標と同一または類似の商標を使って、他人の「ブランド力」を利用しようとする者に対しては、登録商標の使用を止めるよう請求することができる場合があります。

このように取得するための手続と独占力の有無という点で、大きな違いがあります。もっとも実務では、商号・屋号と同一の商標を登録している場合も多いです。

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