懲戒

第1 はじめに

従業員が、社内の秩序を乱すようなルール違反をしたとき、雇用主は従業員に対し制裁をすることができます。これが懲戒処分です。正確にいうと、懲戒処分とは、雇用主が従業員の企業秩序違反に対して課す制裁罰のことをいいます。

そして、最高裁判例によれば、企業秩序とは「企業がその存立を維持し目的たる事業の円滑な運営を図るため、それを構成する人的要素及びその所有し管理する物的施設の両者を総合し合理的・合目的的に配備組織して定立するもの」を指します(最高裁昭和54年10月30日判決)。もっとも、企業秩序に関しては、定義を正確に理解することは必要ではなく、おおざっぱに「職場の秩序」くらいに理解しておけばよいでしょう。

第2 適切に懲戒処分をするために

1 就業規則への記載

最高裁判例によると、雇用主が従業員に懲戒処分をするためには、就業規則に懲戒処分の「種別」と「事由」が記載され、その就業規則が周知されていることが必要です(最高裁平成15年10月10日判決-フジ興産事件)。これは、要するに、就業規則に書いていない処分はできないし、書いていないことを理由とする処分もできないことを意味します。 したがって、この判例に照らすと、就業規則のない会社や、規定があっても周知していない会社は、懲戒処分ができないということになります。ですから、もし就業規則の整備をしていない雇用主の方がいましたら、早急に整備する必要があります。 なお、新たに設けた懲戒規定をそれ以前の行為に適用することはできませんし(不遡及の原則)、過去に懲戒の対象となった行為について重ねて処罰をすることもできません(二重処罰の禁止)。

2 懲戒権の濫用にあたらない

就業規則への記載がされていたとしても、権利の濫用にあたるような懲戒権の行使は認められません(労働契約法15条)。裁判例では、①平等取扱い、②処分の相当性、③適正手続きという観点から濫用の有無が判断されています。そこで、これらの事情について個別に確認していきたいと思います。

(1) ①平等取扱い

平等取扱いとは、同種の非違行為に対しては、同等の懲戒処分をしなければならないということです。たとえば、以前無断欠勤が続いた従業員にけん責処分をした場合には、今回無断欠勤をした(別の)従業員に懲戒処分をする場合もけん責処分にとどめなければならず、出勤停止や降格処分をすることはできないということになります。

これは雇用主にとってはとても重要な視点です。雇用主としては、懲戒処分を行うにあたり、過去の事例を洗い出したり、本件の処分がもたらす先例としての影響を考慮しなければなりません。下手に甘い処分をしてしまうと、将来もそれに拘束されてしまうおそれがありますので、その点を意識する必要があります。

(2) ②処分の相当性

処分の相当性とは、従業員の行った行為とそれに対する制裁としての懲戒処分の重さが釣り合っている必要があるということです。たとえば、数回の遅刻によっていきなり懲戒解雇などのきわめて重い懲戒処分をすることはできません。

また、もはや企業秩序回復の必要性もないのにずっと昔の行為を持ち出して懲戒処分をすることもできません(最高裁平成18年10月6日判決)。

(3) ③適正手続き

懲戒処分をするときは、雇用主が一方的に処分を通達するのではなく、適正な手続きを経る必要があります。特に重要なのは本人への弁明の機会を与えることであり、仮に就業規則の規定がなくても本人の弁明の機会は与えるようにすべきです。

他には、懲罰委員会や労使協議会などで協議を行ったうえで懲戒処分を行うことが考えられます。

第3 懲戒処分の種別

就業規則に規定しておくことが必要な懲戒処分の種別にはいくつか種類があります。ここでは、一般的な懲戒処分の種別をみていきます。

1 戒告・けん責

戒告・けん責とは、もっとも軽い懲戒処分で、簡単にいうと「フォーマルな注意」です。口頭や文書で注意をしたり、始末書等の提出を求めたりすることが多いでしょう。

もっとも軽い懲戒処分ではありますが、複数回にわたって戒告・けん責処分を受けたことを理由により重い処分をすることはありえます。

2 減給

減給とは、本来支払われるべき賃金額からある期間、一定額を控除するものです。

ただし、賃金は従業員の生活の基盤なので、減給については労働基準法91条で制限が設けられています。すなわち、1回の減給額が平均賃金の1日分の半額を越え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を越えることはできません。

3 出勤停止

出勤停止とは、一定期間就労を禁止する処分です。「自宅待機」や「懲戒休職」などと呼ばれることもあります。ノーワーク・ノーペイの原則から、原則として賃金を支給する必要はありません。

4 降格・降級

降格・降級には、懲戒権の行使としてのものと、人事権の行使としてのものがあります。懲戒権の行使としての降格・降級は、企業秩序違反に対する制裁として役職や職能資格を引き下げる処分であることに特徴があります。

5 諭旨解雇

諭旨解雇とは、会社が従業員に退職を勧告し、本人の依願退職という形で退職させる処分です。

形式としては依願退職をいう形をとりますが、従業員を失職させるという点では懲戒解雇と同じなので、懲戒解雇に準じた厳しい有効性判断がなされます。

6 懲戒解雇

懲戒解雇の概要については、コラム「懲戒解雇とその範囲」で詳しく説明します。

第4 懲戒事由

懲戒事由についても就業規則に記載する必要があります。懲戒事由についてもコラム「懲戒解雇とその範囲」で詳しく説明していますので、そちらを参照してください。

第5 最後に

懲戒処分を適切に行うには、上記のチェックポイントをしっかりと意識することが必要です。重要なことなので再度触れますが、①就業規則への記載、②権利濫用にあたらない(ⅰ平等取扱い、ⅱ処分の相当性、ⅲ適正手続き)というチェックポイントをみたさないと、懲戒処分が無効ということになってしまいますので、十分注意してください。

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