問題社員に対する対応②
第1 はじめに
コラム「問題社員に対する対応①」に引き続き、今回も問題社員に対する対応を具体的なケースを見ていきたいと思います。
第2 具体的なケースの検討
<ケース3>
就業時間中に大量の私用メールを送る、交通費を不正に請求するなど、職場のルールに違反する。
1 問題点
雇用主が自ら職場のルールを設定している以上、従業員がルール違反をしていることを放置するのは、雇用主自ら職場の企業秩序を乱すことを推進することに他なりません。ですから、職場のルールに違反した者に対しては、毅然とした対応をとる必要があります。
2 やるべきこと
? 事実関係の確認
まず事実関係を迅速に正確に調査し、しっかり記録に残しておきましょう。たとえば、就業時間中の私用メールであれば、その送信履歴を確認し保存してください。また、交通費の不正請求であれば、請求伝票と支払記録を保存してください。なお、事実確認のために事情聴取を行う場合は、当該問題社員だけでなく、可能であれば第三者からも行って正確な事実関係の把握に努めてください。そうして把握した事実を書面にまとめましょう。
事実の確認・記録の際に注意してほしいのが、“事実”を“具体的に”記録してほしいということです。以下、詳しく説明します。
① “評価”だけではなく“事実”を中心に記載すること
たとえば、「社員Aは、職場のルールに違反した」という記録は“事実”ではなく“評価”を記載したものです。この場合の事実は、「社員Aは、就業時間中に私用メールを○回送信した」ということです。私用メールを送信したという“事実”を基に、就業規則等に照らし、職場のルールに違反したという“評価”を下すことになるのです。
② “具体的に”記載すること
たとえば、「何年何月何日」に、「どこ」で、「どのような行動」があったがゆえに「職場のルールに違反した」と判断したかを説明できるように記録を残しておかなければなりません。
<ケース4>
遅刻や欠勤はなく勤務態度はよいが、仕事がきわめて遅い。
1 問題点
このケースでは、問題社員の仕事が遅いため、仕事の質は他の社員の60%程度なのに、時間外労働が多く給料は他の社員の1.5倍などという事態が生じ得ます。
これでは、他の従業員の不公平感がたまってしまいますので、何らかの手立てを講じなければなりません。
2 やるべきこと
? 解雇は最終手段
率直に言って、このようなケース、すなわち従業員が能力不足の場合に、従業員を解雇するのは非常にハードルが高いです。このようなケースで解雇が認められるのは、忍耐強く指導・教育等を繰り返し、それでも改善されない場合に限定されます(詳しくは、コラム「普通解雇とその範囲」参照)。ですから、<ケース4>のように従業員の能力不足で解雇という手段をとるのは、本当に最終手段であると考えておいてください。
? 長時間残業の禁止
まず、他の従業員との不公平感をなくすため、長時間残業を禁止します。
? 求めている能力を明確にすること
能力不足とは、「○○という能力を求めているのに、それに至っていない」ということを意味します。そうだとすれば、雇用主が従業員にどのような能力を求めているかを明確に示さなければなりません。
そこで、雇用主が従業員に求めているのはどういう内容・水準で、どういう成果を出すものかをはっきりさせます。
? 改善を促す
求めている能力が明確になったところで、能力不足(<ケース4>では仕事の遅さ)を改善する努力をするよう促します。定期的に上司からのフィードバック等も行うとよいでしょう。
なお、問題社員の行動については、なるべく記録を残すことを意識してください。なぜなら、雇用主が能力不足社員に対し何らかの対応をとるためには、その社員の行動に問題があることを雇用主の側で立証しなければなりません。そこで、指導書などを作成したり、従業員から始末書、改善計画書の提出を求めたりして、証拠を残しておくことが重要になってきます。
その際には、<ケース3>で説明した“事実”を“具体的に”記載することを意識してください。
? 人事考課制度上の対応
<ケース1>(遅刻・欠勤が多いケース。詳しくはコラム「問題社員に対する対応①」参照)で説明したのと同様、配転、懲戒、昇給据置きなど人事考課制度上の対応をとることはもちろん可能です。ただし、根本的な解決にならない可能性があることを意識しておかなければなりません。
? 退職勧奨、解雇
この点も<ケース1>と同様です。もっとも、<ケース1>の場合は労働時間や出勤日を守らないという雇用契約上の義務違反が認められるのに対し、<ケース4>の場合は仕事が遅いだけで義務違反は認められません。そうすると、<ケース1>以上に解雇は困難といえ、退職勧奨の重要性がより高いといえます。
<ケース5>
社内での行動に全く問題のない社員だが、電車内の痴漢の容疑で逮捕された。
1 問題点
従業員が犯罪の容疑で逮捕されたとすると、勾留期間も含め最大で23日程度出社できない可能性があります。そのような場合は、特に対応に困ると思いますのでどのような手段をとればいいのか検討します。
また、このケースのような私生活上の行為を理由に懲戒処分や解雇処分をすることの相当性も別途検討しなければなりません。
2 やるべきこと
? 事実関係の確認
これは、<ケース3>の場合と同様です。
ただし、従業員が逮捕・勾留されている場合は、担当者が警察署等に出向いて接見をするという形で事情の確認を行うことになります。その際には、①被疑事実の有無、②今後の身の処し方(自主退職の意思)を確認してください。
? 対応
① 自主退職の意思がある場合
担当者が面会に行くか弁護人に依頼して勾留中の当該社員に退職届を書いて提出してもらうことになります。
② 自主退職の意思がない場合
鉄道会社や警備会社等コンプライアンス遵守が強く要請されるような業種でなければ、痴漢それ自体は私生活上の行為であり会社に直接の損害が及ぶことは少ないこと、欠勤日数も多くても20日前後であること、を考えると、解雇をすることは解雇権の濫用と判断されるおそれが高く、すべきでありません。
出勤停止等の懲戒処分を科す程度にしておくのが妥当であると思われます。
第3 最後に
以上、今回のコラムとコラム「問題社員に対する対応①」の2回にわたって5つのケースを見て問題社員についての対応を検討してきました。コラムで取り上げたのは、問題になることが多いと考えられるものをピックアップしたものですが、これ以外にも問題社員への対応が必要なケースは数多く存在すると思います。その対応は個々のケースによって変えていく必要がありますので、問題社員の対応に悩んでいる雇用主の方は、ぜひお気軽にご相談ください。