種類株式の活用方法①

会社経営者や株主のニーズに応じて、様々な株式を発行できることをコラム「種類株式について」で説明しました。このコラムでは、それぞれ特徴のある種類株式を具体的にどのような場面で活用できるかを説明したいと思います。ただし、会社の性質によっては、発行できない種類株式も存在しますので、注意して下さい。

なお本コラムのほかに、コラム「種類株式の活用方法②」でも種類株式の活用方法を紹介していますので、そちらも参考にしてください。

第1 会社の経営権を円滑に承継させるための活用

1 現経営者が死亡したときに備えて

(1) 問題の所在

例えば、現経営者が、“自分の死後は後継者である息子に会社の経営権と自分が保有する株式を承継させたい”と考える場面を想定しましょう。この場合、息子に議決権を集中させるかたちで株式を取得させることができれば、円滑に会社の経営権を承継させることができます。

もっとも、株式の承継を相続によって行う場合、相続人が複数いると、遺産分割によって経営者の株式が分散する可能性があります。遺言によって息子に全株式を遺贈することも考えられますが、そうすると他の相続人の不満が残りますし、遺留分の問題が生じるおそれがあります。

(2) 種類株式の活用方法

このような場合、会社の株式の一部を議決権制限株式に変更して、議決権制限株式が後継者である息子以外の相続人に承継させるようにすれば、問題は解消されるでしょう。このようにしておけば、他の相続人も一応株式を取得することができるので不満は生じにくいでしょうし、議決権のある株式は全て後継者である息子に承継させることができます。さらに、議決権制限株式を剰余金の配当に関する優先株式にしておけば、息子は会社の経営権、他の相続人は会社の利益をそれぞれ取得し、「Win-Win」の関係になるので、より他の相続人の不満を解消できるかと思います。

2 経営権の承継に対する株主の反対に備えて

(1) 問題の所在

相続人以外の者によって、会社の経営権の承継が妨げられる場合があります。例えば、非公開会社において、株主の保有する株式に相続が生じた場合に、相続人に株式が承継されないように、会社への株式の売渡請求(会社法174条)がなされる場合があります。この売渡請求は、株式の相続人を除く株主によって構成される株主総会の特別決議によって行われ、相続人は売渡しを拒むことができないという性質があります。したがって、相続によって会社の経営権を承継しようと思っていても、この売渡請求によって妨げられてしまうことが起こりうるのです。

(2) 種類株式の活用方法

このような場合にも、種類株式を活用することで、十分に対応することができます。1つの方法として、相続される株式以外の株式を議決権制限株式にしておくことが考えられます。議決権が行使できなければ、売渡請求が行われることはありません。

他にも、信用できる者に拒否権付株式を取得させておく方法があります。こうすれば拒否権付株式を保有する者が同意しない限り、会社への売渡請求は認められませんので、円滑な株式および会社の経営権の承継を行うことができます。

3 現経営者の生前に経営権を承継させる

(1) 問題の所在

“相続がからむから上記のような問題になるのだから、生前に全株式を贈与すればよいのではないか”という考えもあるでしょう。しかし、承継の時期が早すぎると、後継者となる息子が十分な経営判断応力を備えていないおそれがあります。

(2) 種類株式の活用方法

このような場合、拒否権付株式+取得条項付株式に変更した株式を1株だけ現経営者の手元に残して、保有する株式の全てを後継者に承継させる、という方法が考えられます。そして、拒否権を行使できるのは、後継者だけに任せるのが不安な事項にしておきます。そうすると、後継者に経営一般を任せつつ、一定の事項に関しては拒否権付株式を介して現経営者の意向を反映させることが出来ます。また「現経営者が死亡したときは、会社が当該株式を取得する」という取得条項にしておけば、拒否権という強大な権利のついた株式が相続によって後継者以外のものに承継されるのを防ぐことができます。

なお“後継者が、現経営者の保有する株式を承継する際に生じる購入代金や贈与税が支払えない”という場合には、属人的株式を利用することで同様の効果を得ることができます。例えば、後継者には承継できるだけの株式を承継させる一方で、現経営者の手元に残った株式について議決権を増加させておけば、現経営者の同意がなければ経営ができない仕組みをつくることができます。

※注釈:その他の注意点

生前に株式を贈与する場合も、現経営者死亡後に遺留分の問題が生じる場合があります。その様な場合には「経営承継円滑化法」を利用しましょう。手続上の難儀はありますが、贈与した株式について遺留分算定の基礎となる財産から除外したり、遺留分算定の基礎となる株式の価格を固定したりすることができます。
またコラム「スクイーズアウトについて」で紹介した方法によって、後継者に議決権を集中させ、その他の株主を排除することもできます。

第2 会社の危機に備えるための活用方法

1 現経営者による経営が立ちゆかなくなる場合への対抗策

例えば、敵対会社による買収や味方だと思っていた株主の反旗によって、現経営者による経営が立ちゆかなくなることがあります。

このような場合の危機管理としては、全部取得条項付株式を活用することが考えられます。全部取得条項付株式は、株主総会の特別決議さえあればいつでも当該株式を全て会社に取得させることができます。したがって、会社にとって望ましくない株主が増えてきたら、会社に全て株式を取得させて、都合の良い株主を募集すればよいことになります。もっとも株主総会の特別決議の決議要件は、3分の2以上の賛成ですので、経営者側は議決権の3分の2以上を常に確保しておく必要があります。

非公開会社の場合、株主は皆顔見知りの者であること多いので、会社の買収や株主の反旗という事態は生じにくいと思われます。もっとも、上記第1の「2 経営権の承継に対する株主の反対に備えて」でお話しした売渡請求によって、株主総会を構成する株主が相続人以外の株主だけになり、実質的な会社の乗っ取りが可能になってしまいます。そこで、上記の方法によって、このような事態を予防しておくと良いでしょう。

2 経営者不在の状態に備える

例えば、経営者兼大株主のオーナー社長が死亡した、行方不明になった、認知症になった等の事態が発生した場合、一時的に経営する者がいなくなることがあります。

このような場合も、種類株式の活用によって危機管理をすることができます。まずオーナー社長の死亡に備えるのであれば上記「第1 会社の経営権を円滑に承継させるための活用」の内容で対策ができます。

他方で、認知症や意識不明、行方不明などのケースでは、オーナー社長の保有する株式について相続が生じるわけではないので、オーナー社長の経営権及び議決権を行使するものがいない状態になります。このような場合に備えて、属人的株式を利用する方法が考えられます。例えば、「株主A(=オーナー社長)が認知症になったら、株主Bの議決権は○個とする」といったかたちで議決権が増加する属人的株式を信用のおける者に取得させておきます。増加した議決権の数が会社を取り仕切るに足りる議決権数(全議決権の3分の2)であれば、会社の経営が滞ったりオーナー社長の意に反した経営がなされたりするのを防ぐことができます。また、属人的株式にすると同時に取得条項付株式にしておけば、役目が終わったら出資してもらった額と引換えに会社が当該株式を回収するという活用もできます。

第3 内部統制としての活用

1 内部統制と種類株式の位置づけ

内部統制とは、適正かつ効率的な経営を達成するために、組織内部で適用されるルールや業務プロセスを整備して運用することを言います。また。整備されたルールや業務プロセス自体を指す言葉としても使われる場合があります。

会社法では、大会社(資本金が5億円以上または負債200億円以上の株式会社)には内部統制システムの構築が義務づけられていますが(会社法348条2項、362条5項)、日本の9割以上を占める中小企業にはこのような義務はありません。もっとも、内部統制のとれた会社は、企業理念に基づいた適正かつ効率的な経営ができていると評価されやすいので、中小企業であっても統制の方法を検討する価値はあります。種類株式は、その中でも「対株主政策」として大きな意義を持ちます。

2 具体的な活用方法

中小企業にとって1番注意しなければならないのは、株主の交代によるリスクです。中小企業は相対的に発行済株式が少ないですから、株主の交代が会社に与える影響は大きくなります。株主の交代にはじまって、コラム「スクイーズアウトについて」でお話ししたような事態に発展する可能性もあります。そこで、株主の構成をみて株式が分散してしまうリスクがどの程度あるのかを把握して、対策を講じる必要性が出てきます。以下、具体的な種類株主の活用方法を説明したいと思います。

株式の分散を防ぐのに1番手っ取り早いのは、すべての株式を譲渡制限株式にすることです。譲渡制限を設けておけば、株主は自由に株式を譲渡できなくなりますし、株主が死亡して相続が発生しても、会社は相続人に対して株式の売渡しを請求することができます(会社法174条)。

これ以外の方法としては、①経営者以外の株主の株式を議決権制限株式にする、②相続など株式の分散の可能性がある事項を条件とした取得条項付株式にするなどの対策も考えられます。もっとも、いずれも株主にとって魅力となる部分を残すような配慮も必要です。例えば、配当についての優先株式にする、剰余金の配当に関する議決権は制限しない、役員選任権や取得請求権も付加するなどがあります。これらの対策をしておくと、株主の意見が反映され利益を得る、または投下資本を回収する仕組みが残されていますので、不満を最小限に抑えることができると考えられます。

内部統制の方法として、従業員に株式を取得させることがあります。こうしておくと、議決権の存在や従業員の働きが剰余金の配当の額に影響するという構造から、会社への帰属意識や業務に対するモチベーションの向上を図ることができると言われています。もっとも、従業員が退職してしまうと、株主であることの魅力が減少し株式を譲渡されるおそれがありますから、上記のような対策を講じておく必要があるでしょう。

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