会社設立の流れ

第1 はじめに

会社設立の手続に関するルールは、会社法25条から103条にわたって規定されています。コラム「会社法ってなに?」で説明した通り、会社というロボットは、その扱い方によっては社会に悪影響を与えるおそれがあります。そこで会社法は、そのような会社が世の中に出回らないように、一定の手続を経なければ「会社」と名乗って活動できないことにしました。それはいわば、「性能の悪いロボットが世の中に出ないように、ロボットの製造過程を規律するルール」と例えることができるでしょう。以下、ロボットの製造過程になぞらえて説明したいと思います。

第2 会社設立の流れ

1、設計図をつくる -定款の作成-

(1) ロボットをつくる場合

まずロボットをつくろうと思ったら、“どんな目的・性能のロボットなのか”を示す設計図をつくるでしょう。ただ上記の通り、つくられるロボットはどんなものでも良いわけではなく、社会に悪影響を及ぼさないものでなければなりません。そうすると、設計図をつくる段階で、「社会で役立てる上で、最低限これだけは盛り込んでおかないと困る」という一定の構造(このコラムでは、「基本構造」と呼ぶことにします)が要求されることになります。

またロボットにオプションをつける場合には、そのオプションの設置によってロボットの性能に大きく関わる場合があります。例えば、空を飛べるように翼をつけたり、複数人のパイロットで操縦できるように座席を設置したりすることなどが挙げられます。そうすると、それらの事項もあらかじめ設計図に記しておく必要があるでしょう。

(2) 会社法上の位置づけ

会社法もまさにこれと同様の仕組みを置いています。会社を設立しようとする者は、最初に設立しようとする会社の「設計図」にあたる定款を作成しなければなりません(会社法26条1項)。その定款には、設立しようとする会社の形態にしたがって、一定の事項(詳しくはコラム「定款に記載すべき事項」参照)を記載しなければなりません(会社法27~29条)。

後述する「誰に運用してもらうか」など機関設計に関する事項(ただし、ロボットのパイロットにあたる者=取締役を除きます)は、上記のオプションにあたる事項ですので、あらかじめ定款で定めておくことになります(詳しくはコラム「定款に記載すべき事項」およびコラム「会社の機関」を参照)。

2、設計図のチェックを受ける -定款の認証-

(1) ロボットをつくる場合

ロボットの設計図は、ロボットをつくろうと思ったものが自分の思うようにつくるものですから、“設計ミス”であるのを見落としていて、実際につくったら欠陥だらけになってしまう場合もあります。また、欠陥品でないとしても、ロボットをつくろうと思った人の私利私欲のためにつくられるもので、とても世の中で活躍させることができるようなものではない場合もあります。そこで、設計図ができたら、本当に基本構造を満たしているのかを第三者がチェックして、お墨付きをもらう仕組みが望ましいと思われます。

(2) 会社法での位置づけ

この点、会社法でも、定款という設計図のチェックを受けて、「お墨付き」をもらわなければならないことになっています。具体的には、「公証人」と呼ばれる人に、作成した定款に問題がないかをチェックしてもらい、問題がなければ「認証」をもらうことになります(会社法30条1項)。

3、資金や材料を集めて、ロボットを形づくる -出資-

(1) ロボットをつくる場合

次にロボットをつくるにあたっては、資金や材料を集めなければなりません。ロボットをつくろうと思い立って設計図を書いた人が自ら必要な資金・材料を提供することができる場合もあれば、他の人にお願いして提供してもらう場合もあるでしょう。

(2) 会社法での位置づけ

会社を設立する場合も同様で、設計図である定款に定めた資金(会社法27条4号参照)を、自ら出資する、または第三者に出資してもらうことで会社の財産を形成します。この資金を発起人(設計図を書いた人のことです。会社法26条1項参照)相互で負担する設立方法を「発起設立」(会社法25条1項1号)と呼び、発起人だけでなく広く第三者にも負担してもらう設立方法を「募集設立」(会社法25条1項2号)と呼んでいます。

このとき、出資した者はその出資額に応じた数の株式を取得し、設立した会社の株主になります(会社法50条、102条2項)。この「株式」や「株主」という概念については、コラム「株主の権利」で詳しく説明します。設立手続との関係では少なくとも「出資者としての肩書を取得して(いわゆるオーナー)、下記のように会社の運営かかる関係者になった」程度に理解しておけばいいでしょう。

4、誰が実際にロボットを操縦するかを決める -役員の決定-

(1) ロボットをつくる場合

資金・材料が集まって実際にロボットが完成したとしても、操縦するパイロットなどロボットの運用に携わる人を決めておかないと、ロボットを動かして役立てることができません。ロボットの場合、操縦や運用には機械工学等の知識が必要ですから、専門家に任せるのが一番適切でしょう。また、ロボットの大きさによっては、複数人のパイロットで操縦することも考えられます。

もっとも、誰にパイロットを任せるかは出資をしてくれたオーナーにとっては大きな関心事です。したがって、誰がロボットの運用に携わるかは、原則としてオーナーの意向に従って決めることになります。

(2) 会社法での位置づけ

ここにいう「運用に携わる者」のことを会社法上「機関」と呼びます。そして、上記の定款で定めた機関設計に従い、誰が運用するのかをあらかじめ決めておくことになっています。

この「機関」に誰を選任するかは、設立の方法によって若干異なります。

発起設立の場合、発起人が出資額に応じた議決権(1株1議決権が原則)を有し、その過半数を獲得した者が設立後の会社を運営していくことになります(会社法38条1項、40条1項2項)。

これに対して募集設立の場合は、「創立総会」というものを招集して(会社法65条1項)、その決議によって運営する者を選任することになります(会社法88条)。なお創立総会の決議は、創立総会に出席した株主の議決権の3分の2以上の多数が賛成し、かつ賛成した数が創立総会に出席しなかった株主の議決権も含めた総議決権の過半数を超えなければ可決されません(会社法73条1項)。

※注釈:なぜ手続に違いがあるのか?
会社法上、募集設立は、発起設立と比較して若干手続が複雑になっています。その趣旨は、運営する者の選任にあたって発起人の影響力を小さくすることにあります。発起設立の場合は、いわば「仲間うち」で話し合って手続きを進めてきたわけですから、運営する者の選任にあたっても多数決=過半数で決めても差し支えないでしょう。一方で、募集設立の場合の出資者は、お金を出しただけでその他の設立手続には関わっていませんから、発起人からすれば「蚊帳の外」の存在です。しかし、出資をしている以上、会社の設立に関して重大な利害関係を有している以上、「仲間うち」でどんどん決められていっては困りますから、「蚊帳の外」の意見にも配慮して慎重な判断ができるようにと厳格な決議方法が定められました。

5、ロボットとして登録を受ける -登記の取得-

(1) ロボットをつくる場合

ロボットが完成し、パイロットが決まれば、実際に社会の中で役立てることができるとも言えます。ただ社会の中で活躍するとなると、そのロボットがどこの誰によってつくられたもので、どんなロボットなのかが誰でも分かるようになっていないと、何かあったときに確認ができず困ります。そこで自動車の場合と同様に、ロボットを登録して“ナンバープレート”を取得しておくことが必要となるでしょう。

(2) 会社法での位置づけ

会社法では、このナンバープレートのことを「登記」と言います。登記を取得するためには、「会社を代表する者」(通常は代表取締役)が、所定の期間内に (会社法911条1項2項)、法務局に対して設立登記の申請(商業登記法47条1項2項)をすることが必要です。申請を受けた法務局の登記官は、会社の設立が会社法に従ってなされたかをチェックします。このチェックを通ると、会社の設立登記がなされ、はれて「会社」という存在が世の中に誕生したことになります(会社法49条。なお会社法3条も参照)。

第3 最後に

以上が会社法上の手続きです。これ以外にも、実際に会社として事業活動を行うために必要なことは色々あります。簡単にですが、代表的なものを以下に列挙しておきます。

  1. ①定款を作る前に、会社の商号や本店所在地など活動する上で必要なことを決めておく
    同時に同一・類似の商号がないかの調査を行う
  2. ②会社の代表印、事務所や販売ルート等の準備をしておく
  3. ③設立登記後に、印鑑証明等の手続きや公官庁に開業の届け出をする

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