業務提携契約についての注意点

第1 はじめに

法律上、「業務提携契約」というものが存在しません。一般的に、資材の調達や物流に関する事項、技術の開発に関する事項、販売の促進に関する事項などについて、複数の企業が業務上の協力関係を築くことを約する契約のことを業務提携契約と呼んでいます。

業務提携契約は、民法上の売買契約(民法555条)、請負契約(民法632条)、委任契約(民法643条)などの要素を含んだ複合的なものだと解されています。そして、どのようなものを取引するのか(売買契約の要素)、どのような仕事を任せるのか(請負契約ないし委任契約の要素)は、“どのような事項について業務提携するのか”によって変わってきます。したがって、契約書作成にあたって、まずは①業務提携の目的・内容を明確にしなければなりません。さらに、契約書には、②業務提携の目的・内容を実現する手続・方法も具体的に記載する必要があります。

業務提携契約を締結するメリットは、単独で業務を行うよりも多くの成果を得られる点にあります。後の紛争を避けるためには、③このような業務提携の結果得られた成果をどのような分配・利用するのかについても契約書に明記しておくといいでしょう。
以下、各要素について詳しく説明します。

第2 業務提携契約の要素

1 業務提携の目的・内容

上記のとおり、業務提携契約という契約類型が法律に定められているわけではなく、売買契約のような側面や請負契約・委任契約のような側面が複雑に絡み合ったものです。そうすると、契約当事者間でトラブルになったときは、業務委託契約と同様に、その契約の目的・内容からどのような契約類型に分類されるのかという性質決定が大変重要になります(性質決定について詳しくはコラム「業務委託契約についての注意点」を参照)。そこで契約書には、どのような目的で、どの範囲で業務の提携を行うのかについて、できる限り具体的に記載しておくことが重要となります。

この業務提携の目的・内容の定めは、下記の「2 業務提携の方法」や「3 業務提携の成果」に関する契約書の内容を明らかにする上でも重要となります。例えば、業務提携契約においては、お互いに必要な情報を提供し合う旨の規定が設けられることが多いのですが、この「必要な情報」の範囲は業務提携の目的・内容から導かれることになります。このように、業務提携の目的・内容の定めは他の契約条項の内容を画定させるために用いられることがあるため、漠然とした表現は避けた方がいいでしょう。仮に広範囲の業務提携を希望する場合には、抽象的な文言(例えば「家電製品の開発」)を使うのではなく、できる限り具体的な事項を列挙する方法(例えば「①テレビ、②冷蔵庫、③洗濯機、④掃除機、⑤エアコン、⑥その他これらの周辺機器の開発」)を採用することをおすすめします。

2 業務提携の方法

業務提携契約に基づき、ある特定の事業を共同して実施することにした場合、具体的な事業の実施について様々な方法が考えられると思います。契約締結段階では暫定的なものになってしまうのもやむを得ませんが、後の紛争を回避するために、事業の実施方法についてできる限り具体的に契約書に記載しておいた方がいいでしょう。個々の業務によって異なりますが、契約書に記載すべき事項としては、例えば以下のようなものが挙げられます。

①いわゆる「プロジェクトチーム」の構成を明示する条項

Ex.) 実際にその事業を実施する者(部署)は? 事業に参加する人数は?

②作業分担に関する条項

Ex.) 誰がどのような事業を実施するのか? 第三者に委託は可能か?

③事業の実施に必要な資料・機材、情報、ノウハウ等の提供に関する条項

Ex.) 誰が機材などを調達して、提供するか? 事業を実施する場所は?

どのような情報を提供するのか? 提供された情報の用途・管理方法は?

④事業の進行に関する条項

Ex.) 定例報告会などを実施するか? 事業内容の変更は可能か?

⑤事業実施に伴う費用負担に関する条項

Ex.) 誰が負担するか? いつ、どのようにして精算するか?

3 業務提携の成果

業務提携の成果と言っても、資材調達にかかるコストダウンや販売利益の増大といった数字でもって確認出来るものから、発明、意匠、著作物、ノウハウなどの知的財産まで多岐にわたります。これらの成果は、契約当事者の協力によってはじめて得られたものですから、均等に帰属するというのが自然です。もっとも、当事者の役割分担の割合によっては、均等に帰属させることが不都合な場合もあります。したがって、事業提携の成果をどのように分配ないし帰属させるのかについて、あらかじめ契約書に記載しておくといいでしょう。

また成果の帰属だけでなく、その後の活用・利用についても配慮が必要です。特に知的財産が含まれている場合には、その後の活用・利用に関して争いが生じることが少なくありません。例えば、ある製品を発明した場合、その製品について特許権を取得するのか否か、その製造ノウハウを公開するのかそれとも秘密情報として扱うのか、誰がどのように利用するのか、第三者による権利侵害にはどのように対応するのか、といった問題が生じます(知的財産の利用についてコラム「知的財産権の取得」参照)。このような成果の活用・利用をめぐり、後の紛争を回避するためにも今後どのように活用・利用していくのかについても当事者間で話し合い、契約書に記載しておくことが望ましいです。

4 その他の事項について

上記の3つ以外に、以下のような点が問題になることがあるますので、注意してください。

(1) 秘密の保持について

業務提携の交渉段階及び実施段階で、当事者の有するノウハウなどが交換されることが一般的です。そして、提供された情報自体が大変価値のあるものであることも少なくありません。このような情報を事業提携とは全く関係のない利用がなされ、または第三者に漏洩されては困ります。同様のことは、事業の実施によって得られた成果に関する情報についても言えます。

そこで、業務提携契約が締結される場面では、契約書に秘密保持に関する事項(詳しくはコラム「秘密保持契約についての注意点」を参照)を定めるのが一般的です。また提供された情報の用途・管理方法を限定したり、類似事業を原則禁止したりして、不測の損害を被らないようにするといいでしょう。

(2) 契約関係の終了について

業務の提携は、ある一定の期間に限定して実施されるのが一般的です。また仮に期間の定めがなくても、信頼関係を損なうような一定の事由が生じた場合にまで契約に拘束されるのは不都合です。そこで、契約期間をいつまでとするのか、またはどのような事由があれば契約関係から離脱できるのか、について契約書に記載しておくといいでしょう。

なお、契約関係の終了=事業の共同実施が終了しても、秘密保持に関する事項や成果に関する事項は継続する、と定める場合があります。業務提携契約によって契約当事者に発生した権利義務がいつまで継続するかは、個別に検討するといいでしょう。

以上

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