基礎編② 知的財産権の取得

第1 知的財産権ってどうしたら取得できるの?

コラム「基礎編① 知的財産法の概要」で、知的財産権とは「人間が頭の中で考えたこと」(≒知的財産)を自分のものだと言える権利のことだと説明しました。この説明を前提にすると、考えが頭の中に浮かんだと同時に知的財産権が認められる、と考えるのが素直だといえるでしょう。しかし、そのように考えることには様々な問題があります。以下、詳しく説明します。

「人間が頭の中で考えたこと」には、大きく分けて①誰でも容易に思いつくものと、②才能や努力があったからこそ思いついたものと2つあります。仮に①誰でも容易に思いつくものにまで知的財産権を与えてしまうと、世の中に権利があふれかえることになり、常に自分の考えが他人の考えと被らないかを気にしていなければならないことになります。一方で、「人間が頭の中で考えたこと」というのは、実体のつかめない空気のようなものです。他人の考えと被らないかを確認するとしても、実体がつかめないのであれば、確認のしようがありません。そうすると人は新しいことを考えることに慎重になりますから、なかなか新しい技術などが生まれなくなり、「世の中の発展」という知的財産制度の趣旨に反する結果になるおそれがあります。

このような結果にならないためにも、「人間が頭の中で考えたこと」のうち知的財産権が認められるものを限定する必要があります。そこでわが国では、知的財産権を取得させても上記のような悪影響がないかを国が審査を行い、審査を通過し登録されてはじめて知的財産権が認められるという方式主義を採用しました。例えば、テクノロジーやデザインであれば今までにない革新的なものなのか、ブランドであれば自他識別力があって信用力を持ちうるものなのか、といったことが国によって審査されることになります。

もっとも、すべての知的財産権について方式主義を採用しているわけではありません。例えば、エンターテイメントに関する著作権については、「人間が頭の中で考えたこと」が絵や音楽といったかたちで表現された時点で発生しますので(著作権法17条1項、2条1項2号)、役所に出願をして登録をするという手続きは不要です。なぜならば、何が芸術・文化の点から優れた表現物なのかということは、国の審査には馴染まないからと考えられるからです。

なお、各種知的財産権の詳しい取得プロセスは、別個のコラムでお話しします。

第2 知的財産権を持っていると何か得するの?

1 知的財産権を取得するメリット・デメリット

(1) メリット

知的財産権を取得すると、その知的財産について一定期間独占して利用することができるとともに、勝手に知的財産を利用する人や知的財産の利用の障害になる人を排除できるようになります。それはまさに「土地を購入して家を建てた。あなたはそこに住むことができるとともに、勝手に住んでいる人は追い出せる」という構造と同じです。

知的財産を独占するメリットとしては、具体的には次のようなものがあります。まず、その知的財産を利用して市場で得られる利益を独占できる点があります。専門的知識が必要で、模倣することが困難な化学系産業やソフトウェア産業、バイオテクノロジーなどに関する知的財産については、ライバル企業の追随を許さないという効果が期待できます。模倣が容易な知的財産であっても、独占権があることで新規参入を抑止する効果があると言われています。自己が独占する知的財産を勝手に利用する人がいれば、これを差し止めることもできます(詳しくはコラム「基礎編③ 知的財産権の侵害」)。また、知的財産を利用したい人から、知的財産を利用する対価として利用料(いわゆるロイヤリティ)をもらうこともできます。

(2)デメリット

他方で、一部の知的財産権については、獲得することのデメリットもあります。

まず誰にどのような内容の知的財産権が帰属しているのかを明らかにするために、知的財産権にかかる情報は、その審査・登録手続の過程で公開されることになっています。ちょうど不動産の登記と同じようなものだと考えて頂ければいいでしょう。そうすると、例えば特許権の場合、自社で独自に開発したテクノロジーの詳細が公開されてしまうので、これを見た競業他社が模倣したり、これを改良したものについて先に競業他社が特許権を取得してしまったりするデメリットがあります。

また知的財産権として保護されるのは一定の期間に限られています(商標権など更新により半永久的に存続させることが可能な場合もあります)。よく耳にする「ジェネリック」というのは、この保護期間が経過したテクノロジーに関する情報のことです。上記の通り知的財産権にかかる情報というのは公開されていますから、保護される期間が経過すると、誰でも知的財産権にかかる情報を利用することができることになり、独占による利益が得られないというのもデメリットの1つです。

さらに特許権など登録を要する知的財産権については、毎年一定の登録料を支払わなければなりません。複数の知的財産権の登録をするとなると、年間の維持費用も無視できない額になることがあります。

2 知的財産権を取得しない道 ー不正競争防止法-

上記のようなデメリットを回避するため、方式主義を採用する知的財産権については、知的財産権を取得する手続をしないという方法も考えられます。特にテクノロジーに関しては、いわゆる社外秘(法律上は「営業秘密」と呼ばれます)にして守るという方法が用いられることが多いようです。例えば、製造方法を記した書類を金庫にしまって、企業の役員以外の者は目にすることができない、といった方法です。このような場合でも、不正競争防止法という法律で、知的財産権と同様の保護がなされる場合があります(詳しくはコラム「不正競争防止法の概要」)。

社外秘として管理することのメリットは、適切に管理さていれば競業他社など外部の者に情報が知られることがない点にあります。また、保護期間という概念もないため、理論上は半永久的に情報を独占することも可能です。

他方で、社外秘として管理することのデメリットは、競業他社と紛争になったときに保護される可能性が相対的に低い、という点でしょう。不正競争防止法というのは、あくまで自由競争を逸脱した行為を規制するものです。そして、営業秘密に関して規制されるのは、営業秘密にかかる情報を不正に取得したり、取得した情報を不正な目的で利用したりした場合に限ります(詳しくはコラム「営業秘密について」)。したがって、規制されるべき不正行為がない場合、例えば競業他社が同一のテクノロジーについて独自に開発して特許権を取得した場合には、当該テクノロジーを独占することはできなくなります。また、裁判実務では、法律上の「営業秘密」として保護されるためのハードルは高いと言われています。

このようなメリット・デメリットを踏まえて、知的財産権を獲得するか否かの決定を行うといいでしょう

以上

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