基礎編③ 知的財産権の侵害

第1 どうなったら「侵害」と言えるの?

コラム「基礎編① 知的財産法の概要」で、知的財産権というのは、物の所有権の場合と同様に、「その知的財産は私のだ!」といえる権利だと説明しました。そして、知的財産権の「侵害」といえるために必要な理論構成も、物の所有権の場合と同様になります。以下、もう少し詳しく説明しましょう。

土地という物の所有権が侵害された場合、「侵害された」という言い分は以下の3つの要素から構成されていると考えることができます。

①この土地は、私が所有する土地である(権利の存在)。

②Aさんはその土地を使っている(権利に対する制約)。

③私は土地の使用を許可したことはない(正当化事由の不存在)。

※「権利に対する制約」の意味

馴染みのない言葉だと思いますが、次のような趣旨の言葉になります。所有権とは、目的物を自由に使用することができる権利のことをいいます(民法206条参照)。自分の物を誰かが使っているという状況は、所有権者による自由な使用を妨げられている、と捉えることができます。このような本来権利者の自由が妨げられている状況のことを、「制約」と表現されることがあります。このコラムでも、このような趣旨で用いています。

知的財産権の侵害の成否の判断も、これと同様の構成になります。すなわち、知的財産権が侵害されているというためには、①自己に知的財産権が存在すること、②自己の知的財産権に対する制約があること、③②が正当化されないこと、が必要です。

ここにいう①権利の存在がどのような場合に認められるかは、コラム「基礎編② 知的財産権の利用」を参照してください。また③正当化事由の不存在の代表的な例としては、「権利者から使用の許可を得ていたこと」などがあげられます。物の所有権のケースでいうところの「○○から借りた」という状況をイメージしていただけるといいでしょう。他にも、各法律の条文や裁判例の蓄積で、正当化される場合が類型化されています。詳しくは個々のコラムで紹介します。

実務で最も争点になりやすいのは、②権利に対する制約の有無です。

もともと知的財産というものは実体のつかめない空気のようなものです。実体がつかめないことから、実体がはっきりしている物と比較すると、どのような場合に権利の制約があるのかの判断が非常に難しくなり、当事者間の言い分の食い違いが最も先鋭化する部分となります。

この点、実務では、知的財産権者が、どのような知的財産について独占権を付与されているのかを特定することから始まります。特許権、意匠権、商標権については、出願の際に提出した願書や図面の記載にしたがって、知的財産の内容を特定します。その上で、相手方の行為が、特定された知的財産と同一または類似といえるか、という観点から権利に対する制約の有無を判断します。同一とは、特定された知的財産と100%同じで、違う所ところがないことを言います。類似とは、「その人が考えたことの核心的・本質的特徴をコピーしているか」、または「同一のものだと誤認する可能性があるか」と言うものです。

各知的財産権について、具体的にどのような場合に侵害となるかは、別のコラムで説明させて頂きます。

第2 侵害されたらどうすればいいの?

相手方の商品を入手するなど侵害されている判断に必要な情報・資料を収集しましょう。そして、侵害の可能性が高いと判断したら、まずは相手方に問題となっている行為を止めるよう「警告書」を送付します。相手方が任意に「警告書」に応じてくれたり、「知的財産の利用を認めるかわりに利用料をもらう」内容の契約(ライセンス契約)を締結したり、穏便に解決できる可能性があるからです。

「警告書」に従わない場合には、いよいよ裁判ということになります。知的財産権者は、具体的には以下のような請求をすることができます。

① 相手方の利用行為の差止請求

② 利用行為によってつくられた製品等の破棄請求

③ 権利者が被った損害について損害賠償請求(民法709条)

④ 相手方が正当な理由もなく得た利益について不当利得返還請求(民法703条)

⑤ 謝罪広告などの信用・名誉回復措置請求

以上

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