従業員の不正、違法行為

第1 はじめに

従業員の不正、違法行為(以下、まとめて「不祥事」という。)の代表的な類型としては、会社の金銭の着服、商品や備品の横領、機密情報の流出などが挙げられます。最近では、SNSサイトでの写真投稿や会社批判なども問題となっています。

このような不祥事について、完璧に予防することは難しいでしょう。むしろ不祥事に対して、会社がどのように対応するかが重要です。すなわち、会社の事後対応が悪ければ、会社に対するイメージや信用はさらに悪化するでしょうし、反対に会社の事後対応が良ければ不祥事による悪影響を最小限に留めることができるでしょう。

このコラムでは、不祥事に対する一般的な対応方法を紹介します。

第2 会社としての具体的な対応法

1 事実の調査を行う

不祥事が発覚した場合、問題となる不祥事の全貌を調査し、事実関係を把握することからスタートします。もしこの事実調査をキチンと行わないと、今後の対応策に関する判断を誤り、かえって事態を悪化させることになります。したがって、不祥事に関する事実調査は、迅速かつ正確に行うことが重要となります。

この事実調査の方法としては、大きく分けて①自社の内部機関が行うもの(自社調査)と、②第三者機関に委託して行うもの(第三者調査)の2つがあります。①自社調査は、簡易・迅速で、かつ低コストで実施できる点にメリットがあります。しかし、会社との独立性がなく、公正な調査が行われるか不安が残るというデメリットがあります。したがって、報道がされて大きな社会問題になっているケースの場合には、①自社調査よりも費用や時間はかかりますが、②第三者調査を選択した方がいいでしょう。

なおケースによっては、事実の調査が終わる前に、後述するような対応をとることが必要な場合もあります。

2 関係者に対して必要な措置を講じる

従業員の不祥事は、当該従業員と会社のみの関係であることはほとんどありません。会社以外にも直接の被害者がいたり、不祥事による影響を受ける人(または会社)がいたりするケースがほとんどです。場合によっては、社会全体の問題に発展することもあります。このような場合、会社としては、不祥事による影響を放置しておくわけにはいきません。そこで、会社としては、不祥事による影響を収束させるために、関係者に対してそれぞれ必要な対応をとることが求められます。

会社の講じる措置としてもっとも代表的なものが、不祥事の概要や従業員への処分等の公表です。謝罪会見の報道をイメージして頂ければいいでしょう。もっとも不祥事に関する公表は、必ず行わなければならないわけではありません。なぜならば、公表の仕方や内容によって、むしろ会社のイメージ・信頼を害してしまう可能性があるからです。一方で、公表しなければ、「この会社は不祥事を隠蔽した」と思われてしまうケースもあります。したがって、不祥事を公表するか否かは慎重に検討する必要があります。一般的には、①すでに報道されているケース、②商品の不具合・不良品の混入など消費者の身体・財産に危険を及ぼすがあるケース、③不祥事が社会全体に与える影響が大きいケースでは公表の必要があると言われています。

公表することにした場合、一般的には不祥事の経緯・原因、今後の対応、再発防止策等を公表することになります。ただし、どの程度の情報を公表するのかは、ケースバイケースです。例えば、刑事事件として捜査の対象となっている不祥事に関しては、捜査との関係から不祥事の経緯や原因に関する公表は差し控えるべき場合もあります。

その他にも、被害者に対する賠償、監督官庁や株主への報告などがあります。

3 従業員に対して必要な措置をとる

(1) 会社が取り得る措置と注意点

上記の必要な措置の一環として、不祥事を行った従業員をどのように取り扱うのかという点も重要となります。

①懲戒処分を行う

②従業員に対して損害賠償請求をする

③(不祥事が刑事罰に相当する行為であれば)刑事告訴する(刑事訴訟法230条)

これらの措置を行う場合、事前に不祥事についてある程度調査を行い、客観的な資料を揃えておくようにしましょう。また、不祥事への関与が疑われる従業員に対しては、聞き取り調査や始末書・顛末書の提出など従業員から直接5W1Hの観点をおさえた報告をさせ、弁明を聞く機会をつくるようにしましょう。これらの手続を行わずにいきなり上記のような措置をとると、事実誤認をする可能性があり、ひいては従業員側から処分の有効性を争う訴訟を提起されることもあります。

(2) 懲戒処分をする場合の注意点

懲戒処分と一口にいっても、単なる注意(「戒告・けん責」)から“クビ”(「懲戒解雇」)まで種類は多岐にわたります。ここで注意が必要なのは、従業員の行った行為とそれに対する制裁としての懲戒処分の重さが釣り合っていなければならない、という点です。特に懲戒処分の中でも最も重い懲戒解雇は、懲戒解雇をしなければ企業秩序や業務の正常な運営を維持できない場合でなければ認められないと考えられています。したがって、懲戒処分を行う場合には、「不祥事=懲戒解雇」と考えるのではなく、減給や降格、配置転換など他の処分も検討するようにしましょう。

なお懲戒処分の概要や具体的なケースについては、コラム「懲戒」コラム「懲戒解雇とその範囲」を参照してください。

(3) 従業員に対して損害賠償請求をする場合の注意点

会社は、従業員に対して、不祥事によって会社が被った損害を賠償させることもできますし(民法709条)、従業員に代わって会社が被害弁償をしたときはこれを従業員に求償することもできます(民法715条3項)。ただし、これらの請求は、売上金の着服や計算書類の虚偽記載など従業員の故意によるケースでなければ認められない傾向があります。なぜならば、作業中の事故など従業員の過失によって発生した損害というのは、会社側の従業員の管理体制の不備が原因であることが多いからです。したがって、従業員の過失によって発生した損害について、従業員に賠償を請求したとしても認められない、または認められたとしても大幅に減額される可能性が高い点に注意しましょう。

4 再発防止策を講じる

問題となった不祥事への対応が終結しても、将来同様の不祥事が発生したのでは意味がありません。そして、不祥事というのは、会社内部の体制に“抜け穴”があったために発生したと考えることもできます。そこで不祥事への対応の仕上げとして、この“抜け穴”を塞いで、同様の不祥事の発生を防止する措置を講じるといいでしょう。

再発防止策の策定は、①どこに原因があったのかを分析して、②同様の不祥事ができない仕組みを講じる、というのが一般的な流れです。例えば、商品や金銭、情報の持ち出しであれば、監視カメラの設置など監視体制を強化したり、アクセス制限をしたりすることが考えられます。不正取引のケースであれば、1人の従業員に権限が集中しないよう作業分担したり、取引にいたる承認プロセスを記録化して第三者が適宜チェックする体制にしたりするといいでしょう。

また「会社内部で、互いに業務が適正化をチャックし合う」というのも1つの方法です。例えば、定期的に担当者や決裁権者を交替するようにしておけば、“不祥事の温床”の発生を防ぐことができるとともに、後任者への引継ぎによって不祥事を発見しやすくすることができます。

他にも、①採用の段階で犯罪歴などバックグラウンドの調査を徹底する、②関係法令に関する研修を行うなどの方法も考えられます。その他再発防止策の具体的な内容は、不祥事の類型によって異なります。どのような方法を採用したらよいか不安がある場合には、一度弁護士などの専門家に相談するといいでしょう。

以上

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