株主総会議事録に記載すべき事項

第1 はじめに

株主総会で、株式会社のオーナーである株主の意思決定を行ったら、それで手続は全て終了するわけではありません。会社法では、株主総会の内容について必ず「議事録」を作成しなければならないことになっています(会社法318条1項)。また、この議事録は10年間株式会社の本店に備え置き、株主および債権者に対して閲覧させ、謄写しなければなりません(会社法318条2項4項)。なぜこのような規定になっているかというと、次のような事情があるからです。

株式会社も、人と同じように、社会の中で活動する1つの存在ですので、事後的に「言った」「言わない」というトラブルが生じ、意思決定の内容を確認しなければならないことがあります。人であれば、本人に聞いて確認すればいいですが、株式会社はいわば“ロボット”のような存在(詳しくはコラム「会社法ってなに?」参照)ですので、株式会社自体に聞いて確認するということはできません。そうすると、株式会社に代わって、誰がどのような意思決定をしたのかを明らかにする必要が出てきます。そこで、株主総会という株式会社の意思決定機関の行ったことを後日確認することができるようにするために、「議事録」を作成しなければならないことにしました。

上記の通り議事録は、株式会社のなした意思決定の内容を確認する上で、大変重要な意義のあるものです。そして、事後的に意思決定の内容を確認するにあたっては、少なくとも記載されておかなければならない事項というものが存在します。そこで、議事録の作成に当たっては、その記載内容も「法務省令で定めるところ」にしたがわなければなりません。以下、この株主総会議事録の記載内容について説明します。

※株主総会議事録の利用例

実務上、議事録は、株主が株主総会の意思決定の内容・過程の有効性を検証したり(詳しくはコラム「会社法トラブルその5 株主総会決議取消しの訴え他」)、取締役が過去の株主総会の傾向を踏まえて今後の経営方針を立てたりするのに活用されています。また一定の事項についての議事録は、株式会社の商業登記の内容の変更を申請する際に必要となります(商業登記法46条2項3項)。

第2 議事録の記載内容

1 一般的な議事録の記載内容

株主総会の議事録は、書面または電磁的記録をもって作成しなければなりません(会社法施行規則72条2項)。その際、少なくとも以下の内容を記載しなければなりません(会社法施行令72条3項)。なお株式会社の定款で、他に記載すべき事項を規定することもできます。また、実務では、株主総会の場では下書きのようなもの(「議事録原表」)を作成しておき、後日議事録を作成する方法が採られることもあります。

なお本コラムに添付した書式は、コラム「株主総会の招集手続①」で紹介した書式にしたがって株主総会を開催し、なんら問題なく株主総会が執り行われた場合を想定して作成しています。必ずしも個々の事案に合致するものではありませんので、注意してください。

① 株主総会が開催された日時および場所

この「場所」には、「当該場所に存しない取締役、執行役、会計参与、監査役、会計監査人または株主が株主総会に出席をした場合」も含みます。例えば、遠隔地にいる取締役が、テレビ会議システムを利用して株主総会に参加した場合です。このような場合には、その出席方法(上記例で言えば、「テレビ会議システム」)を記載する必要があります。

また記載を要するのは、「当該場所に存しない」場合のうち、「株主総会に出席をした」と評価できるときに限定されます。例えば、単に株主総会の様子が中継されているだけの場所で、質問や採決に参加できない場合には、「出席をした」とは言えません。

② 株主総会の議事の経過の要領およびその結果

「議事の経過」とは、株主総会の開会から閉会に至るまでの間、株主総会で行われた合議の経過・内容のことを言います。具体的には、①報告事項に関する報告および質疑応答の内容、②決議事項に関する議案や審議の内容、動議、採決方法などのことです。これらの事項は、もっとも、その詳細を逐一議事録に記載する必要はなく、要点が記載されていれば足ります。

「その結果」とは、株主総会に付議された議案についてなされた決議の内容のことを言います。具体的には、原案どおり可決された、原案が修正されて可決された、または否決されたといった内容です。具体的な記載方法について規定はなく、賛成表・反対表の数や株主の氏名を記載する必要はありません。ただし、株主提案による議案が否決された場合には、株主提案権の行使を制限する事由となるので、議事録に記載しておくといいでしょう(会社法304条但書)。また、事業譲渡や組織再編などを承認する決議を行った際は、反対の議決権行使をしたことが株主買取請求権の要件となっていますので、誰が反対の議決権を行使したかも記載しておくといいでしょう。

③ 会社法の規定に基づき述べられた意見または発言の内容の概要

会社法で認められて以下の意見または発現についても、その概要を議事録に記載しなければなりません。

  1. イ 会計参与、監査役、会計監査人による、選任、解任、辞任についての意見(会社法345条1項4項5項)
  2. ロ 辞任した会計参与、監査役、会計監査人による、辞任した旨およびその理由についての陳述(会社法345条2項4項5項)
  3. ハ 計算書類の作成に関する事項について、会計参与と取締役とで意見が異なる場合における、会計参与の意見(会社法377条1項)
  4. ニ 会計参与の報酬等についての会見参与の意見(会社法379条3項)
  5. ホ 監査役が、株主総会で取締役の提出する議案、書類等に、法令・定款に違反し、または著しく不当な事項があると認める場合における、監査役の意見(会社法384条)
  6. へ 監査役の報酬等についての監査役の意見(会社法387条3項)
  7. ト 監査の範囲を会計に関するものに限定された監査役による、株主総会で取締役の提出する議案、書類等の調査結果の報告(会社法389条3項)
  8. チ 計算書類の法令・定款適合性について、会計監査人と監査役とで意見が異なる場合における、会計監査人の意見(会社法398条1項)
  9. リ 定時株主総会において、会計監査人の出席を求める決議があった場合における、会計監査人の意見(会社法398条2項)

④ 株主総会に出席した取締役、執行役、会計参与、監査役または会計監査人の氏名または名称

⑤ 株主総会の議長があるときは、その議長の氏名

株主総会の議長については、会社法上選任方法に関する規定はなく、株式会社の定款や株主総会の場で自由に選任することができます。実務上は、代表取締役が議長になることが多いようです。

⑥ 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名

議事録の作成者についても、会社法上特別の規定がなく、取締役の中から自由に選任することができます。実務上は、代表取締役か株主総会担当の取締役が議事録作成者になることが多いようです。

2 特殊な場面での議事録の記載内容

(1) 書面決議の場合

議決権を有する全ての株主が、株主総会の議案に賛成の意思を明らかにしている場合にまで、わざわざ株主総会を開催しなければならないとなると、株式会社にも株主にも無用な負担を強いることになります。そこで会社法は、このような場合には、全ての株主が当該議案について同意する旨の書面または電磁的方法による意思表示をすることで、株主総会の決議を省略できることにしました(会社法319条1項)。実務上は、株式会社側(取締役)と株主との間における、書面や電子メールのやりとりで行われています。

書面決議の場合でも、株式会社としての意思決定がなされたという点では通常の株主総会と大差がありません。したがって、会社法上、書面決議がなされたことについても記録を残しておくことが義務づけられています(会社法319条2項)。議事録を作成する際は、以下のような内容を記載しなければなりません(会社法施行規則72条4項1号)

  1. ① 株主総会の決議があったものとみなされた事項の内容
    株主総会が開催された場合における、具体的な議案に相当する事項のことです。
  2. ② ①の事項の提案をした者の氏名または名称
  3. ③ 株主総会の決議があったものとみなされた日
    全ての株主からの書面または電磁的方法による同意の意思表示が、株式会社に到達した日のことをいいます。
    定時株主総会において、目的事項の全てを書面決議で行った場合には、「決議があったものとみなされた日」が定時株主総会の終結日となります(会社法319条5項)。定時株主総会の終結日は、役員の任期の終期の基準になるので(会社法332条1項、334条1項、336条1項、338条1項)、この日付の記載は大変重要な意義をもちます。
  4. ④ 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名

(2) 報告の省略の場合

書面決議の場合と同様に、株主総会での報告事項について、全ての株主が書面または電磁的方法により報告を省略することについて同意の意思表示をしたときは、報告を省略することができます(会社法320条)。

報告事項も、上記のとおり通常の株主総会であれば議事録に記載しなければなりません。したがって、書面決議の場合と同様、省略した報告事項について議事録を作成する必要があります(会社法施行規則72条4項2号)。記載内容は以下のとおりです。

① 株主総会への報告があったものとみなされた事項の内容

② 株主総会への報告があったものとみなされた日

③ 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名

以上

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