裁判所を利用しない担保権の実行方法

第1 はじめに

コラム「裁判所を利用した担保権の実行方法」で説明したとおり、典型担保物権を実行するためには、裁判所を介した執行手続きを経る必要があります(民事執行法第3章参照)。裁判所を介した執行手続きには当然費用と時間と手間がかかります。

これに対して、非典型担保物権は、物の所有権の移転の合意(民法176条)や債権譲渡の合意(民法466条1項)を応用して、あらかじめ担保権の実行方法を当事者間で合意したようなものです(法形式についてはコラム「物などを利用した担保(物的担保)について」参照)。したがって、当事者間の合意にしたがう限り、裁判所を介した執行手続きを経る必要はありません。もっとも、当事者の合意によった方法だとしても、債権者が過剰な利益を得るような仕組みであっては、担保制度として望ましくありません。そこで、後述するように、裁判実務上または法律の規定によって、一定の手続を経なければならないこととされています。

以下、実務上利用されることの多い①動産および債権の譲渡担保、②不動産の仮登記担保、③動産の所有権留保を想定して、債権回収に至る手続を説明します。

物などを利用した担保(物的担保)について

1 動産の譲渡担保の場合

動産の譲渡担保の実行方法は、担保目的物を完全に自分のものにする方法(「帰属清算型」)と、担保目的物を自ら売却してその代金を受領する方法(「処分清算型」)の2つがあります。

いずれの方法によるとしても、担保目的物が債務者の手元にあるので、これを回収する必要があります。そこで、まずは譲渡担保を実行する旨を、債務者に対して通知しましょう。この通知は、後のトラブルを避けるために、内容証明郵便を利用することをおすすめします。

通知を行っても債務者が任意に履行をしない場合には、担保目的物を回収することになります。このとき、必ず債務者の同意を得て、担保目的物を回収するようにしてください。債務者の同意なく、自ら出向いて勝手に回収するようなことをすると、住居侵入罪(刑法130条)や窃盗罪(刑法235条)などの刑事責任を問われる可能性があります。

担保目的物の回収ができたら、上記いずれかの方法によって債権の回収を図ることになります。このとき、担保目的物の価値が被担保債権の額を上回る場合には、その差額を債務者に返還(「清算」)しなければなりません。したがって、清算の必要の有無を問わず、譲渡担保の実行が終了した旨を債務者に通知し、清算の必要がある場合には差額分の返還を行いましょう。

2 債権の譲渡担保の場合

担保目的物である債権の債務者(第三債務者)に直接取り立てを行うことで、債権を回収するのが一般的です。もっとも、民法上、債権者が変わったことは、債権の譲渡人から債務者に知らせなければならないことになっています(民法467条1項)。したがって、実務では、あらかじめ債務者から第三債務者に対する通知の書面を預かっておき、債権譲渡担保を実行する段階で債権者が債務者に代わって発送を行う、という方法が行われています。また会社間の取引の場合には、「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」に基づく債権譲渡登記手続を行っておき、登記事項証明書(法11条2項)を第三債務者に発送する、という方法も行われることもあります(法4条2項)。

第三債務者から受け取った金額が被担保債権を上回る場合には、その差額を債務者に返還しなければならないのは、上記動産の譲渡担保の場合と同様です。

第3 不動産の仮登記担保の場合

コラム「物などを利用した担保(物的担保)について」で説明したとおり、不動産に仮登記担保がなされる場合には、「債務者が債務を履行しないときは、債務者所有の土地(地番…)の所有権を、債権者に移転します」という合意がなされます。つまり、仮登記担保は、譲渡担保でいうところの「帰属清算型」に近い制度になっています。

不動産の仮登記担保は、上記「債務を履行しない」という条件を満たせば、直ちに不動産の所有権の移転という法律効果が発生するものではなく、仮登記担保契約に関する法律(以下、「仮登記担保法」)の手続を経なければならないことになっています。以下、その手続の簡単な流れを説明します。

まず、仮登記担保契約に定めた条件が成就したら、債権者は、①担保目的物の見積価額、②被担保債権、③債務者または物上保証人が負担すべき費用のうち債権者は負担した費用の額を、担保目的物の所有者(債務者または物上保証人)に通知する必要があります(仮登記担保法2条1項2項)。

そして、上記通知が債務者または物上保証人に到達した日から2ヶ月後に、担保目的物の所有権その他の財産権が債権者に移転します(仮登記担保法2条1項参照)。このとき担保目的物の価額が、被担保債権の額を上回る場合には、その差額(「清算金」)を債務者または物上保証人に支払わなければなりません(仮登記担保法3条1項)。

債務者または物上保証人は、この清算金の支払いを受けるまでは、担保目的物の引渡しを拒むことができます(仮担保登記法3条2項、民法533条)。また、清算金の支払いを受ける前に、本来支払うはずであった債務を履行することで、担保目的物の所有権その他の財産権を取り戻すことができます(仮担保登記法11条)。

第4 動産の所有権留保の場合

所有権留保契約は、高額な商品を分割で売り渡す場合などに利用されています。以下、自動車の売買のケースを想定して説明します。

自動車の売買契約で所有権留保契約がなされた場合、自動車の所有権は売主に帰属する一方で、自動車自体は買主に引き渡されます。買主は、いわば「他人の自動車を借りて使用している」という状態になるわけです。

買主が自動車の代金を支払わない場合に、所有権留保契約によって設定された担保物権を行使しようとする場合には、所有権に基づく自動車の返還を請求することで手続が開始します。そして、売主は、買主から返還された自動車から代金債権を回収することになります。このとき、自動車の価値が、未払い代金の額を上回る場合には、清算が必要な点は譲渡担保の場合と同様です。

以上

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