会社法トラブルその4 株主権確認請求
第1 株主確認請求とは
コラム「株主の権利」や他のコラムで、「株主であれば○○することができます」という言い方をすることがありました。このような株主という地位に基づいて行使することができる権利の総称を講学上「株主権」と言います。この株主権の帰属をめぐり、実務上しばしば問題になることがあります。
具体例をあげましょう。Aは自己が保有する甲株式会社の株式をXに売り渡しました。このとき甲株式会社は、誰を株主として扱えばいいでしょうか。また、AがYにも同じ株式を売り渡す約束をしていた場合はどうでしょうか。コラム「株式の譲渡について」で、会社法上は、①株式会社は株主名簿の記載にしたがって誰が株主であるかを判断する(会社法124条1項)、②二重三重に譲渡された場合には株主名簿の記載で勝ち負けを決める(会社法130条1項)というルールであることを説明しました。また③株券を発行している場合には、誰が株券を持っているかで決着がつくことがあることも説明しました(会社法131条1項参照)。しかし、実際には株主名簿や株券が存在しなかったり、株主名簿がキチンと機能していなかったりすることが少なくありません。そうなると、上記事例で言えば、A、X、Yのうち誰を株主として扱えばよいのか、言い換えれば誰に株主権が帰属しているか分からなくなる、という事態が発生します。
このようなトラブルが生じた場合に、話合いで解決できないとなると訴訟を起こして、裁判所に誰に株主権が帰属するのかを判断してもらうしかありません。そして、明文の根拠はありませんが、実務上このような訴訟を起こすことは認められています。これを「株主権確認請求」(または「株主権確認の訴え」)と呼んでいます。
第2 株主権の争い方
1 訴訟の当事者となる者
自己に株主権が帰属していることを裁判所に認めて欲しい者であれば、いつでも誰でも訴えを提起することができます。相手方となる被告は、訴えを提起した者との間で、株主権の貴族をめぐり紛争になっている者になります。
たとえば上記事例で、Aから株式を譲り受けたXが、株主権の帰属を裁判で明らかにしたいと考えたとしましょう。このような場合、Xを株主と認めてくれない甲株式会社が被告になることもあれば、自分こそがAから株式を譲り受けたと主張するYが被告になることもあります。このように、株主権確認の訴えの当事者は、ケースによって異なります。
2 主張・立証の方法
自己に株主権が帰属することをどのように主張・立証したら良いでしょうか。権利は、目で見ることはできませんから、現に誰の手元に株主権が帰属しているかを直接確認することはできません。株主名簿の記載や株券の占有があっても安心することはできません。なぜならば、これらは、あくまで株主権の帰属を推認する一事情に過ぎず、必ずしも決定的な証拠とは言えないからです。
他方で、株主権という権利を取得する原因になった出来事の存在は、証拠によって明らかにすることができます。そこで訴訟では、取得原因の存否及びその有効性を主張・立証し合うことで、株主権の帰属を明らかにしています。上記の例で言えば、Aから株式を買ったことがXの株主権の取得原因です。したがって、Xは、契約書や代金の振り込み履歴などを証拠として、Aから株式を買い受けた旨を主張することになります。
第3 付随する問題点
上記のようなトラブルが発生する原因は、株主権の移転という実体に対応して、キチンと株主名簿の名義が書き換えられていない点にあります。しかし、株式を譲り受けた者が、株式会社に対して、株主名簿の名義の書き換えを請求したとしても(会社法133条1項)、株式会社がこれに応じてくれなければ問題は解決しません。そこで実務では、株式会社が株主名簿の書換に応じてくれない場合には、株主は訴訟を起こして、単に株主権の帰属を確認するだけでなく、裁判所に「株主名簿の名義を書き換えろ」と判断してもらうことができるとされています。
以上