株式の譲渡について

第1 株式の譲渡

1 はじめに ~株式譲渡自由の原則~

金策に困ったなどの理由によって、株主が会社に出資したお金を回収したいと思うことがあります。しかし、株主は、出資金の返還を会社に対して求めることは原則として許されていません。なぜならば、会社は株主からの出資金を原資として事業を行っていますから、出資金を返還しなければならないとなると、思うように事業ができなくなるおそれがあるからです。もっとも、株主の「出資したお金を回収したい」という要望を無視するわけにもいきません。そこで、株式を自由に譲渡できることにして(会社法127条)、譲渡対価で出資したお金の回収ができるようにしました。これを「株式譲渡自由の原則」と呼びます。

2 株式の譲渡の方法

株式の譲渡は、当事者の契約(合意)によって効力が発生します。例えば、当事者が「売ります」「買います」と合意すれば(民法555条)、原則として株式が移転したことになります。ただし、株券を発行している場合(会社法214条)には、株券自体を渡さなければ効力は生じません(会社法128条1項)。

3 権利行使の方法

(1) 権利行使のために必要な手続

株式の譲渡が原則合意のみでできますので、いつどこで株式の譲渡があったのかを会社が常に把握することは困難です。仮に株主から株式を譲り受けたと名乗り出る者がいたとしても、真偽を確認するのには手間がかかります。そこで、会社法は、会社は、作成が義務づけられている株主名簿の記載にしたがって、誰が株主であるかを判断すればよいことにしました(会社法124条1項参照)。そして、株式の譲渡があったことは、株式を譲り受けた者が譲り渡した者と共同して株主名簿の名義書換請求(会社法133条1項2項)をしなければ、株主になったことを会社に対して主張することが出来ないことにしました(会社法130条1項2項)。

したがって、株主側としては、株式を譲り受ける旨の合意をしただけでは、コラム「株主の権利」で説明した権利を行使できるわけではない点に注意が必要です。なお、会社が株主名簿の名義書換を不当に拒絶した(適法な手続なのに拒絶したなど)場合には、これ以上株主側手間取らせるのは不公平だとして、名義書換未了でも会社に対して株主であることを主張できる場合もあるものと解されています。

※ 名義書換請求の方法

会社法では特に規定していないので、口頭で行うこともできます。但し、名義書換の不当拒絶の場合などに備えて、内容証明郵便よる請求を行って、書面を証拠として残しておくといいでしょう。
書式(株主名簿書換請求書)

※上場会社の場合
証券取引場で株式を取引している会社(上場会社)の株式の場合は、上記とは異なる取扱いになっています(株式振替制度)。この制度を、簡単に説明しますと、自分の口座を開設している証券会社に株式を譲渡したことを言えば、後は証券会社の方で記録上の株式の変動や株主名簿の書換に必要な手続をやってもらえる、というものです。

(2) 会社以外の第三者との関係

株式の譲渡は口約束だけでも可能で、通常他人には知られないという性質から、株主が二重三重に株式を譲渡することもあります。このような場合に、第三者との関係で誰が株主であるかを決定する際にも株主名簿が用いられます(会社法130条1項)。ただし、株券が発行されている場合には、株券を持っている人が株主であると推定され(会社法131条)、株主名簿の名義書換が未了でも会社以外の第三者に対して株主であることを主張することができます(会社法130条2項参照)。また、株券を会社に提示すれば、単独で株主名簿の名義書換が可能です(会社法133条2項、会社法規則22条2項1号)。

第2 定款による譲渡制限 ~譲渡制限株式~

1 はじめに

譲渡制限株式とは、コラム「種類株式について」で説明したとおり、株式の譲渡に会社の承認を要する株式のことを言います。このように聞くと、「会社の承認がないと譲渡できないということは、会社の承認がないと出資金を回収する道はないことになるのか」と思われるでしょう。しかし、ここにいう譲渡の制限とは、あくまで株主が意図した相手に譲渡することができないだけで、後述するとおり出資金を回収する機会は残されています。以下、承認を得るための手続、承認が得られなかった場合の手続の順で説明します。

2 譲渡の承認を得るための手続

株式を譲渡する場合、当事者は会社に対して当該譲渡を承認するか否かの請求を行います(会社法136条、137条1項)。これを「譲渡承認請求」と呼びます。このとき、株式を譲渡する者は単独でも請求することができますが(会社法136条)、株式を譲り受けた者は株式を譲渡した者と共同して行わなければなりません(会社法137条2項)。また、「会社にとって都合の悪い人に勝手に譲渡されては困る」というのが譲渡制限株式の趣旨ですから、譲渡承認請求に際して、誰にどの株式を譲渡するのかを明らかにしなければなりません(会社法138条1号イ・ロ、2号イ・ロ)。

譲渡承認請求がなされた場合、原則として、取締役会設置会社では取締役会で、それ以外の会社では株主総会で、譲渡を承認するか否かの決定を行います(会社法139条1項本文)。また、定款で定めれば、原則とは異なる機関が承認するか否かの決定を行うことができます(会社法139条1項但書)。

譲渡を承認するか否かの決定がなされると、株主に対して通知がなされます(会社法139条2項)。その通知が、株式の譲渡を承認する内容であれば、株式の譲渡が会社との関係でも有効になります。この承認するのか否かの決定がいつまで経ってもなされないと、株主としても困ります。そこで、会社法は、請求の日から2週間以内に通知がない場合には、承認されたものとみなされることにしました(会社法145条1号)。

なお、会社は、上記承認手続を必要としない「一定の場合」を定款で定めておくこともできます(会社法107条2項1号ロ、108条2項4号)。例えば、株主間の譲渡などがあげられます。

※譲渡承認請求や承認通知の方法

これらも株主名簿の名義書換請求の場合と同様に、内容証明郵便で行って、書面を証拠として残しておくといいでしょう。

書式(譲渡承認請求書)

書式(譲渡承認通知書)

3 承認が得られなかった場合の手続

株式譲渡の承認を得られなかった場合の効果について、判例は、当事者間では「当事者間においては有効であるが、会社に対する関係では効力を生じない」と解しています。当事者間で有効だとしても、株式を譲り受けた者が株主として扱ってもらえないのであれば、後々トラブルとなって面倒です。そこで、会社法は、「譲渡を承認しないのであれば、適当な人に買い取らせろ」と請求できることにしました。これを「買取先指定請求」と呼びます。

買取先指定請求は、譲渡承認請求と併せて行うこととされています(会社法139条1号ハ、2号ハ)。これに対して会社側は、譲渡の承認拒絶の通知から一定期間内に、会社または会社は指定する人が株式を買い取ることを通知します(会社法140~143条参照)。この通知がなされると、株式を譲渡する契約が締結されたものと考えられ、以後は当事者間の協議などで具体的な譲渡の価格を決めることになります(会社法144条参照)。

※譲渡承認請求や承認通知の方法

これらも株主名簿の名義書換請求の場合と同様に、内容証明郵便で行って、書面を証拠として残しておくといいでしょう。
書式(譲渡承認請求書兼買取請求書)
書式(譲渡不承認通知書兼買取人指定通知書)
書式(指定買取人の買取通知書)

第3 契約による譲渡制限

当事者間の合意によって、株式の譲渡を制限することもできます。

代表的な例として、「従業員持株制度」での利用があげられます。従業員持株制度とは、主に従業員の資産形成と会社への帰属意識の向上を目的として、従業員に自社の株式を保有させるものです。この際、「従業員が退職するときには、会社が株式を買い取る」などの形式で、株式の譲渡を制限する契約が締結されることがあります。このような契約も、対価が不当に廉価であるなど株主の投下資本の回収の機会を著しく害しない限り、有効だと解されています。

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