持分会社と会社法
第1 はじめに
会社とよばれるものの中には、「株式会社」以外にも「持分会社」というものが存在することをコラム「会社法ってなに?」でお話ししました。このコラムでは、持分会社にはどのような特徴があるのか、株式会社とはどう違うのかについて説明したいと思います。また、平成17年の会社法制定以降注目されている「合同会社」(持分会社の一類型です。)についても詳しく説明します。
第2 持分会社の概要
1 持分会社の特徴 ~株式会社と何が違うの?~
持分会社の特徴を説明する前に、株式会社の基本的な特徴をおさらいしておきましょう。コラム「会社法ってなに?」で、会社というのはいわば「ロボット」のようなものだと説明しました。その内、株式会社というのは、このロボットをつくって運用する上で必要となる資金を提供する人(出資者)と、実際にロボットを操縦する人(パイロット)が違うことを想定しています。具体的には、①出資者はロボットの目的を決めて、必要な資金提供を行う一方、ロボットの操縦は専門家であるパイロットにお任せする、②パイロットは出資者の意向にしたがってロボットを操縦して利益を出す、というのが株式会社制度の基本的な仕組みです(詳しくはコラム「会社の機関」を参照)。
これに対して、持分会社というのは、簡単に言えば出資者が会社というロボットの操縦を含めてすべてのことを実施する点で、株式会社とは異なります。まず、会社というロボットが何を行うかは、出資者の頭数による多数決(会社法590条2項)又は出資者全員の同意をもって決定します(会社法637条参照)。そして、決定した内容に基づき、出資者が自ら「ロボットの操縦」、すなわち会社の業務を執行します(会社法590条1項)。この「ロボットの操縦」を特定の者に任せることはできますが、必ず出資者の中から選任しなければならず、出資者以外の第三者にお任せすることはできません(会社法591条1項)。このような持分会社の特徴を、「所有と経営の一致」と呼びます。
持分会社にはこのような特徴があることから、外から第三者が参加することを想定しておらず、身内や仲間内だけで全て運営しようという場合に利用されることが多いようです。
2 持分会社の種類
この「持分会社」と呼ばれる会社には、「合名会社」「合資会社」「合同会社」の3つの形態が存在します(会社法575条1項)。これら3つの違いは、「会社がプールしていたお金が底をついたとき、出資者は追加でお金を支払わなければならないか?」という点にあります。講学上、追加でお金を支払わなければならないことを「無限責任」、既に出資したお金以上のお金を支払う必要がないことを「有限責任」と言います。そして、全ての出資者が無限責任を負っている会社を「合名会社」、無限責任を負う出資者と有限責任を負う出資者が混在している会社を「合資会社」、全ての出資者が有限責任を負う会社を「合同会社」と呼びます(会社法576条2項3項4項参照)。なお、先に紹介した株式会社の出資者(株主)は、有限責任を負っています(会社法104条)。
第3 合同会社について
1 合同会社の位置づけ
平成17年に会社法が制定されるまでは、企業をしようという人には次のような選択肢がありました。
<平成17年会社法改正以前の会社の類型>
会社の規模 | 出資者と経営者の関係 | 出資者の責任 | 会社の類型 |
大規模 | 「所有と経営の分離」 | 有限責任 | 株式会社 |
小規模 | 「所有と経営の分離」 | 有限責任 | 有限会社 |
「所有と経営の一致」 | 無限・有限責任混在 | 合資会社 | |
無限責任 | 合同会社 |
しかし、平成17年の会社法制定に伴って、有限会社は設立することができなくなりました(詳しくは、コラム「有限会社と会社法」を参照)。そうすると、出資者が有限責任しか負わない小規模な会社を設立したいと考える人の選択肢が奪われることになります。そこで、有限会社に代わる会社の類型として導入されたのが「合同会社」です。
合同会社は、持分会社としての特徴を有する一方で、上記のような導入経緯から株式会社と類似する特徴も併せもっています。そこで、合同会社の特徴を、持分会社としての側面と、株式会社的な側面の双方から説明したいと思います。
2 持分会社としての側面
株式会社の場合、出資者は出資額に応じて会社から利益が分配され、会社に対する影響力にも差異が生じます(詳しくはコラム「株主の権利」)。これは会社法制定前の有限会社でも同じことでした。
これに対して合同会社というのは、出資者の出資額によって異なる取扱いが生じることを予定していません。すなわち、100万円出資した人も500万円出資した人も、“出資をした”という事情があれば、出資者をどのように取り扱うかは定款で自由に決めることができます。例えば、株式会社と同様に出資額に応じて利益の分配をすると定めることもできますし、出資者間は全て平等に取り扱うことにすることもできます。これは、小規模な会社を前提に、会社に対する貢献は、出資した額ではなく出資者の個性に着目して評価できるようにしたためです。
3 株式会社的な側面
一方で合同会社には、合名会社・合資会社と異なり、以下のような株式会社に類似する特徴を有しています。
- すべての出資者が有限責任しか負いません(会社法576条4項、580条2項)
- 出資者は、金銭や財産の提供という出資方法しか認められません(会社法576条1項6号参照)
- 会社の設立の際、出資を行おうとする者は、原則として、合同会社の設立登記時までに、出資の全てを行わなければなりません(会社法578条)
- 出資者に対する利益の配当には常に上限があります(会社法628条)
- 出資者に認められる投下資本の回収方法が次のとおり制限されています
→出資の払い戻しは原則できません(会社法632条1項)
→退社に伴う持分の払い戻しには債権者異議手続が必要です(会社法632条)
4 合同会社を選択することのメリット・デメリット
現在、設立される会社のほとんどは株式会社と合同会社が占めています。最後に、合同会社を選択した場合、株式会社と比較してどのようなメリット・デメリットがあるかを列挙します。
<合同会社のメリット>
- ① 迅速な業務の実現が可能
出資者が自ら業務執行を行うという建前なので(会社法590条1項参照)、株主総会や取締役会のような手続が不要で、迅速な意思決定および業務の執行を行うことができる - ② 設立にかかる費用が安い
設立にかかる費用が安い株式会社が15万円なのに対して、合同会社は6万円。また株式会社設立に必要な定款認証が不要なので、その費用(5万円)もかからない。 - ③ 利益の配当や経営方法の自由度が高い
利益の配当や経営方法の自由度が高い役員の任期がないので、定期的な選任手続が不要で、経営方針を継続させることが可能
<合同会社のデメリット>
- ① 出資者同士で意見の対立が生じると、会社の意思決定および業務執行がマヒするおそれがある
- ② 株式の発行のような資金調達の手段がない
- ③ 株式会社と比べると、知名度がない
以上