組織再編とは
第1 はじめに
コラム「会社法ってなに?」で、法律上会社という存在は、いわばロボットのようなものだと説明しました。さて、皆さんが特撮やアニメで観たロボットは、必ずしも単独で活動しているものばかりではないかと思います。たとえば、「ロボットが合体して1つの別のロボットになる」「ロボットの一部が、別のロボットの武器になる」といったシーンを観たことがあることでしょう。このように、あるロボットが、他のロボットと協力するのは、これによって今までなかった機能が付加され、ロボットの目的(特撮ものやアニメでは敵の退治)をよりやりやすくなる、というメリットがあるからです。
会社法の世界でも同様のことがあります。すなわち、会社の目的を達成するために、他の会社と協力して、今までにない機能を発揮することは想定されており、会社法上1つの制度として用意されています。この制度のことを、講学上「組織再編」と呼んでいます。以下、このコラムでは、「組織再編」と呼ばれるものの概要について説明します。
なお組織再編の他に、事業譲渡(会社法467条参照)や組織変更(会社法744条以下)などがあります。これらも、元々の株式会社とは異なるものになる、いわば“変形”する点で組織再編と共通します。制度の詳しい内容については、コラム「組織再編と事業譲渡」で説明します。
第2 組織再編の種類
一般的に組織再編と言われているものは、「合併」「会社分割」「株式交換・株式移転」の3つに大別されます。以下、それぞれがどのようにして会社というロボットに、新たな機能を付加するのかを説明します。
1 合併
「合併」とは、2つ以上の会社は1つの会社になることをいいます。株式会社というロボット同士が、まさに“合体”して全体として1つのロボットになる場面を想像して頂ければいいでしょう。
会社法上、合併には2つの類型があります。
まず、あるロボット(A)が、他のロボット(B)に組み込まれる形式です。この場合、Aは、Bを構成するパーツとなり、Aの原形をとどめることはありません。このように、ある会社が既存の他の会社に取り込まれるようなものを、「吸収合併」と言います(会社法2条27号)。そして、合併によって原形の残らないAのような会社を「消滅会社」、合併後も存続するBのような会社を「存続会社」と呼びます。
もう1つは、ロボット同士(AとB)がそれぞれ形を変えて、新たに1つのロボット(C)を構成する形式です。この場合、AとBはともにCを構成するパーツとなり、その原形をとどめることはありません。このように、複数の会社が新たに設立された会社に組み込まれるようなものを「新設合併」と呼びます(会社法2条28号)。そして、新設合併によって出来上がったCのような会社のことを「新設会社」と呼びます。
2 会社分割
会社分割とは、ある会社が、その会社の「事業に関して有する」権利義務の全部又は一部を、他の会社に承継させることを言います。分割をする会社が、分割後も存続している点で、合併とは異なります。例えるなら、ロボットの一部分が外れて、他のロボットに組み込まれるようなものでしょう。
会社法上、会社分割についても2つの類型があります。
まず、あるロボット(A)を構成するパーツの一部が外れて、既存の他のロボット(B)に組み込まれる形式です。このように、いわば会社のパーツを既存の会社に承継させるものを「吸収分割」といいます(会社法2条29号)。そして、Aのように会社の権利義務の全部又は一部を他の会社に承継させる会社のことを「分割会社」、Bのように吸収分割によって他の会社の権利義務の全部又は一部を取得する会社のことを「承継会社」と呼びます。
もう1つは、ロボット(A)を構成するパーツが、単体で又は他のロボット(B)のパーツと結合して、それ自体新たにロボット(C)として活動する形式です。このように、いわば会社のパーツを取得して、独立して活動を開始する会社を新たに設立するものを「新設分割」と呼びます(会社法2条30号)。そして、新設分割によって出来上がった会社のことを「設立会社」と呼びます。
3 株式交換・株式移転
合併や会社分割が、会社というロボットの外形に変化が伴うのに対して、株式分割及び株式移転にはこのような変化は伴いません。株式交換及び株式移転は、株式という制度を介して、ある会社が他の会社の「所有者」(=株主)となって、その活動を完全に支配する“システム”を構築する手続です。どのような原理で、そのような“システム”が構築されるのか、もう少し詳しく説明しましょう。
株主が株式会社の「所有者」であって、株式会社の活動に関して重要な意思決定を行うことはコラム「株主の権利」及びコラム「会社の機関」で説明をしました。仮に株式会社の発行する全ての株式を特定の者に取得させれば、その者は当該株式会社の完全な「所有者」となり、当該株式会社を意のままに扱うことができます。発行済株式の全てを取得する者を作り出す手続が、株式交換・株式移転という “システム”の原理です。このうち、既存の会社間でこの “システム”を構築する手続を「株式交換」(会社法2条31号)、新しく設立する株式会社が「所有者」となる“システム”を構築する手続を「株式移転」と呼びます(会社法2条32号)。なお株式交換又は株式移転の結果、ある会社の発行済株式の全てを取得した株式会社を「完全親会社」、その株式を発行する会社を「完全子会社」と呼んでいます。