特許法ケーススタディその6 部品の下請事業者などへの対処法
- <前提となる事実>
Aさんは、家電の製造・販売を行うB社の従業員で、商品開発部に勤務しています。
Aさんは、従来の製品と比べて、低コストでかつ浄水能力の高い浄水ポットαの開発に成功しました。
B社は、就業規則に基づきAさんから浄水ポットαの特許を受ける権利を譲り受けました。そして、B社は、浄水ポットαの特許出願を行い、何の問題もなく浄水ポットαの特許権を取得しました。
B社は、特許権取得後、浄水ポットαの製造・販売を開始しました。当初は順調に売り上げを伸ばしていましたが、ある時点から売り上げが減少していきました。調査をしてみると、ライバル会社のD社が浄水ポットαの設計と全く同一の浄水ポットβを製造・販売しており、これによって売り上げが減少したことが分かりました。
Q6. B社がさらに調査を行うと、D社は、浄水ポットαおよびβの製造に不可欠な特殊な部品Xを、E社に発注していることが分かりました。
このような場合に、B社はE社に対して、どのような請求ができますか?
- 本件のポイント-
- 直接侵害の予備的・幇助的行為への対応
第1 はじめに
E社の部品Xの製造行為は、いわば浄水ポットβの製造行為の一部を分担するようなものです。このような行為は、コラム「特許法ケーススタディその4 勝手に特許発明を利用された場合の対処法」で説明した原則類型はもちろん、コラム「特許法ケーススタディその5 類似商品への対処法」で説明した実質的には同一の製品の製造だと言えるような行為でもありません。しかし、部品Xは、浄水ポットβを製造するのに必要不可欠な部品ですから、このまま放置すれば部品Xが他の会社に譲渡されて、浄水ポットβのような模造品が再び製造・販売されるおそれがあります。B社の特許権を保護するためには、このような特許権侵害の可能性のある“根っこ”も絶つ必要があるでしょう。
そこで特許法は、特許権侵害を惹起する蓋然性の高い行為についても、特許権侵害とみなして排除することができることにしました(特許法101条参照)。特許法101条によって侵害とみなされる行為のことを、「間接侵害」と呼びます。以下、間接侵害について詳しく説明します。
第2 間接侵害の類型
特許法101条では、大きく分けて3種類の行為を間接侵害と定めています。
①専用品に関する行為(特許法101条1号・4号)
1つ目は、物の発明であればその物の生産に、方法の発明であればその方法の使用に「のみ」用いる物(専用品)を生産したり譲渡したりする行為です。
ここにいう専用品とは、経済的・商業的に実用性のある用途がない物のことを言います。抽象的には他の用途があるとしても、社会通念上想定されるような用途でなければ専用品とは言えません。
②多機能品に関する行為(特許法101条2号・5号)
2つ目は、専用品ではないけれども、物の生産または方法の使用に「不可欠なもの」、いわゆる多機能品を生産したり譲渡したりする行為です。
ここにいう多機能品とは、他の用途も認められるけれども、これを用いることではじめて発明の作用効果が得られるような物のことを言います。ただし、多機能品にあたる物全てについて差止請求を認めてしまうと、他の用途の道を閉ざしてしまうことになります。そこで、多機能品の生産・譲渡が侵害とみなされるのは、その多機能品が日本国内で広く流通する物(汎用品)でなく、かつ多機能品の生産・譲渡を行う者がその物が特許発明の「実施」に用いられることを知っている場合に限定されます。
③模倣品の拡散準備行為(特許法101条3号・6号)
3つ目は、発明品を譲渡したり輸出したりする目的で、発明品を「所持」する行為です。
「所持」とは、その物を事実上支配下に置いておくことを言います。特許権者は模倣品の譲渡・輸出行為を差し止めることができても(特許法100条1項)、譲渡・輸出された模倣品を取り戻すことはできません。そこで特許法は、模造品が拡散するのを未然に防ぐために、譲渡・輸出がなされる前段階の行為を侵害とみなすことにしました。
第3 本件の帰結
本件では、部品δは浄水ポットαおよびβに必要不可欠な物です。部品δが浄水ポットαおよびβの製造以外に用途がないのであれば、部品δは専用品にあたりE社の行為は間接侵害と認められます。仮に専用品でないとしても、多機能品として間接侵害が認められる可能性はあるでしょう。E社の行為が間接侵害と認められれば、B社は差止め請求(特許法100条1項)や損害賠償請求(民法709条)などをすることができます。