意匠法ケーススタディその1 意匠権を取得するには

<前提となる事実>
Aさんは、家具の製造・販売を行うB社に勤めています。このたびAさんは、他に類例のない個性的なデザインの椅子αをつくりました。B社は、椅子αは必ずヒットすると見込んで大量生産を開始しました。その後椅子αは、B社の見込み通り、その斬新なデザインが話題を呼び、発売されるとたちまち人気商品となりました。
Q1. B社は販売を開始する前に、椅子αの意匠登録をしようと考えています。
B社が椅子αについて意匠登録を受けるためにはどのような手続が必要でしょうか?
本件のポイント-
意匠権の取得手続

第1 意匠とは

人が頭の中で考えて創造したもののうち、物の形状や模様・色彩から独自性を感じられるもの、すなわち「デザイン」のことを法律上「意匠」と呼んでいます(意匠法2条1項)。物のデザインは、私たちの生活を豊かにする物品の機能や美観を向上させる点で、大変価値のあるものです。例えば、しゃもじのデザインとして、表面に細かな凹凸をもたせれば、米粒が付着しにくいという機能をもたせることができます。また、ウイスキーのボトルのように、それ自体美観を感じられ、一種の「ブランド力」をもつ場合もあります。このように価値のあるデザインを創造した人を保護するためにつくられたのが意匠制度です(意匠法1条参照)。

第2 意匠権を取得するまでの流れ

1 願書を提出する

まず願書に意匠登録を受けようとする図面を添付して、特許庁の申請窓口に提出を行います(意匠法6条1項)。

なお、意匠の登録出願をすることができるのは、出願するデザインを創作した者が原則です(意匠法3条柱書参照)。もっとも、そのデザインの創作が職務としてなされていた場合には、デザインの創作をした者の使用者は、自ら意匠することができるときがあります(職務意匠制度)。この制度は、特許法における職務発明制度と同一ですので(意匠法15条3項、特許法35条)、詳しくはコラム「特許法ケーススタディその3 従業員の発明について」を参照してください。

2 特許庁による審査を受ける

さて、上記願書の記載方法に問題がなければ、特許庁はその意匠について、意匠権という独占権を与えても良いものかを審査します。この審査は、意匠法17条に列挙された意匠権を認めることができない事由(以下、「拒絶事由」)が存在するか、と言う観点で行われます。拒絶事由の一例としては、以下のようなものが挙げられます。

①意匠法上の「意匠」にあたるか(意匠法2条1項)

冒頭でお話ししたとおり、「意匠」とは「物品…の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であつて、視覚を通じて美感を起こさせるもの」と定義づけられています。ここで注意すべき点は以下の2点です。

まず形の定まらないものは「物品」にあたらず、意匠法上の保護の対象外です。例えば、花火の火花や最近話題のプロジェクションマッピングなどは、「物品」にはあたりません。

次にその物を使用した人が視覚で捉えることができないデザインは、「視覚を通じて美観を起こさせるもの」にあたらず、意匠法上の保護の対象外です。例えば、肉眼で確認できない精密機器や物品の内部構造それ自体は、意匠とはいえないと判断される可能性が高いです。

②「工業上利用することができる」ものか(意匠法3条1項柱書)

簡単に言えば、「同じものを大量生産可能か?」という観点です。したがって、一品製作の美術品や天然物の形態を利用した物品などは大量生産可能とはいえないので、意匠法上は保護されません。

③今までにない新しいものか(新規性、意匠法3条1項列挙事由)

既に世の中に知られている意匠と同一・類似の意匠は保護されません。

④容易に考え出すことができないものか(意匠法3条2項)

既に世の中に知られた意匠を組み合わせただけのものなど、簡単に思いつきそうな意匠は保護されません。

⑤同一の意匠について先に出願している人はいないか(先願主義、意匠法9条1項)

⑥公序良俗を害するなど意匠登録による特段の不都合がないか(意匠法5条)

審査の結果、拒絶事由が認められない場合には、「意匠登録査定」が行われます(商標法18条)。そして、登録料を納付(意匠法42条1項)することで、意匠権の設定登録がなされて、はれて意匠権を獲得することになります(意匠法20条1項2項)。

仮に拒絶事由があるとされても、意見を述べ内容を補正する機会が与えられ(意匠法19条、特許法50条)、補正を行った結果、拒絶事由が解消されれば商標権を獲得することができます。

第3 本件の帰結

本件の場合、「類例のない個性的なデザイン」の椅子ですので、意匠登録できる可能性は高いです。もっとも、デザインが実際に登録できるか否かはケースバイケースです。デザインの出願をする際は、事前に一度専門家である弁理士に相談するといいでしょう。

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