商標法ケーススタディその2 勝手にブランドを利用された場合の対処法

<前提となる事実>
 Aさんは、老舗和菓子店「あべ」を営んでいます。「あべ」は埼玉県に1店舗しかない小さな店ですが、地元では和菓子がおいしいと評判のお店です。
 この度「あべ」の和菓子が埼玉の銘菓に選ばれ、埼玉県周辺地域で話題になりました。そこでAさんは、これを機に「あべ」ブランドを全国に広めようと考えました。
 検討の結果、Aさんは商標登録手続を行い、無事指定商品を「和菓子」として「あべ」の商標登録を受けることができました。
 その後、埼玉県の大手製菓メーカーのB社が、Aさんに無断で自社の和菓子商品に「あべ」という商標を付して、製造・販売を開始しました。
Q2.ケース2の場合に、AさんはB社に対して、どのような請求をすることができるでしょうか?
また、①B社の用いる商標が「アベ」だった場合、②製造・販売しているのが洋菓子であった場合はどうでしょうか?
本件のポイント-
商標権侵害の原則類型

第1 はじめに

コラム「基礎編③ 知的財産権の侵害」でもお話ししたとおり、B社の上記行為がAさんの商標権を侵害するものであれば、AさんはB社の上記行為を差し止めることができます(商標法36条1項)。同時に、製造した物を廃棄させ(商標法36条2項)、Aさんが被った損害を賠償するよう請求することもできます(民法709条)。損害賠償を請求する場合に、商標法が定めた計算式にしたがって算定した額を、損害額として請求することができます(商標法38条参照)。また、必要があれば、Aさんの和菓子と誤認させる表示をしたことについて謝罪広告を出させることもできます(商標法39条、特許法106条)。

では、どのような場合に商標権侵害になるでしょうか?以下、商標権の侵害の有無についての基本的な考え方を紹介します。

第2 商標権侵害の基本的な考え方

1 商標権=独占権との考えからのアプローチ -専用権-

商標権というのは、ブランド力の使用を独占する権利のことをいいます。この使用を独占する権利のことを、講学上「専用権」といいます。そして商標の使用が専用権の範囲内の場合、言い換えれば、「他人が、商標権者が独占している商標の使用態様をそのまま行った」といえれば、商標権侵害だと言えることは疑いがないと思います。

ところで、法律上の専用権の内容、すなわち商標権者が独占できることというのは、商標出願の際に願書に記載した商品又は役務(以下、「指定商品・役務」)について、登録商標を「使用」(商標法2条3項)することです(商標法25条本文、27条1項)。したがって、他人が、指定商品・役務と同一の商品・役務について、登録商標と全く同一の商標を「使用」することは、専用権の範囲内の行為といえますから、商標権侵害が認められます。

2 商標法=ブランドを保護するための制度との考えからのアプローチ -禁止権-

さて、上記の説明からすると、指定商品・役務または登録商標のいずれかが同一でなければ、専用権の範囲から外れることになります。そうすると、指定商品・役務を変えたり、登録商標に少し手を加えたりすれば、商標権侵害は認められないことになってしまいます。おそらくこの結論はおかしいと思うことでしょう。

そこでアプローチの仕方を変えてみたいと思います。そもそも商標法は、登録された態様での商標の使用を独占させることを通じて、商標の有する「信用」、すなわち「ブランド力」を保護する趣旨です(商標法1条参照)。そうすると、専用権の範囲外の行為であっても、実質的に商標権者の有するブランド力を利用していると評価できるようなものについても、商標権侵害を認めた方が者の権利行使を認めた方が、商標法の趣旨に適うことになります。そこで商標法は、専用権の内容と“似ている”(以下、「類似」)行為も、商標権の侵害とみなして禁止することができることにしました(商標法37条1号)。この類似行為を禁止できる権利のことを、「禁止権」といいます。

ここにいう「類似」のパターンは、①使用されている商標が類似する場合と②指定商品・役務が類似する場合の2つがあります。そして、どちらの類似性の判断も、取引の実情に照らして「これは○○のブランドだ」と誤認混同するおそれがあるかという観点から行われます。また商標の場合は、「見た目が似ているか」(「外観」)、「呼び方が似ているか」(「呼称」)、「商標から得られるイメージ・意味内容が似ているか」(「観念」)という3つの要素を考慮しています。

以上の説明まとめますと、商標権侵害が認められる場合と認められない場合というのは以下の表のようになります。

登録商標(ブランド)
同一 類似 非類似
指定商品・役務 同一 ○(専用権) ○(禁止権) ×
類似 ○(禁止権) ○(禁止権) ×
非類似 × × ×
※禁止権の効力についての注意点

禁止権の効力は、あくまで商標権者の登録商標と類似する商標の使用や、指定商品・役務と類似する商品・役務での登録商標または類似する商標の使用を禁止するものに過ぎません。つまり、商標権者自ら禁止権の範囲にあたる行為を行うことは許されていないことになります。仮に、意図して禁止権の範囲にあたる行為を行ったことにより、消費者に商品・役務の品質を誤認させたり、他人の商品・役務と混同させたりした場合には、商標登録が取り消されるおそれがあります(商標法51条1項)。軽い気持ちで専用権の範囲を超えた商標の使用をすると、手痛いペナルティを受ける可能性があるので注意しましょう。

なお登録商標の使用許諾を受けた者が、商標権者の専用権の範囲を超えた商標の使用を行った場合も、同様に商標登録が取り消されるおそれがあります(商標53条1項参照)。商標権者は、登録商標についてライセンス契約を締結するときは、相手方に使用態様を遵守させるよう十分注意しましょう。

第3 本件の帰結

本件では、B社が使用している商標が「あべ」で、B社が販売する和菓子に商標を付していることから、Aさんの専用権の範囲内です。よって、Aさんの商標権に対する侵害があると認められます。

派生事例①は、B社が使用している商標が同一ではないため、専用権の範囲内とはいえません。しかし、①の「アベ」という商標は、「あべ」という登録商標と呼称が同一です。この点を重視すれば、ブランドの誤認混同のおそれがあるとして商標の類似性が認められ、商標権侵害が認められる可能性があります。

派生事例②は、B社が「あべ」という商標を使用している商品が洋菓子で、指定商品と同一はないため、専用権の範囲内とはいえません。この点、洋菓子も和菓子も同じく「加工した植物性の食品」(商標法施行令1条、別表第30類)に区分されるものであることを重視すれば、指定商品の類似性が認められ、商標権侵害が認められる可能性があります。もっとも、「商品及び役務の区分」というのは、類似範囲を決定する絶対的な基準ではありません(商標法6条3項)。老舗洋菓子店「あべ」と大手製菓メーカーB社とでは、商品の販売径路や需要者の範囲が違うとすると、ブランドを誤認混同するおそれがないと判断される可能性もあります。

このように類似性の判断は非常に難しいもので、裁判実務でもっとも争点となるポイントです。「商標権侵害ではないか?」との疑問を抱いた際は、一度専門家である弁理士や弁護士に相談することをおすすめします。

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