雇用契約に付随する義務①

第1 はじめに

雇用主と従業員は、雇用契約を結ぶことでお互いにいろいろな義務を負います。その代表的なものが、従業員の労働義務と雇用主の賃金支払義務です。これらの義務に加え、雇用契約書に明示されていませんが、雇用契約に付随して実務上認められている各種の義務が存在します。今回のコラムでは、これらの義務について触れていきたいと思います。

第2 雇用主側の義務

1 安全配慮義務・健康配慮義務

雇用主の負う義務としては、まず、①従業員の生命・身体の安全を確保するよう配慮する安全配慮義務や健康配慮義務(労働契約法5条)があります。

この義務が問題になるのは、過労死や過労自殺、職場で従業員がケガを負った場合ですが、この義務は雇用主にとって非常に重要なものですので、コラム「雇用契約に付随する義務②-安全配慮義務」で詳しくお話します。

2 職場環境配慮義務

雇用主が負う次の義務は、②従業員の人格が損なわれないよう働きやすい職場環境を整える義務(職場環境配慮義務)です。

この義務は、社内でセクハラやパワハラの被害が発生した場合に問題になることが多いです。

セクハラやパワハラの防止については、雇用主として行うべき対応がいくつかあります。その点はコラム「セクシャル・ハラスメント」コラム「パワー・ハラスメント」を参照してください。

3 その他の義務

雇用主が負うその他の義務として、③転居を伴う配転・出向の際に労働者の負担が少なくなるよう配慮する、整理解雇に際して解雇以外の手段をとる、といった努力をする義務(労働契約法3条4項)があります。

これらの義務についても、義務違反があると損害賠償責任を負うことになりますので、各々の場面でしっかりと対応することが必要です。

第3 従業員側の義務

1 秘密保持義務

従業員が負う義務としては、まず①秘密保持義務があげられます。秘密保持義務とは、簡単にいうと、仕事を通じて知った企業秘密を外部に漏らさない義務です。

(1) 営業秘密

企業秘密の一つである「営業秘密」の保持については、不正競争防止法が規定しており、これによって従業員は在職中・退職後を問わず営業秘密を漏らしてはいけない義務を負います。従業員がこれに反した場合には、会社は、営業秘密の不正な使用・開示の差止め(不正競争防止法3条)、損害賠償(不正競争防止法4条)、信頼回復措置(不正競争防止法14条)を請求することができます。また、従業員に刑事罰が課されることもあります(不正競争防止法21条1項)。

(2) 営業秘密にあたらない企業秘密

就業規則で就業中・退職後を問わず秘密保持義務を負うことを規定している会社が多いと思います。研究やシステム開発など、高度に専門的な知識を扱う会社で、もしこのような規定がない会社がありましたら、雇用主の方は直ちに就業規則の改定を検討してください。

この規定が合理的であれば従業員には秘密保持義務が課されます。そして、規定が合理的であるといえるためには、東京地裁平成24年3月13日判決を参考にすると、秘密保持の対象を明確にすることが必要です。

そこで、雇用主の対応としては、就業規則の規定をしっかり整備すること、裁判になった場合に備えて社内のセキュリティ体制を強化し、誰がいつどの情報にアクセスしたかを追跡できるようにしておくこと、が必要であると思います。

2 競業避止義務

次に従業員が負う義務として、②競業避止義務があります。競業避止義務とは、従業員が就業中・退職後に雇用主と競合する事業活動を差し控える義務をいい、競合他社への転職や取締役就任のときなどに問題となります。

この競業避止義務は、在職中については、就業規則などに特別の定めがなくても信義則上当然負うものとされています。一方で、退職後については、特別の規定がある限り認められると考えられています。

そこで、退職後も競業を禁止するため、「退職中及び退職後●ヶ月間、会社と競合する他社に就職及び競合する事業を営むことを禁止する。」というような規定を就業規則に置いている会社が多いのではないでしょうか。

もっとも、このような競業避止義務は従業員の職業選択の自由を制限するものですから、無制限に認められるものではありません。裁判例によると、競業避止義務を負わせる必要性、当該従業員の地位・職務、対象業務・期間・地域、代償措置の有無等の諸事情を総合考慮して競業避止規定の有効性が判断されます(奈良地裁昭和45年10月23日判決-フォセコ・ジャパン・リミティッド事件)。

競業避止義務違反が認められた場合、損害賠償請求とともに、競業行為の差止めが認められることもあります。ただし、競業行為の差止めが認められるハードルはかなり高く、放置しておくと回復しがたい損害が生じるという事情が必要であると考えられています。

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